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つむぎとうか

   
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しあわせな王女

パラレル。KAITO→←Lily。
リリーの妹がリンだったりします。
何でも許せるという方、どうぞ。


 黄金の髪、紺碧の瞳、端正な顔立ち。
 美貌の噂は近隣諸国まで響き渡り、豊かな大国の王に見初められた。
 誰もが彼女を“幸福の姫君”と称えたーー


 「お姉さまったら、聞いてる?」
 愛らしく頬を膨らませるのは妹のリンだ。
 「わかってるわよ、今夜のパーティーの支度、でしょ?」
 「そろそろ準備しなきゃ間に合わないわ」
 今宵の宴は特別なもの。掌中の珠の如く慈しまれた第一王女が嫁ぐ前夜なのだから。
 明日の早朝、姉は他国へと出立するのだ。
 「あらリン、寂しいのかしら?わりと遠方だから、あまり里帰りも出来なくなるのよね」
 「私は別に平気よ」
 冷たく澄ましてみる。姉妹仲は悪くはないが、外面が素晴らしい姉はストレスが溜まると妹を苛めるので、それほど感傷も深くないのである。
 「その猫、向こうでも大事に飼っててよね。本性ばれて出戻りとか恥ずかしいんだから」
 「ふふん、父様や母様さえ見破れないのに?」
 彼女の猫被りは完璧だった。
 お転婆王女として時折叱られるリンだが、木登りも放浪癖も元はといえば姉が仕込んだものだ。
 コンコンと、扉を叩く音がした。
 「姫様方、衣装は調いまして?」
 「はい、しばしのお待ちを」 
 しずしずと告げる。使用人たちの間でも、淑やかな美女と評判たる所以だ。
 姉が気を抜くのは、リンを除けばもう一人、
 「あの忠実な騎士殿だけね」
 他意がなかったと言えば嘘になる。
 口にするだけで姉の余裕が消える相手。王女の腹心として影に日に仕えた男。
 「その縁も今夜限りよ」
 ーー全てを置いてゆくのだから。
 部屋を退いて舞踏会場へ向かう直前、振り返ると。
 花の綻ぶような笑顔を、少しだけ曇らせているのが見えた。
 頼りなげな少女みたいに。

 

 つつがなく晩餐を終えた夜半。
 「お疲れですね」
 「いいわね、あなたは参加義務がなくて」
 八つ当たりですかと指摘され、脱いだ窮屈な靴を投げつける。楽々とかわされてしまったけど。
 自室に妙な存在感で居座るのは、妹曰くの“忠実な騎士”だ。あの子もわかってないと、彼女は溜め息をついた。
 第一王女の心証が頗る良いのは、この男が巧く立ち回ってきたことも要因として挙げられる。どうだっていい、そんなことは。
 ただの義務感でやっているのに過ぎないのだろうから。
 『王女のためなら、生命さえ投げ出しましょう』
 ーー“私”じゃなくても、そうするのよね?
 皮肉のつもりが真面目に頷いた男。
 「鬱陶しい顔とも明日にはお別れかと思うと、ちょっと嬉しいわ。あなたときたら、結局個人的な願いは叶えてくれなかったものね?」
 騎士は答えなかった。飄々と青い瞳を揺らしただけだった。
 王家の益にと、数え切れぬ功を立ててきた男。でも、幼い頃から王女がせがんできた事は無視し続けた。
 ささやかな望みだったのに。
 「じゃあね、カイト。忠誠も捨てるのね」
 これからも、しっかり王家に尽くすのよーー
 誇り高く言い切ろうとしたのに、語尾は震えてしまっていた。

 『かいと、私のことを名前で呼んで』
 『駄目です。俺は姫様に仕えるだけですから』
 長い間、ずっと側に居た。関係を変えたくなどなかった。
 いちどでも口にしたら終わりだと知っていた。
 彼女は彼の総てだったから。

 「さよなら、リリー」
 貴女の願いを聞き届けられたら良かった。
 どうか、幸せに生きて下さい。
 一人きりになってようやく、大切な名前を放つことが出来た。
 何度も何度も。

 

与えられ得る限りの祝福と名誉を授けられた、神に愛された王女がひとり。
本当に欲しかったのは、好きな相手と添い遂げる生涯だったのに。

愛して、いました

 
終わり
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