忍者ブログ

つむぎとうか

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

終わりの鐘は、高く Ⅱ
パラレル・女体化・死にネタ注意。舞台はどこか外国。時臣と凛と桜が姉妹。

 新たに引っ越した遠坂邸に、やたらと着飾った青年が訪ねてきたのは年の瀬だった。

 玄関先で執事のように応対した綺礼に、不快さを隠そうともせず眉を顰めた。
「彼ですか、貴女方が唯一頼りにしている管理人というのは」
 案内した居間で、時臣の淹れた折角の紅茶にも関心を払わず、高圧的な態度で口火を切った。
「そうですけど、何を仰有りたいんですか?」
 いつも薄く微笑んでいる時臣が、珍しいことに表情を消している。苦手な人物に相対する時はいつもそうだ。
「いいえ。ただ、噂が立ちやしないかと心配になりましてね。遠坂ともあろう者が、先祖伝来の屋敷を手放して、小さな家に若い男を囲っている、だなんて」
 豪奢な身なりをしているくせに、下卑た憶測をする。言動が品位まで貶めているようだと、後ろに控えながら綺礼は思った。
「綺礼とは、歴とした雇用関係にあります。身元だって信頼に足る青年です。それでなくても、部外者の貴方が気になさることではありませんよ」
「随分と冷たいですね、婚約者殿?」
 いやらしく笑んで、対面の時臣に向けて腕を伸ばす。
「その話は数年も前に立ち消えました。両親が死んで、負債が判明した時点で、貴男は私との縁談を無かったことにしたでしょう?」
「おお、あの頃の私は浅はかでした! 未熟だったから、心痛の貴女たち姉妹を支えてあげられる自信もなく、ただそっと離れるしか出来なかったのです――それにしても、、美しく成長なさいましたね」
 さりげなく拒絶しようとする時臣の両手を強引に握り、歯が浮くような台詞を並べていく。
 嫌悪の情を必死に抑える彼女を見ていられず、綺礼は青年の方へつかつか寄って行った。
「失礼致します、主の体調が優れぬようですので」
 貴族然とした細い手首を掴めば、青年はあからさまに顔をしかめ、吐き棄てた。
「触るな、下賤が。身分を弁えぬか!」
 構わず引き剥がすと、大声を聞きつけた凛がやって来て、きっぱり告げる。
「わかってらっしゃらないのは、どなたでしょう。ここは、遠坂時臣が邸。姉に無体を働く方は、速やかに出て行ってくださいますか?」
 凛の、幼いながらも有無を言わせぬ迫力に気圧されて、青年は悔しげに俯いた。
「どうぞ、お引き取りください」
 解放されて余裕を取り戻した時臣が重ねて膝を折ると、舌打ちしながら慌てて出て行った。



「お姉さまを守ってくれてありがとう」
 青年が去った後もしばらくドアを睨み続けていた凛は、第一声で綺礼を労った。
「いや、差し出がましいことをしました。大丈夫ですか? 師よ」
 向かい合う格好になった時臣は小刻みに震えていて、綺礼は無意識に彼女の輪郭をなぞっていた。
 少しでも安心して欲しくて。
「助かったよ、綺礼。あの方は自信過剰というのか、相手の反応を気にしないところがあって」
「婚約者、と名乗っておいででしたが」
 僅かに荒げた声に、時臣の頬がびくりと引き攣る。綺礼自身も驚いていた。
 己が、わかりやすく嫉妬を覚えていることに。
「あの男はね、話術は巧みなのよ。お父さまとお母さまに取り入って、まんまとお姉さまの夫になる約束を取り付けたわ。そのくせ、遠坂の内情を知ってあっさり破談を提案したの! 良くもまあ顔を出せたものだわ」
 凛は覚えている。時臣は従順に両親の言葉を呑もうとしたが、本当は婚約相手のことを好きになれずに苦しんでいて。
 どれほど嫌でも、誰にも縋ろうとしなかった。
(でも、今のお姉さまは違う)
 五人家族でたくさんの使用人がいた頃の生活は、遠い幻になりつつある。
 父母は大好きだし、不自由さは全くなかった。けれど、恵まれていた日々と、両親逝去後に一変した暮らしを比べても、決して不幸にはなっていない。
 ……綺礼が来てから、姉は昔以上に楽しげに笑うようになった。
 だから、凛も桜も同じ願いを抱えている。
(どうせ時間の問題なんだから、早く告白しちゃえば良いわ)
 綺礼からでも、時臣からでも。近くに居る凛と桜には相思相愛なことが丸分かりだった。この二人がくっつけば、新しい家族として歩きだせる。
 三年経っても、どちらも言い出さないあたりがもどかし過ぎるのだ。



PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カウンター
Copyright ©  -- 紡橙謳 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]