つむぎとうか
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妹を応援する凜ちゃんの話
年齢操作・捏造設定注意。
その人の話をする時、妹はとても幸せそうだった。
実を言うと、凜はちょっとだけ負い目に感じていたのだ。自分が風邪を引いてしまったせいで、堅苦しいパーティーの席に桜が駆り出されてしまった。年子の妹は家族には我が儘だって言うけれど、知らない大人にはあまり耐性がない。
跡継ぎと定められた日から、凜は自分の役目というものをわかってこなしてきたつもりだ。幼さを言い訳にしないよう、矜持を抱いて。それでも、体調管理までは完璧に出来なかった。
自室のベッドで熱と闘い、だいぶ楽になった頃に両親が様子を見に来た。入れ違いに桜が。
『お姉ちゃん、ただいま』
『おかえり、桜。私の代わりにごめんね』
てっきり疲れた顔をしていると思っていた妹の声が弾んでいるので、楽しいことでもあったのだろうか。行く時はドレスに合わせてきれいに結んでいた髪型が崩れてしまっているけれど。
そして、後ろ手に何かを携えている。じっと待ってみると、魔法でも見せびらかすように突きだしたのは、
『……どうしたの、これ』
『お見舞い、だって。私にもお揃いのをくれたんだよ』
細長い箱を逆さに、広げた手のひらに深紅のリボンが降らされた。普段はツインテールなのを見越したみたいに二本。小学校に入ったばかりの凜には大人びているようだが、散らされたラメがじんわり輝いて、背伸び感はあるが気に入った。
一方、桜がかざしているのは、名前にぴったりの淡いパステルカラーのものだ。さりげなくあしらわれたレースが可愛らしい。
『誰がくれたの? お礼を言わなくちゃ』
『でも、また会えるかなぁ』
首を傾げながら、妹は嬉しそうに教えてくれた。カリヤおじさん、と名乗ったプレゼントの贈り主のことを。おじさん、といえども父母よりはずっと若いらしい。
大人たちにもだが、同年代に対してもあまり心を開かない桜が、珍しいこともあるものだ。
凜は驚きと共にその人の名前を記憶に刻んだ。
『間桐雁夜です』
はじめまして、と目線を合わせて挨拶してきた青年を、穴が空くほど凝視した。
『――あなたがお父様の新しいボディーガード? そして、このリボンをくださった方かしら』
『ああ、使ってもらえてるみたいで良かった』
ありがとう、と示して見せると、黒髪の彼はぱっと笑顔を咲かせた。どう見積もってもおじさんというにはほど遠い。
『桜も、引き出しにしまって大事にしてるのよ。もったいないからって』
『え? そこまで高価なものでもないんだけどなぁ』
くれた人が特別なのではないか、と凜は思った。初対面で妹が懐いたくらいだ、凜に悪印象を与えるはずもない。
遠坂家のボディーガードは住み込みが基本形態なので、雁夜もすぐに広大な屋敷の一室に寝泊まりをはじめた。両親によると彼はまだ十七才なのだそうだ。母の実家近くで昔はよく遊んだ弟のような存在で、家出した所を父に拾われたのだという。
腕っ節はそれほど強くもなかったのだけれど、ボディーガードなんてある程度の訓練を受ければそれなりに務まる。遠坂は敵の多い名家だけれど、優雅を家訓にしてきたので殺されそうな危険には晒されなかった。
もっとも、それは時臣や雁夜が葵たちに必要以上に気遣ったおかげなのかもしれないけれど。とにかく、彼は確実に家族を守ってくれていた。
凜は雁夜のことを、いわば兄のように慕っていた。
ところが、妹は自分よりずっと彼のことを見ていたらしい。
『カリヤおじさん、たまにびくってしてるの』
妙に大人びた表情で桜が打ち明けたのは、思いもよらない雁夜の側面だった。
凜にとっては、いつでも明るく賑やかな青年だったのだけれど、妹には別な顔を見せるのか、あるいは妹が鋭いだけなのか。
弱くて頼りない部分もあるのだと、それすら愛おしそうに告げた微笑を、凜は今でも覚えている。背丈も言動も一年分幼いはずの桜が、まるで年上の女性のように映った。
それからほどなく、妹は他家に望まれ養子へ出された。
両親も決して乗り気ではなかったが、家同士の力関係というのが作用しているらしい。時臣は妻にはもちろん、嗣子たる凜には桜の行き先が間桐だと話してくれたが、雁夜には教えるべきではないと判断したらしい。
雁夜に兄がいると聞いていた時臣は、彼が後継者問題に巻き込まれないために出奔したのだろうと考えていた。葵も幼馴染とはいえ間桐家の内情まではわからず、捨てた実家の名は聞きたくないのかもしれないという配慮を働かせていた。
気遣いが仇となって、桜が酷い目に遭っていることなど誰も想像がつかぬまま、一年が経過した。
何の気なしに葵が発した言葉から、雁夜は幼い少女がどこで暮らしているのかを察し、即座に実家に向かった。
結果として桜は戻ってきた。そして、雁夜は職を辞して遠坂邸から去ってしまった。
凜は事情を知らないから、父母と妹に聞いた断片を組み合わせて推測するしか出来ないけれど、妹が過ごした一年が恐ろしいものだったのは確かだ。
桜は、姉妹お揃いだった髪と瞳の色が変わっていた。救出されてもしばらくの間は口すら開かず、虚ろな視線で宙を見つめていた。
いくら古よりの盟約があろうと、再び間桐へやってはいけない――雁夜の主張を受け止めた葵に凜が加勢し、決死の抗議をしたことが効を奏したのか、時臣は当主よりも親として娘を護る選択を優先させた。
それでも、しばらく間桐からは繰り返しの要請が届いたが、ある時点で諦めたのかぴたり静まった。
雁夜が危惧したのだろう桜の心は、幸い手遅れにならずに済んだ。
長い時間をかけて、自分たち家族には桜が必要であることを伝え、ゆっくりと手放した感情たちを取り戻していった。もし気づかずにいたらと思うとぞっとする。
現在、凜は少々過保護気味な姉となって、時にはけんかもするが平穏な生活を送っている。
幸福の立役者である、一人の男性の行方を知らないままに。
高校の入学式で、凜は新入生代表の挨拶を壇上でこなした。
人前に立つのは慣れたものだ。落ち着き払ってスピーチを済ませ、列に戻り――続く教職員の紹介で、危うく間の抜けた声を上げそうになった。
私立高校は滅多に転勤がない。新しい養護教諭として紹介された彼も、きっと長く勤めることだろう。自分と同じ年に赴任してくるだなんて都合が良い。
放課後すぐ、凜はおそらく第一号の新入生保健室来訪者となった。
「9年ぶりね、おじさん。見た目は変わっちゃってるけど」
どれだけ心配したかを言い募るのは自分の役割ではない。それは凜の比ではなく彼を想っている少女がするべきこと。だから常套句の挨拶に留める。
「式では立派だったよ、凜ちゃん。美人にもなったし」
「ええ、お陰様で。妹も元気よ」
動揺を隠そうと、精一杯笑う。成長した自分とは裏腹に、雁夜はやつれきっていた。白髪と土気色の皮膚は20代には見えず、桜から毒の話を聞いていたからぴんときた。
……外見だけでなく、内臓のあちこちも蝕まれているはずだった。
それでも、桜の無事を聞いた瞬間、満ち足りたように顔を綻ばせた。
彼から会いに行くようなことはしないだろうけれど、凜は妹の願いを知っている。口にはしないけれど、本当は、
「――あの子ね、ほんとはずうっと病気なの」
声のトーンを落として、凜は表情を曇らせる。雁夜が椅子から身を乗り出した。
「そんな……っ、毒の後遺症か!?」
「ごめん、そういうんじゃないんだけどね」
あまりの罪悪感にすぐに種明かしをしてしまう。
「初恋をこじらせてるのよ、桜は。その人から貰った物を取り出しては溜め息吐いてるわ」
「なんだ……冗談きついって」
脱力した彼に耳打ちして呟きをひとつ。
「ブレスレットとかヘアピンとかリボンとか?」
指折り数えて、爆弾を投下していく。
雁夜が遠坂邸に滞在し、桜とも過ごしたのは実質半年ほど。短期間に、心のこもった沢山のプレゼントをくれた。
大切にしまったそれらを眺める背中はいつだって泣いていた。抱きしめたかったが、彼女の涙を掬えるのはたった一人だけ。
「離れてからも毎日、桜はあなたを想っているわ」
「っ、忘れた方が幸せだろ、俺なんて」
聞かずにいたかったとばかりに顔を覆う。彼が望んだのは桜が自分以外の誰かと幸せになることなのだろう。
けれども凜は妹の味方だ。
「安心して、無理に引き合わせるなんてしないわよ。逃げたら追いかけるけどね?」
また消えることは許さないと、言外に脅しをかけた。心なしか雁夜が更に蒼ざめたが些細なことだ。
宣戦布告のようににこやかに手を振って、凜はこれから先は縁がないだろう保健室から退去した。
(決めたわ。来年、桜がここに通うようになれば、私たちの勝ち)
自然に再会させるには、妹には是が否でも同じ高校を受験してもらわなければなるまい。あくまで自然に、優雅に、彼らの二度目の出逢いを演出しなければ。
凜は胸中で幾つもの策略を巡らせた。――父母にもこっそり協力してもらおう。
こうして、雁夜が戦々恐々と養護教諭の仕事をこなしている間、凜は女子校志望の桜に共学の楽しさを吹きこんだり、貧血が起きれば無理せず休ませてもらうよう勧めるなど、出来得る限りの作戦を実行した。
その甲斐あって、後輩となった桜が血相を変えて「どうしておじさんが勤務してるって教えてくれなかったの?」と詰め寄ってきた時は、勢い良くガッツポーズを決めた。
姉が妹の最上級の笑顔を見られるまであと少し。
実を言うと、凜はちょっとだけ負い目に感じていたのだ。自分が風邪を引いてしまったせいで、堅苦しいパーティーの席に桜が駆り出されてしまった。年子の妹は家族には我が儘だって言うけれど、知らない大人にはあまり耐性がない。
跡継ぎと定められた日から、凜は自分の役目というものをわかってこなしてきたつもりだ。幼さを言い訳にしないよう、矜持を抱いて。それでも、体調管理までは完璧に出来なかった。
自室のベッドで熱と闘い、だいぶ楽になった頃に両親が様子を見に来た。入れ違いに桜が。
『お姉ちゃん、ただいま』
『おかえり、桜。私の代わりにごめんね』
てっきり疲れた顔をしていると思っていた妹の声が弾んでいるので、楽しいことでもあったのだろうか。行く時はドレスに合わせてきれいに結んでいた髪型が崩れてしまっているけれど。
そして、後ろ手に何かを携えている。じっと待ってみると、魔法でも見せびらかすように突きだしたのは、
『……どうしたの、これ』
『お見舞い、だって。私にもお揃いのをくれたんだよ』
細長い箱を逆さに、広げた手のひらに深紅のリボンが降らされた。普段はツインテールなのを見越したみたいに二本。小学校に入ったばかりの凜には大人びているようだが、散らされたラメがじんわり輝いて、背伸び感はあるが気に入った。
一方、桜がかざしているのは、名前にぴったりの淡いパステルカラーのものだ。さりげなくあしらわれたレースが可愛らしい。
『誰がくれたの? お礼を言わなくちゃ』
『でも、また会えるかなぁ』
首を傾げながら、妹は嬉しそうに教えてくれた。カリヤおじさん、と名乗ったプレゼントの贈り主のことを。おじさん、といえども父母よりはずっと若いらしい。
大人たちにもだが、同年代に対してもあまり心を開かない桜が、珍しいこともあるものだ。
凜は驚きと共にその人の名前を記憶に刻んだ。
『間桐雁夜です』
はじめまして、と目線を合わせて挨拶してきた青年を、穴が空くほど凝視した。
『――あなたがお父様の新しいボディーガード? そして、このリボンをくださった方かしら』
『ああ、使ってもらえてるみたいで良かった』
ありがとう、と示して見せると、黒髪の彼はぱっと笑顔を咲かせた。どう見積もってもおじさんというにはほど遠い。
『桜も、引き出しにしまって大事にしてるのよ。もったいないからって』
『え? そこまで高価なものでもないんだけどなぁ』
くれた人が特別なのではないか、と凜は思った。初対面で妹が懐いたくらいだ、凜に悪印象を与えるはずもない。
遠坂家のボディーガードは住み込みが基本形態なので、雁夜もすぐに広大な屋敷の一室に寝泊まりをはじめた。両親によると彼はまだ十七才なのだそうだ。母の実家近くで昔はよく遊んだ弟のような存在で、家出した所を父に拾われたのだという。
腕っ節はそれほど強くもなかったのだけれど、ボディーガードなんてある程度の訓練を受ければそれなりに務まる。遠坂は敵の多い名家だけれど、優雅を家訓にしてきたので殺されそうな危険には晒されなかった。
もっとも、それは時臣や雁夜が葵たちに必要以上に気遣ったおかげなのかもしれないけれど。とにかく、彼は確実に家族を守ってくれていた。
凜は雁夜のことを、いわば兄のように慕っていた。
ところが、妹は自分よりずっと彼のことを見ていたらしい。
『カリヤおじさん、たまにびくってしてるの』
妙に大人びた表情で桜が打ち明けたのは、思いもよらない雁夜の側面だった。
凜にとっては、いつでも明るく賑やかな青年だったのだけれど、妹には別な顔を見せるのか、あるいは妹が鋭いだけなのか。
弱くて頼りない部分もあるのだと、それすら愛おしそうに告げた微笑を、凜は今でも覚えている。背丈も言動も一年分幼いはずの桜が、まるで年上の女性のように映った。
それからほどなく、妹は他家に望まれ養子へ出された。
両親も決して乗り気ではなかったが、家同士の力関係というのが作用しているらしい。時臣は妻にはもちろん、嗣子たる凜には桜の行き先が間桐だと話してくれたが、雁夜には教えるべきではないと判断したらしい。
雁夜に兄がいると聞いていた時臣は、彼が後継者問題に巻き込まれないために出奔したのだろうと考えていた。葵も幼馴染とはいえ間桐家の内情まではわからず、捨てた実家の名は聞きたくないのかもしれないという配慮を働かせていた。
気遣いが仇となって、桜が酷い目に遭っていることなど誰も想像がつかぬまま、一年が経過した。
何の気なしに葵が発した言葉から、雁夜は幼い少女がどこで暮らしているのかを察し、即座に実家に向かった。
結果として桜は戻ってきた。そして、雁夜は職を辞して遠坂邸から去ってしまった。
凜は事情を知らないから、父母と妹に聞いた断片を組み合わせて推測するしか出来ないけれど、妹が過ごした一年が恐ろしいものだったのは確かだ。
桜は、姉妹お揃いだった髪と瞳の色が変わっていた。救出されてもしばらくの間は口すら開かず、虚ろな視線で宙を見つめていた。
いくら古よりの盟約があろうと、再び間桐へやってはいけない――雁夜の主張を受け止めた葵に凜が加勢し、決死の抗議をしたことが効を奏したのか、時臣は当主よりも親として娘を護る選択を優先させた。
それでも、しばらく間桐からは繰り返しの要請が届いたが、ある時点で諦めたのかぴたり静まった。
雁夜が危惧したのだろう桜の心は、幸い手遅れにならずに済んだ。
長い時間をかけて、自分たち家族には桜が必要であることを伝え、ゆっくりと手放した感情たちを取り戻していった。もし気づかずにいたらと思うとぞっとする。
現在、凜は少々過保護気味な姉となって、時にはけんかもするが平穏な生活を送っている。
幸福の立役者である、一人の男性の行方を知らないままに。
高校の入学式で、凜は新入生代表の挨拶を壇上でこなした。
人前に立つのは慣れたものだ。落ち着き払ってスピーチを済ませ、列に戻り――続く教職員の紹介で、危うく間の抜けた声を上げそうになった。
私立高校は滅多に転勤がない。新しい養護教諭として紹介された彼も、きっと長く勤めることだろう。自分と同じ年に赴任してくるだなんて都合が良い。
放課後すぐ、凜はおそらく第一号の新入生保健室来訪者となった。
「9年ぶりね、おじさん。見た目は変わっちゃってるけど」
どれだけ心配したかを言い募るのは自分の役割ではない。それは凜の比ではなく彼を想っている少女がするべきこと。だから常套句の挨拶に留める。
「式では立派だったよ、凜ちゃん。美人にもなったし」
「ええ、お陰様で。妹も元気よ」
動揺を隠そうと、精一杯笑う。成長した自分とは裏腹に、雁夜はやつれきっていた。白髪と土気色の皮膚は20代には見えず、桜から毒の話を聞いていたからぴんときた。
……外見だけでなく、内臓のあちこちも蝕まれているはずだった。
それでも、桜の無事を聞いた瞬間、満ち足りたように顔を綻ばせた。
彼から会いに行くようなことはしないだろうけれど、凜は妹の願いを知っている。口にはしないけれど、本当は、
「――あの子ね、ほんとはずうっと病気なの」
声のトーンを落として、凜は表情を曇らせる。雁夜が椅子から身を乗り出した。
「そんな……っ、毒の後遺症か!?」
「ごめん、そういうんじゃないんだけどね」
あまりの罪悪感にすぐに種明かしをしてしまう。
「初恋をこじらせてるのよ、桜は。その人から貰った物を取り出しては溜め息吐いてるわ」
「なんだ……冗談きついって」
脱力した彼に耳打ちして呟きをひとつ。
「ブレスレットとかヘアピンとかリボンとか?」
指折り数えて、爆弾を投下していく。
雁夜が遠坂邸に滞在し、桜とも過ごしたのは実質半年ほど。短期間に、心のこもった沢山のプレゼントをくれた。
大切にしまったそれらを眺める背中はいつだって泣いていた。抱きしめたかったが、彼女の涙を掬えるのはたった一人だけ。
「離れてからも毎日、桜はあなたを想っているわ」
「っ、忘れた方が幸せだろ、俺なんて」
聞かずにいたかったとばかりに顔を覆う。彼が望んだのは桜が自分以外の誰かと幸せになることなのだろう。
けれども凜は妹の味方だ。
「安心して、無理に引き合わせるなんてしないわよ。逃げたら追いかけるけどね?」
また消えることは許さないと、言外に脅しをかけた。心なしか雁夜が更に蒼ざめたが些細なことだ。
宣戦布告のようににこやかに手を振って、凜はこれから先は縁がないだろう保健室から退去した。
(決めたわ。来年、桜がここに通うようになれば、私たちの勝ち)
自然に再会させるには、妹には是が否でも同じ高校を受験してもらわなければなるまい。あくまで自然に、優雅に、彼らの二度目の出逢いを演出しなければ。
凜は胸中で幾つもの策略を巡らせた。――父母にもこっそり協力してもらおう。
こうして、雁夜が戦々恐々と養護教諭の仕事をこなしている間、凜は女子校志望の桜に共学の楽しさを吹きこんだり、貧血が起きれば無理せず休ませてもらうよう勧めるなど、出来得る限りの作戦を実行した。
その甲斐あって、後輩となった桜が血相を変えて「どうしておじさんが勤務してるって教えてくれなかったの?」と詰め寄ってきた時は、勢い良くガッツポーズを決めた。
姉が妹の最上級の笑顔を見られるまであと少し。
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