つむぎとうか
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香辺。
ミステリアス美形コンビだと思う。
ベラルーシには苦手なものがある。何を考えているかがわからない相手だ。
彼女自身はこれ以上ない程直情径行な性格であるため、寡黙で無表情、それでいて意味ありげにこちらを見つめてくる男への対処方法がとっさに思い浮かばない。
G8会議が終わり、イギリスが事もあろうにロシアをメンバーから外す、などと提案を持ち掛けたので、ベラルーシの心は荒れる一方だった。
前も見ずに廊下を歩く。威圧感を惜しげもなく放出し、道行く人々は恐れをなし避けていった。が、曲がり角でどんっとぶつかった。
背丈も殆ど変わらない、どこか眉毛男も連想させる黒髪の少年に。
「邪魔だ、どけ」
「別にいいけど、周り見てないと危ない」
アンタじゃなく、他の人が。
兄にくっついて来たベラルーシと同様、中国の付き添いに過ぎない存在のくせに、やけに堂々とした物言いだった。癪に障る。
「お前如きが、私に指図するな」
ぎっと睨みつける。兄さえ時には怯えるのに、彼は揺るがない。
「ふざけるな、従属物が」
最大限の侮辱。だが香港は眉をぴくりと動かしただけだった。言い捨てて気が済んだベラルーシは早足で遠ざかろうとする。
「…たしかに、今は国じゃないけど」
静かだが、よく通る声が彼女の背中に刺さった。
「俺は自分の足で立とうとしてる。従属したがってるアンタとは大違いだ」
何を言っているのだ、こいつは。
兄に結婚を迫るのは理屈じゃなく、上司や国民の意志を反映して、ベラルーシもそれを望んでいて。こいつの言葉なんか毛ほども影響を与えられないのに。
「ロシアに下りたがるベラルーシに興味はない、でも」
凍りついたベラルーシの正面に立ち、じっと表情をのぞく。
「ひとりの人間としてなら、面白いかもな」
香港はベラルーシの髪を少しだけ掬い、一筋をなぞった。
「キレイな髪。どんな手入れをしている?」
だが、質問に答えは返って来なかった。
触れられた瞬間、彼女は一目散に逃走したからだ。
残り香に目を細めた少年は、満足そうに微笑を浮かべた。
また会う時は、会話を仕掛けてみよう。