忍者ブログ

つむぎとうか

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Call your name
過去話。
幼少柔蝮・志摩家長男・青い夜を捏造。


『蝮ちゃんも小学生かあ』
 桜の蕾が膨らみはじめた入学式の日。
 下校中の柔造と兄は、はにかみながら父に連れられ歩く幼なじみに遭遇した。
『せや、今日からあんさんらと同じ学校行くねんで。よろしゅう、仲良うしたってな』
 途端に蟒の背に隠れた蝮は、長ったらしい式の後で疲れたのか、はたまた真新しいランドセルが重たいせいか、足元が覚束ない。
 上級生の兄はそりゃ楽しみやなあ、とにこにこしたが、年が近い柔造はうげっと思った。
(また、あのちっこいのに追いかけられるんか……)
 宝生家の面々とは、明陀のつながりで家族ぐるみで付き合いがあった。蝮は病弱で幼稚園にあまり通えず、そのぶん身近な柔造になついた。兄も蝮のことは可愛がっていたけれど、彼女のお気に入りはなぜか柔造なのだった。
『まむしかて、おれらの他にともだち作ればええやん』
 びくり。父の僧衣の裾を掴みながら蝮は柔造を見た。貝のように口を閉ざしているのに、眼の動きだけで何が言いたいかわかる。無音の会話が始まる。

 ――ともだち、できるやろか……
 ――ガッコにはな、ようちえんよりずぅーっとぎょうさんの人がおるんや。まむしも教室ゆーとこ行ったやろ?
 ――なんかこわかった。
 ――なんもこわない。となりの席とかに話しかけてみい。
 
 ふるふると首を振る蝮は頑なに怯えの表情を崩さなかった。
 
 ――あては、ナーガとじゅうぞうがおったらええもん!

「おれかて、いつまでも一緒のはおれんのやっ!!」
 傍からすれば脈絡なく声を荒げた柔造に、兄と蟒は怪訝な顔をしたが、蝮は驚いていないので気に留めないことにした。この二人はたまに周囲を遮断して意思疎通している。
「なぁに意地悪しとるんや、柔造。登校時間くらい合わせられるやろ、近所なんやし」
「やったら、兄貴が一緒に行ったらええやんか」
 柔造は兄が大好きだった。普段はわがままを言ってもあまり怒らないくせに、家の外では蝮の肩ばかり持つのが面白くない。ぷいっとそっぽを向いて、ひとり家まで駆けた。
 玄関先で兄が追いついた。
「蟒さんにあいさつもせんと帰るんはあかんよ。蝮ちゃんは柔造がいたら心強いやろうし、三人で登校したらええやんか」
「……兄貴はまむしに甘いわ」
「弟たちにも甘いつもりやねんけどな」
 首を傾げながら、柔造が脱ぎ散らかした靴をそろえる。
 昼寝から起きた金造が走り寄ってきて、二人に飛びつく。兄は嬉しそうに、柔造は少し面倒くさそうに、下の弟をよしよしと撫でた。



(高学年とはいえ、小学生が『もう小学生か』って……)
 遠い記憶を掘り返して、苦笑が滲む。
 やたらと大人びた兄だった。
 祓魔塾に通い出してからも、あの頃の兄の言動の方が落ち着いたものだったように思えるのは、亡きひとへの哀惜ゆえ、だろうか。
 柔造が下の者の世話を焼くのも、金造が家族大好きに育ったのも、逝ってしまった彼の影響が強い。
 自分がいつ死ぬのかなんて予想出来たはずはないのに、与えられた時間を知っていたかのように、よく笑い、愛してくれたひとだった。
 
 ――彼が青い炎に焼かれた夜。
 柔造は最期の瞬間に居合わせた。
『じゅっ……ぞう、はよ、に げ……!ほかの、もん、つれ て、』
 断末魔の叫びさえ、誰かを気遣いながらこと切れた、兄。
 恐怖で足が震え、どうやってその場を離れたのか覚えていない。
 
 あの日、壊れてしまってもおかしくなかった。
 大人でも、親しい者の尋常でない死に様に気が触れて明陀を離れた者が多く出たのだ。
 十歳だった柔造は、“跡取り”となり逃げることも出来ず――

(実際、極限状態やった)
 ぎりぎりの所で『しっかりせな』と思えたのは、幼なじみが声にならぬ声で引き留めてくれたから。
 不安でぐずる青と錦を宥めながら、八歳の蝮はじっと柔造を見つめ続けた。
 ――じゅうぞう、いったらあかん。
 ――あてもいるから。苦しゅうても、明陀のためにここにいて。じゅうぞう……
 瞳に涙をためながら、決して零すまいとして。気丈に視線を送る少女に、柔造は自分にも守るべききょうだいたちがいることを思い出したのだ。
 
 蝮はもう忘れてしまっただろうか。
 
 あれから、十六年の月日が流れた。
 志摩と宝生は反目し、蝮とは――視線で会話どころか、交わす言葉も争うためのものばかりになってしまったけれど。
 それでも、柔造は心に決めていた。
(狂気の淵から連れ戻してくれたんは蝮やから。もしあいつが迷った時は、俺が引き止める役になる。人一倍明陀想いのあの女やったら心配いらんやろうけど)
 憎まれ口を叩いてはいても、かけがえのない幼なじみだから。

 今度は彼が、彼女の名前を呼ぼう、と。
「蝮……蝮っ!」
 何度も何度でも。――その心に届くまで。
PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カウンター
Copyright ©  -- 紡橙謳 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]