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つむぎとうか

   
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雪の名残を

カイトとルカ。
ぱっつんPの、切なくも綺麗な曲をイメージして。
幸せじゃないです。


物語のようだわ。
窓の外を指差して、ルカは言う。
目を向けたら、枯れかけた木の枝に一枚だけ葉が残っていた。
風が吹けばすぐにも散ってしまいそうな、儚げな風情で。
寒々しい冬景色も、無機質な病室の白よりは温もりを感じられるのだと。
時間と体調の許す限り、彼女は散歩を欠かさなかった。それすら今では叶わないけど。
繋ぐ手の力は日に日に弱まっていく。
握ると折れそうで怖かったけど、離したら跡形もなく消えてしまいそうなので、包むように触れた。
少し前に贈った指輪はすっかり緩く、すぐに外れそうになる。
「鎖に通して、ネックレスにしようか?」
促しても、彼女は首を横に振り続けるばかりで。
「指輪の意味がなくなってしまうじゃない」
しっかり嵌めておくから、心配しないで、と。
揃いのカイトの指輪を愛おしげになぞると、ずっと手を胸に抱いていた。

――初めて出会った頃のこと、覚えてるかしら?
中学でだったわね、あなたは人なつこく誰とでも友達になれる生徒で。
私はといえば、ひねくれてたわ。
休み時間もグランドを駆け回る皆が羨ましくて、遠巻きに眺めてた。
運動なんて許可が下りなかったもの。
図書室でひとり、本を開きながらね。
あなたが声を掛けてくれなければ。
私は未だに、話し方もわからない、不器用な女の子のままだったわ――。

忘れようがない。カイトはまだ背の低い少年だった。
クラスメートのルカは、いつも体育を見学している線の細い少女。
寂しそうなのに、諦めきった光を瞳に宿していて。
幼少期から入退院を繰り返してきたのだから当然だった。
健康であってはじめて手にできる色々なものを諦めて、それでも長くは生きられないと。
医者の診断が変わることはなかった。

側にいてもいいのだろうか。
別段、深い覚悟があって手を伸ばしたわけじゃない。
ルカの笑顔を見られるのが嬉しかったから、ずっと一緒にいようと、浅はかにも言い放った。
彼女の気持ちなんて知りもしないで。

肩に舞い落ちた粉雪たちを払いながら、急いで玄関を抜けて。
「君の好きな桃色の花が、もうすぐ咲くよ」
もうベッドから起き上がることも不可能な身体に、彼は優しく囁きかける。
「待ち遠しいわ」
信じてなどいないくせに、嘘の笑顔を浮かべるルカ。励ますカイト。
どちらも無理をして、歪む手前だ。
「「早く、その日が来るといいね」」
笑顔の陰に隠した祈りはすれ違う。
(雪に紛れていますぐ消えてしまいたい)
(時間を止めたら彼女を喪う心配もいらなくなるのに)

共に大人になれないのなら、いっそ巡り会わなければ良かった。

終わり

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