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つむぎとうか

   
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魔都
似非中華パロ。
カイメイだけどカイトは亡くなっています。
娼婦メイコと男。
多少不穏なのが大丈夫ならどうぞ。

「小さな足だな。まだ纏足の風習があるのか」
「…田舎に生まれましたから」
寝台に靴を脱いで上がれば、男は驚嘆を吐息で顕した。
メイコは地方の出身である。
国の魔窟とも呼ばれる都で暮らし始めて数年。
娼館に身を落としたのは、お決まりの話ではあったが、本人の意思もそこにはあった。
「夜は短いわ」
衣を勢い良く剥ぎ、愉しみに溺れる――演技をする。
闇に浮き彫りになる男の肉体と、洗えど取れぬ血のにおい。
枕の下に仕舞われているのは拳銃だろう。用心深いことだ。
メイコは、決して貼り付けたものではない花のような微笑を綻ばせた。
今宵の悦びは格別となるだろう。
長い間捜し求めた相手が、目の前にいるのだから。

名前しか知らなかった恋人の仇が。

メイコは、田舎の暮らしを厭うて離れたのではなかった。
貧しくとも、愛しい恋人のそばに、共に老い朽ちてゆけるなら幸せだっのに、男は――カイトは夢を追いかけたのだ。
『都で成功したら、誰より豪華な生活をさせてあげられる』
阿呆だ。さんざん止めたのに結局行ってしまった。
『待ってて』
優しさに満ちた囁きだけ残して、一時の別れだと。
なんて愚かな恋人たち!絆されて手を放すのではなかった。
それからしばらくは、たまに来る便りを心待ちにする日々だった。
音信が途切れてしまっても、不吉な理由ではないと、自分に言い聞かせた。
華やかな都に居て、忘れられたとしても仕方がない。
どこかで元気にしていてくれたらいい。

なのに、彼は無事じゃなかった。あのどうしようもなく一途な幼なじみは。
死の報せに、傍らで見つかった手紙。
“いまの仕事が一段落したら、一緒に暮らそう。すこし危ないけど、神威さんは信頼出来るひとだよ。ひとまず証を送ります”
後日届いた指輪に、メイコの魂は縛られたままだ。
死に場所は宿。銃殺だったというから、きっと彼は裏切られたのだろう。
こういう勘は外したことがない。特にカイトに関することなら。
憶測が生まれた瞬間に故郷を捨て、手紙に記された名に憎しみだけを向け上京した。

娼婦相手なら油断もするだろうと――
睦言の裏で、策略と百鬼夜行が行き交う。
憶測は確信に変わっていた。
寝息を立てはじめた端正な顔立ちの男に、しずかに刃を翳す。
この期に及んで躊躇いなどあるわけがない。
カイトを死に追いやった存在――戯れに教えた本名を、やたら気に入ったと述べた。
柔らかい眼差しの亡き思い出が、不意に蘇る。目の前の男と重なってしまう。
印象は正反対なのに。
何故、恋しい男と似ているのか。
(憎らしい憎らしい憎らしい)
懐かしいその響きに揺れる己が。
「メイコ」
『メイコ』
闇に紛れて葬りたかったのに。脱け殻の自分を、諸共に。
男が燻らした煙管の残香が、散り急ぐ花を掻き消す。
指先の震えが止まらなかった。


 

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