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つむぎとうか

   
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制服ジレンマ

レン→カイト←リン。
成長と共に思うこと。

 


冬服の引き出しを引っ張り出して開けたら、自分のものとは少し違う学ランを発掘した。やや昔のデザインは兄のものだろう。
サイズはどうだろうと、着用してみると袖が余った。
「何やってるんだ?レン」
恥ずかしいタイミングで本人の登場だ。
まだ成長期なのだと自分に言い聞かせているが、兄は同年齢の頃からすらっと伸びていた記憶がある。
焦りが芽生える。
妬みの対象であるカイトはというと、懐かしそうな表情を浮かべて弟を眺めている。…こうなれば自棄だ。
「カイト兄、ちょっとこれ着てみなよ」
ぽすっと投げたのは当初の目的だった自分の学ラン。基本的に弟に甘いカイトは、素直に着ていたシャツの上に黒い布地を羽織った。
予想通り、きつそうである。
校則遵守の性格故、第一ボタンまでしっかり留めて。弾け飛びそうだ。
「兄弟でも違うんだな、丈が」
悔しさから声を低めると、カイトは破顔して弟の頭を撫でた。
(くそ、早く追い抜きてぇ)
「レンも、かなり成長したなあ。弟が居て良かったよ」
制服交換は同性にしか出来ないこと。脱衣や入浴だって。
「ちっさい頃ちょっとリンが羨ましかったけど」
恥のついでに告白してみる。
「今は、弟で良かったなって思うよ」
カイトの、他ならぬたったひとりの弟で。

『あたし、大きくなったらカイ兄のお嫁さんになるー!』
『ずりー、オレだって』
『男の子はお嫁さんをもらう側なんだよー』
あのころの解決法を思いついた。
カイトが、レンの嫁になればいいのではないか?…なんて、戯言だけれど。
「いつまで弟の服着てるつもり」
憎まれ口で照れを隠して、自分も兄の制服を脱ぎ捨て、奇妙な衣装交換を終わらせた。
「もたもたしてるなら、脱がせてあげようか?」
危機感のない笑顔が眩しい。

レンはずるい。ずるい所がきらい。基本的には自分と似ているから。
カイ兄は鈍い。鈍い所も、好き。

覗き見てしまった、彼らの制服交換の場面。
あんなの何でもない光景のはずなのに、目蓋に焼き付いて離れないのだ。
双子の片割れは男の子で、いつか兄を追い抜く可能性さえ持っていて。
幼い頃、約束した言葉も、さすがにもう信じてはいない。
衣装部屋に兄を呼び出したのは夕刻だった。
首を傾げながら扉を開けて入室してきた兄。素早く錠を掛ける。
昼間のリンみたいに、家族の誰かが通りかかるかもしれないから。見られたくない。
「リン、相談があるんだって?」
奇妙なシチュエーションに戸惑もみせず、優しく見下ろしてくるカイトに、リンはかねてより畳んでおいたセーラー服を広げて見せた。
「これ、クリーニングに出してたのが返ってきたんだけど。あのクリーニング屋さん評判悪いし、この前もボタンがとれかけになってたりしてたの。カイ兄、調べてくれる?」
これから着てみるから、と服に手をかけると、慌てた兄に制された。
「何で俺?めーちゃんやルカやミクの方が、」
妹の奇行に目を白黒させ、とりあえず裾を捲る腕をやんわり掴んだカイトの腕にしがみついてみる。
ぎゅうっ、と。飼い主にじゃれつく犬みたいだ。
「じゃあ、カイ兄が着て?」
絶句しながらも、妹にはしたない格好をさせるよりはと、スカートを履き上着にスカーフを結ぶ(疑うことをしらないひとだから)。
当然、欠片さえも似合っちゃいない。
「…うん、おかしい所はないみたい」
点検するふりをして、丈の足りない腕やウエストに目をやる。これが男女の差。
「ノリいいよねーカイ兄。ありがと、もう戻していいよ」
――代わりに私も学ラン、着ちゃおうかな?
冗談半分でも、口には出せなかった。レンよりもずっと、ちぐはぐな自分の姿が映るだけだ。
羨ましかった。同じ目線を目指せる双子の弟が。
リンが幼い夢を見ていられたのは、一体いつまでだったのか。
『カイ兄。お願い、リンを置いていかないでね』
望んでも時は止まってはくれず、兄弟との差異は浮き彫りになってゆくばかりで。
『いかないよ。俺が強く大きくなるのは、リンたちを護るためでもあるから』
(ばか、カイ兄。レンはもう、あなたの庇護から抜け出しているの。それに私だって、)
「守られるだけが取り柄じゃないんだよ?」
たとえば今ここで。
抱きしめて、頭を押さえて口づけても、優しい兄は突き放したりしないだろう。
でも、付けこむなんて虚しいだけだ。
「いきなりどうしたんだ、リン?」
訝しげに疑問符を飛ばすカイトのほっぺをつねる。
「油断したらいじめてあげるんだからねっ」
無邪気な妹でいよう。いつまでも、彼の関心を惹きつけていられるように。
みすみす渡してなるものですか。
「いひゃい、まだ着替えてにゃいんだって」
「ミク姉にでも見つかって、セーラー服着た変態っ!て幻滅されちゃえ」
まだ告げたりはしないから。
“お嫁さん”約束を実現させるのは――リンがもう少し、大人の魅力を身に付けてからだ。
(首を洗って待ってなさい)
カイトというより、自分の成長期とレンに向かい、宣戦布告をした。

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