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つむぎとうか

   
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あなたの名を呼ぶ
かたほとりPのメイドの星からリンちゃんがやって来た歌を聴いたときにかっとなってやりました。
私のところにはメイドプリンセスが来ましたけど、
カイトさんの家には清楚なお嬢様メイドが派遣されてたらいい。
メイコ・カイトが同居している姉弟です。

ルカの朝は早い。
鳥が鳴くのと競うように、辺りが薄暗くても瞳を開け、ベッドから起き出す。
黒の制服を身に纏い、鏡台で身嗜みを整えて。
仕上げにエプロンを着け、気を引き締めて自室を出た。

「カイト様!日が高く昇ってしまいますよ!」
台所で淹れた紅茶の盆をテーブルに置き、ぱたんとドアを閉めると。
防音が効いてるのをいいことに、思い切り叫んだ。
しかし、深く眠っている男からの反応はない。
仕方なく布団を捲り、剥き出しになった頬にひた、と手を当てた。

カイトは青い双眸をゆっくり上下させた。
すぐ手を引っ込めたルカの姿に、ぼんやりと焦点を合わせると。
微笑みながらおはようと呟いた。

「言ったそばから目を瞑らないで、意識を覚醒させて下さい!ほら、紅茶を飲んで」
半身を起こした主の鼻先に、すかさずカップを突き出せば、強い香りに徐々に頭を回転させた。
その間にもルカは、前夜に準備しておいた衣服類をてきぱきと枕元に揃えていき、空になった茶器をさっと回収した。
「着替えて、支度を終えたら食事にしますから。ゆっくりしてちゃ駄目ですからね!?」

念を押すと、カイトが了解の頷きを返すのを見届けてから室を去った。

ルカは、メイドの集まる星(があるらしい)からある日突然、派遣されて来た。
占いの結果だとか告げられて、カイトも姉も困惑したが、時を同じくして遠方の職場への転勤が決まったので、渡りに船のタイミングだった。
引っ越すには微妙な距離で、馴染んだ家から離れるのも気が進まず、朝に弱いカイトは悩んでいたからだ。
そんな同居開始から、一年が経とうとしている。

「そろそろ様付けを止めてくれるとありがたいなあ」
ルカが準備してくれた朝食を摂りながら、世間話のように提案してみる。
「命令とあらば従いますが」
淡々とした受け答えに、予想以上にダメージを受けた。
こちらが抱いている親しみの感情を、彼女はそのまま返してはくれない。
「だから、俺は命令とか偉そうにする立場じゃないって。君は仕えてるつもりだとしても、給料を出してるわけでもないし、むず痒い気分になる」
最初など「ご主人様」だったが、慌てふためいて名前で呼ぶよう説得した。
「お給料は星から貰うシステムになってます。占いメイドに導かれて、私たちは誠心誠意を尽くすんです」
「姉さんのことはさん付けで呼ぶじゃないか…」
「メイコさんからは様付け禁止令をいただきましたから」
カイトも同じ手段を取れば解決するのだろうが、強制は何となく嫌だった。
彼女が自主的に呼び掛けてくれたら嬉しいのに。
「ほら、時間が迫っていますよ」
いつまでも、優秀なメイドとしての顔しか見せてくれない。


「そんなやり取りがあったの」
カイトが出勤して一時間、姉のメイコも起床して、食卓を共に囲んでいた。
ルカが来てから、家事の労から解放されて非常に助かっている。
「カイト様の要望もわかるんですが」
星では、主となった人間には最大限の敬意を払うよう教育を受けた。
派遣先の家族は、想像よりずっと素敵な人たちであったし。

メイコをすんなりさん付けに切り替えられたのは、故郷で指導を受け持ってくれた先輩メイドに似ていたという理由もある。
「カイトはルカにどう思われてるか、不安なんじゃない?だってルカ、職務に忠実に、黙々と働くでしょ」
メイコは、赤茶けた瞳を悪戯っぽく光らせた。
はあ、とルカは首を傾げる。メイドとしては基本的な姿勢だと思っていたが――。
主の願いに応えるのも、仕事のうちか。
化粧しに椅子を立つメイコに手を振り終えてから、ルカは小さく握り拳をつくった。


三人揃った夕食の席。
食器運びに台所と居間を往復しつつ、ルカは壁にこっそり溜め息を向けた。
(どうして、さん付けで呼ぶだけなのにこんなに緊張するのかしら)
昼間からもごもご練習したのに、本人を前にすると呼べなくなる。
「どうしたの?気分でも悪い?」

心配そうに顔を覗き込まれ、息が止まりそうになる。
「かっ、カイト、様…何ともありま、せん」
やはり敬称を取ることは出来なくて、がっかりさせてしまったかと後悔して。
ルカが自己嫌悪に陥っていると。
「カイトも悪いわね」
どこか面白がっていそうな、メイコの声に現実に引き戻された。

「いきなりどうしたんだよ姉さん」
目を丸くしたカイトの額を、メイコはびしっと人差し指を突いた。
「聞きなさい愚弟。あんた、呼ばれ方についてうだうだ言ってるけど、自分はルカを何て呼んでるの?」
ぱっと答えられない。
「ここ数日、もっとかしら。カイトはルカの名前を一度も呼ばなかったわよ」
「そっか、全然意識してなかった」
姉は時折、カイトの思いもよらぬ方向から手助けをくれる。
「これからはちゃんと呼ぶよ、ルカ」
当人は目を白黒させながら、どうにか今のやり取りを把握した。
俯きそうになるのを必死で堪える。
「こちらこそ、努力します。カイト、さん」

語尾は消え入りそうに細かったけれど。
カイトは満面の笑顔になった。

メイコ「てな具合に、翌日から呼び方変更になったんだけど、家の雰囲気がそりゃもう甘くなったわ。どちらの新婚さん?って感じよ。どっちか恋愛に目覚めないもんかしら。ルカは妹みたいだし、カイトの嫁になってくれたら最高なんだけどね。…今私をおばさんくさいと思った奴、表でちょっと話しましょうか?」


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