つむぎとうか
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転生義兄弟2
タイトル思いつかない小ネタ2。
つくづく、面白いことになった――
高校へ上がって、周りが見覚えのある顔ばかりだった時、言峰綺礼は運命の皮肉というか悪趣味さを嗤ったものだ。因縁のある相手ばかりではないか。
まず、新入生が並ぶ列に衛宮切嗣がいた。名簿を眺めたところ同級生らしい。
年齢差がなく、髭も生やしていなかったが、煙草くらいは隠れて吸っていそうだ。醸し出す空気が殆ど変わっていなかった。
髭がなくとも双眸の色ですぐにわかるのは、生徒会長として歓迎の辞を述べた遠坂時臣。魔術の師であり、綺礼を信頼して渡したアゾット剣で刺し貫いた。はじめて明確な目的を以て殺した相手だ。
時臣を憎んで道化に甘んじた間桐雁夜は、今生では副会長として彼の傍らに在った。
彼ら全員と、最低一回は視線を合わせた。
だが、誰も生まれる以前の記憶は持っていなさそうだ。覚えていたら無反応というのは有り得ないだろう。
教職員の中に、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと、ウェイバー・ベルベットが揃って佇んでいたのには驚いた。ウェイバーの方は背も高く顔つきも別人のようだったが、かすかに面影があった。
(サーヴァントはさすがにいない、か)
雨生龍之介も見当たらなかった。そもそも転生しなかったのかもしれない。彼の最期が満足ゆくものだったなら納得がいく。
あの聖杯戦争に関わった人間の末路は凄惨なものばかりだったので、大なり小なり世界に未練を残して逝ったのだろう。
イレギュラーな終わりを迎えた己が転生したことが綺礼には意外だった。
このぶんだと、裏切って手を組んだ黄金の英霊もどこかにいるのかもしれない。何せ受肉を果たしたのだから。
積極的に捜すつもりはないが、ギルガメッシュを見つけたらますます楽しいことが起こりそうだ。
「遠坂会長」
先行く背中に声を掛ける。
振り返った時臣は、綺礼を認めて安心したような微笑を浮かべた。
前世の記憶がないこと、そのくせ魂が変わっていないことを如実に示すように、知り合って一ヶ月も経たない己にもう信頼を寄せているらしい。この上なく危なっかしい態度ではある。
「どうかしたかい、綺礼」
言峰君、と苗字で呼んだのは初日だけで、少し話しただけで親しみを感じてもらえたらしい。
綺礼も他の生徒の目がない場所では時臣先輩と呼ぶ。必要以上に丁寧な言葉遣いが通常運転なせいか、名前で呼ぶと喜ばれた。
秘密の味はいつだって甘美だ。
生徒会室につながる廊下で、当たり障りない話題を選びながら、足取りを揃えて歩く。
穏やかで変哲もない放課後の情景に、一滴だけ波紋を落としてみる。
ぽとりと。
「そういえば、合宿はどうなさいますか」
とさりと、時臣が持っていた書類を取り落とした。拾うのを手伝うふりでしゃがんだ横顔を覗きこむ。
予想通りの困り顔をしていた。
時臣に誘われて属した生徒会は、もれなく見覚えのある面々だった。
顧問と副顧問がケイネスとウェイバーの組み合わせであるのを皮切りに、生徒会長の時臣、副会長の雁夜たまにうっかりする時臣を雁夜が怒りつつサポートするという絶妙なコンビっぷりを発揮している。
書記に禅城葵、雁夜の幼馴染。時臣に辛辣な彼が行き過ぎた時のストッパーになってくれる。
会計役がソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。ケイネスは教師なのになぜか生徒の彼女に頭が上がらない。
ここまでが全員二年生。
綺礼の立場は見習いの一年生であり、最初にやった仕事は、クラスメートの切嗣を半ば無理矢理仲間に引き入れることだった。
第一印象からして苦手だった綺礼に迫られた切嗣は迷惑げだったが、これだけ揃っていて自分たちだけ外れる道理もないだろう、ということで。
全力で勧誘した。――ようこそ、愉快な生徒会へ。
少人数で回しているからか、メンバーは意外と親切で、ノリも良かった。
親睦を深めるという目的の合宿を提案する程度には。
四月の最終週、大型連休が間近に迫っている。皆の予定を訊けば一泊二日くらいの都合はつけられるし、顧問も許可してくれた。
問題は泊まる所だが、
「禅城さんが、四日と五日なら、と言ってくれたんだが」
葵の家は敷地が広く、十名程度なら引き受けられるそうだ。ただし準備というものがあるので、連絡は必須だ。
言い出したのはソラウだが、実行するなら時臣が決断しなくてはならない。
おっとりしていても仕事は迅速にこなす生徒会長が、この件に関しては歯切れが悪いのが不思議だった。にこやかに承諾するものとばかり思っていたのに。
「保留とはらしくないですね。まだ迷っているのですか?」
「合宿といっても、文化祭準備に取り掛かるにはまだ早い。要は皆で盛り上がれば良いんだから、私抜きだとしても支障はないだろう」
「用事でもおありで?」
時臣にとって、生徒会は相当優先順位が高いと思っていたが。
「その日は両親が旅行なんだ。家を空けるのは不味い」
弟を独りにするのはちょっと、と続けた。
「ご兄弟がいらっしゃるとは初耳です。未だ幼いとか?」
次の瞬間、過保護な兄の顔になる。
「二つ下だよ。中学三年なんだ」
なるほど、家族のためか。興味の対象が移った。
「血は繋がってないんだけどね。ギルガメッシュという」
噴き出すのを堪えるのに苦労した。
この前言っていた本を借りたいと主張して、時臣に同行し訪問してみたら、ギルガメッシュは居間でゲームをしていた。
「ギル、ただいま」
画面から目を離さなければ、返事もしない。無視されるのが茶飯事なのか、時臣は気にせず下げた頭を元に戻した。
「こんにちは、ギルガメッシュ君」
秒速で振り返って凝視された。明らかに切嗣たちとは異なる反応である。
(そうか、覚えているのは私だけではなかったか)
予感が的中して唇の端を上げる。
「はじめまして、言峰綺礼と言います。時臣先輩にはいつもお世話になってます」
爽やかに挨拶すると、ギルガメッシュはものすごく不本意そうにだが頷き返した。
「楽しそうだったね、綺礼。義弟とは気が合いそうかな?」
翌日、時臣はやはり的外れな感想を抱いていた。
「ギルは、癖はあるけれど真っ直ぐで良い子なんだ。君が仲良くしてくれたら嬉しいよ」
――どうやら私は嫌われているようだけど。
自嘲には気づかない素振りで、綺礼は提案してみせる。
「では、時臣先輩、こういうのはいかがです? 私も合宿には参加しません。代わりに、貴男の家にお邪魔したい」
一晩かけて、元サーヴァントをからかい倒してやるのだ。
裏切り屠ったかつてのマスターと義兄弟とはどんな気分だ? とか、お前実は師にちょっとだけ興味あっただろう、とか。
前世、確かに自分たちは共謀して遠坂時臣を亡き者にした。だが、今生に於いて再び出逢った意味は、あの頃と異なる関係を築くためのはず。
知らない時臣と知っているギルガメッシュは、どうもすれ違っているらしい。
「うん、私は大歓迎だ。あの子もきっと喜ぶ」
純粋に保護者みたいなことを呟く時臣に、綺礼は神妙な顔をしながら内心では大爆笑だった。
それから、ほんの少しの憐れみを覚えた。これでは伝わるはずがない。
ギルガメッシュの態度。時臣が冷たいと嘆いたそれが、綺礼には歪な執着心としか思えなかったからだ。
一年が経った。
同じ高校に進学してきたギルガメッシュが、ゆっくりと義兄との時間を増やしていくのを、綺礼はたまにちょっかいを出しながら見守っている。
このまま、平和な兄弟ごっこを眺めるのも悪くはなかったが。
半年後、時臣は全てを思い出すことになる。
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