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つむぎとうか

   
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転生義兄弟13
タイトル思いつかない小ネタ13。


 かつて、魔術師であることは時臣の誇りだった。
 裏を返せば、己にそれ以外の価値を露ほども見いだせなかったということになる。
 父母を敬愛し、妻子を慈しんでいたと胸を張って言える。でも、全ては魔術を抜きには築き得なかった関係だった。
 記憶が戻った途端、空っぽの自分に恐怖を覚えた。
 万能の願望機がない世界でも、雁夜や切嗣、ケイネスたちは地に足をつけて生きているのに。
 英雄王の声が呪いのように谺する。
『相変わらずつまらん奴だ』
(そんなこと、私が一番よくわかっている)
 ギルガメッシュにだけは見抜かれたくなかった。生まれ変わっても、揺るぎもしない自信を備えた英雄王が、羨ましくて眩しくて。
 見えない磁石に引き寄せられるみたいに、どうしようもなく惹かれた。
 それが、親の再婚で出来たきょうだい、の範疇で括れる感情なのかと問われれば、素直に頷けない。
 近づき過ぎたら傷つく予感がしたから、距離を詰めるのを躊躇った。時臣の判断は間違いだったのだろうか。

 たとえば、出会いの瞬間に戻ってやり直せるとしたら――いや、当時からギルガメッシュが記憶を持っていたなら無意味か。
『はじめまして、遠坂時臣です』
 あの日、彼は紅玉の双眸にどんな感情を浮かべていた? 

   +++++

 ロビーの片隅に並んで座り、周囲に会話が聞こえない程度に引き寄せられる。
 掴まれたままの腕が痺れており、時臣はされるがままだった。
 シャツの袖を捲ったら、指の痕が浮いているんじゃないかと疑うほどに、ギルガメッシュは強い力で時臣の手を握りしめていた。
「痛いな、少しは手加減してくれないか」
「お前が重たいスーツケースでも引きずっていたら、緩めてやらんこともないが。それだけ身軽だと逃げてしまうだろう」
 “義兄さん”と呼ばれたのも、余裕のない表情を見るのもはじめてだ。
 こんなふうになりふり構わず触れられたことなどなく、それが前世で欠片も興味を持ってくれなかった相手だから、困惑は深まっていくばかりで。
「ギル」
 迷いの末、名前を呼ぶ。王、と呼ぶことは恐らくもうないだろう。
「約束なら、ちゃんと覚えていますよ。――今日ここで使うというなら、従いましょう。留学を取りやめて、冬木に残れ、とでも?」
 出来ることなら何でもすると、誓った心に偽りはない。出発を取り消すというのは、確かに時臣の一存で可能な範囲だ。
 すべて手配も済んでいるのに滅茶苦茶だが、想定内である。下宿予定のアーチボルト家や紹介者のケイネスに頭を下げ、両親にも謝罪して、翌年の大学進学を目指す。それくらいの覚悟はしていた。
 電車を降りて、ギルガメッシュの鋭い眼光に抉られた直後から。
 けれど彼は首を振って否定する。
「命じたところで、どうなる。強制的にこの家に縛り付けたとしても、お前も我も無かったことには出来ないだろう」
 ――ただ、言いたいことを告げに来ただけだ。
「お前は、我が退屈している、と決めつけたな。飽きられるくらいなら消える、と。一度も、確かめようとはせずに」
 だって、“つまらない”が口癖だったではないか。面と向かって言われるなんて嫌に決まっている。
「今ここで聞いてみろ。それから、お前の望みも明かせ」
 ――家族になれて嬉しかった、と言った。でも、本心はどうであったか。家族、で良かったのか?
 耳元で立て続けに囁かれて、鼓動が早まる。やばい。きっと答えるまで解放してもらえない。
 時臣は半ば自棄になり、近距離の背中に腕を回した。
「……良くない。君は、義弟にしておくには面倒過ぎる性格だ。サーヴァントとしても厄介だったけど」
 新たに人として生を享け、生活を共にして。あの頃はわかりもしなかった彼の側面に触れて、まだ物足りない。
「じゃあ、どうしたい?」
 見え透いた誘導尋問だが、引っ掛かってしまおう。
「私は、……ギルが好きだ。叶うなら、一緒に居て欲しい」
 ギルガメッシュは満ち足りたように抱き返してきた。
 今度は苦しくない。くすぐったいような、優しい触れ方だった。

「言えたじゃないか。――ああ、我も時臣が必要だ」
 離れていた時の方が何倍もつまらなかった、と。
 素直に認めて、あとは無言でキスを降らせてゆく。
 周囲に居た第三者には、旅立つ兄を見送る弟、仲良い兄弟、というふうに映ったかもしれない。
 ふわりと包むような抱擁に、額への軽い口づけだった。空港という場所や、二人の容姿を考慮しても全く不自然な光景ではなかっただろう(と、物陰から一部始終を観察していた綺礼は淡々と語った)。
 ……ただ、唇を離したギルガメッシュが時臣に向ける視線がなんとも意味ありげだったのと。
 解放された時臣が、真っ赤な顔を見られまいと、搭乗時間までまだ余裕があるにも関わらず、一目散に休憩室を駆け去ったのとで。
 ギルガメッシュが囁いた内容が気になって居ても立ってもいられなくなった綺礼は、イギリスに無事到着した時臣への第一便でそのことを尋ねた。
 教えてもらえなかったばかりか、覗き見していたことを手紙で叱られる羽目になった。

   +++++

「行かせてしまって良かったのか?」
 既に見えなくなった飛行機の進行方向から視線を戻し、綺礼はすっきりした表情のギルガメッシュを振り返った。意外だ。邪魔しに訪れたとばかり思っていたのに。
 綺礼はもちろん、時臣とギルガメッシュの“約束”など知らない。どんな手段を用いてでも側に留めるのだろうと予想していた。
「誰が、お前の書いたシナリオになぞ従うものか。イギリス行きをやめさせることは出来たが、そうしていたら、時臣は今度こそきっかり心を閉ざしてしまっただろう」
 同じ家で暮らしたとしても、他人以下の関係に格下げだ。そんなよそよそしさを願ったわけじゃない。
 カードを切るチャンスは一度きり。使い方を間違えないよう、ずっと策を巡らせていた。
 ただ、損なわず時臣を手に入れるという目的のためだけに。
 前世はともかく、今生でここまで執着を寄せる相手はたった一人だ。
「リリースアンドキャッチ、か。あっちにいる間に、時臣さんの気が変わったらどうする?」
「ふん、あの男が我にどれだけ焦がれてたか知らぬだろう。というか、時臣さん呼びやめろ。いらっとする」
「もう先輩じゃないし、本人もこの呼び方で不服はないようだったが?」
 途端に独占欲丸出しでぶつぶつ文句を垂れるギルガメッシュに、綺礼は早速新たな愉悦を覚えた。当分は、からかう度に面白い反応をしてくれそうだ。
「精々泳げば良い。次会ったら加減などしてやらぬからな」
 空へ向けての宣戦布告。時臣が聞いたら、――え、これまで加減してたんですか!? と蒼ざめること間違いなしだ。
 けれど、二度と悲しみには染めさせないから。



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