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つむぎとうか

   
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転生義兄弟
タイトル思いつかない小ネタ。


 父の二度目の妻は異国出身だった。
 純日本人の父と並ぶと、彼女の金髪は華やかで美しかった。
 茶髪に碧眼の時臣も生前の母に生き写しだと言われるので、どこかの血が混じっているのだろう。父はそうした女性に惹かれるのかもしれない。
 物心ついた頃には母は亡く、一人息子に出来る限りの愛情を傾けてくれた父の再婚は喜ばしいことだ。駄々をこねる子どもじゃあるまいし。
 遠坂家は代々続いた名家だが、あちらも大層な家柄らしい。その人が父のプロポーズを受けて移住を決めたのだという。
(大丈夫だ、不安なんて何ひとつ見当たらないじゃないか)
 義母となる彼女にも連れ子がいると聞いた。その子ともうまくやっていけるはず。 胸の警鐘が鳴ったが、気づかないふりをした。



 心の準備をして迎えた両家の顔合わせの日。

『はじめまして、遠坂時臣です』
 中学に上がったばかりの時臣は、弟となる少年に微笑みかけた。人当たりの良さには自信がある。
 なのに、相手はとりつくしまもなかった。
『 ふん、』
 不満げに呻いてそっぽを向いた。年は二つ下だというから、礼儀を知らぬわけでもないだろうに。
 もしや、一瞬で嫌われてしまったのか。
『君の名を教えてくれないか。義理でも、兄弟になるのだから、』
 内心びくびくしながら重ねて頼むと、渋々といった調子で口を開いた。
『ギルガメッシュ』
 はじめて視線が交差する。
 義母と同じ金髪に、燃えるような紅の眼を持つ、恐ろしいほどに造作の整った顔立ち。時臣は気圧されたように俯いた。 何故だろう、長く見ているとつらくなりそうだった。初対面で、これから家族になろうというのに。
『ギルガメッシュ――ギル、でいいかな。よろしく』
『言っておくが、我は貴様と仲良くするつもりはない』
 まるで冬の陽射しみたいだ。眩しくて一見あたたかそうなのに、どこまでも冷たい。

 その上それは、いつでも時臣にだけ注がれるものだったのだ。


   +++++

時臣とギルガメッシュが仮初の兄弟になって、何度か季節が巡った。

「ただいま」
「ああ、おかえり」
 居るのが時臣だけと知ると、途端に不機嫌になる。玄関から階段へ直行し自室へ入った。
 ばたん、と閉められたドアに、ちいさく溜め息を洩らす。
 両親が不在がちなので、家では義弟はほとんど仏頂面ばかり。
 腑に落ちないのは、ギルガメッシュは決して無愛想な子どもではない、ということだ。
 誰にでも優しいというわけではないが、母親や義父には朝晩の挨拶や学校の話をするらしい。そんな姿、時臣は一度だって目にしたことがないのに。
 
『困ったことがあれば言ってくれ。きっと力になるから』
 学校生活だとか、勉強だとかで、何かしら役に立てるだろうと思った申し出を一蹴された。
『要らん、鬱陶しい』
 伸ばした手を払われ、ぎろりと睨まれる。こんな負の感情を向けられることさえ稀で、いないもののように扱われるのが常だった。
 時臣は悪意や敵意に慣れていない。戸惑いながら見返すと、つまらん、と吐き棄てられた。
『……相変わらずつまらん奴だ』
『以前、どこかで会ったことが?』
 束の間、しまったという表情を浮かべたから、失言だったのだろう。それ以降は黙りこくっていた。

 ギルガメッシュは年齢にそぐわぬ大人びた言動をとることがあった。時臣とて似たような性格だったから、日本に馴染めず無理していないかと心配だった。
 戸籍の上では家族なのだから、もっと頼ってくれても良いのだ。
 が、心細さを隠して平気を装っていた時臣とは違い、ギルガメッシュは本当に一人で平気に見えた。

 自分とは全く性質の異なる、血の繋がらない弟。
 厭われているようであっても、時臣の方からギルガメッシュを嫌いになることなど有り得ない。もし彼から歩み寄ってくれたらきっと歓喜にふるえるだろう。
 ――この羨望には覚えがある。
 どこで、誰に対して抱いた憧れだったのかはわからない。少なくとも現実ではないような気がする。夢か、それとも錯覚か。
 思い出してもきっと虚しいだけだろう。

   +++++

 言峰綺礼が時臣に一年遅れて高校入学したのはつい今春のことだ。
 現在、初夏。三ヶ月足らず顔を突き合わせただけで、義兄は生真面目で無口な後輩に早くも信頼を置いている様子だ。
(退屈な男とは存じていたが、よもやこれほど!)
 面白くない。断じて、来年にならなければ同じ高校へ行けない苛立ちなんかじゃないのだ。

 遠坂時臣は前世、二者の姦計により落命している。
 一人は言峰綺礼、魔術の弟子であってこの男が彼をナイフで抉った。唆した共犯者は霊体で本来守護すべきだった英雄王・ギルガメッシュだ。
 転生した先で、己を屠った仇たちに遭遇しておきながら、時臣は一切記憶を取り戻さない。
 ギルガメッシュは出会った瞬間にわかったというのに。これまで何度か言葉を交わした綺礼も、どうやら覚えているようなのに。
 死の瞬間を嘲った男。召還者で最初こそ義理は捧げていたが、とうに見限り打ち捨てた存在。
 何の皮肉か義理の兄弟という関係に収まってからも、相変わらず時臣は見どころのない男だ。ギルガメッシュが素っ気ないを通り越して酷い態度をとっても、家族なのだから、と離れようとはしない。

 そんなもの、既成の義務感に凝り固まっているだけだ。
 剥ぎ取ってやりたいと思う。常識だとか思いやりだとか、そんな穏やかで一般的な情で塗装した仮面を全部。 時臣とほのぼのした兄弟ごっこを演じるなど御免である。
 けれど、邂逅の瞬間だけは満ち足りたのだ。あのとき確かに、伝えたい言葉があったはずなのに。

「……なぜ、忘れたままでいる」
 そうだ、このままでは意味がない。
 早く、我に殺されたことを思い出せ。そうして、お前の“想い”を覗かせろ、時臣。

 魔術師と英霊でも、王と臣下でもないなら、どのように振る舞う?




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