つむぎとうか
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彼女が望んだ世界 2
女性な時臣さんが聖杯戦争に参加していたら、という妄想。
ギル時ですが時臣さんは葵さん(♂)と夫婦です。
ギル時ですが時臣さんは葵さん(♂)と夫婦です。
衛宮切嗣は眼を見開いた。
ここは聖杯降臨の地となった冬木市民会館だ。彼はセイバーを携えて最後のサーヴァントとの戦いに挑んだ。
――手の甲に刻まれた令呪は消えていた。三画を使い切っても敵わず、敗北を喫したのだと思い出した。
夢に見たのは恒久の平和。戯れ言にさせない力が聖杯には宿ると信じ、大切な存在と引き換えにして、卑劣な手だって使ってきた。
それなのに、及ばなかったのだ。彼と、召喚したきり命令でしか口をきくこともなかった剣士の英霊は。
黄金の輝きを放つサーヴァントに負かされた。
辺りを見渡せば、戦いの後とは思えないほど何も無い。切嗣を含めた三人の人間がそこにいるだけだった。
一騎打ちに倒れ、意識を取り戻したばかりのセイバーのマスターである自分。
なぜか自分に執着し、また弟子として戦いを見届けに来たのだろう、アサシンを従えていた言峰綺礼。
そして……アーチャーのマスターの遠坂時臣。
静かに涙を流し続ける時臣からは、願いを叶えた喜びなど感じられない。
それでも、彼女の発した弱々しい言葉から、切嗣は儀式が失敗したのではないことを知った。
「師よ、衛宮切嗣が目を覚ましたようです」
この男はこんなに遠慮がちな声も出せるのだ、と思った。
綺礼はそっと師匠である魔術師に語りかけた。“魔術師殺し”として警戒されているのかもしれない。どちらにせよ、二対一では逃れられまい。
「如何されますか」
時臣はふるふると首を振った。
「どうともしないよ、私も彼も消耗している。戦う理由はもうないんだ。大聖杯の“彼女”から聞いた彼の話は興味深かったけれど――」
「アイリと、話をしたのか!?」
激痛に耐えながら大声を上げる。時臣は動じず答えを返した。
「もう、生命活動を終えてからだけどね……私の願いを告げた、彼女は君の願いを教えてくれた。だが、聖杯は美しい奇跡を招くものではなかったらしい」
汚染されたそれは、禍々しい方法でしか願いを成就させぬ存在と成り果てていた。
「根源へ至る望みも、あれの前では捨てざるを得なかったよ。結局、使ったのはもっと私的な欲のためにだ」
時臣は聖杯戦争のためだけに己を研鑽し続けてきた魔術師だった。生を受けて以来、ずっと支えと目標にしていたものが、呆気なく水泡に帰してしまったのだ。
「では、サーヴァントはどうした。遠坂時臣と同じく聖杯に願いを懸け、共闘してきたアーチャーは」 切嗣はセイバーが消えた瞬間に意識を途切れさせたためわからなかったが、本来この場には居るべきなのだ、マスターと組んだ勝利者であるサーヴァントが。
「……アーチャーはいないよ」
時臣の声が一段と抑えたものになった。
(だって私が、殺したんだから)
+++++
間桐雁夜は苦しみに呻いた。
体内に埋め込まれた刻印蟲が死滅した。ということは、彼の生命をぎりぎり維持していた魔力もなくなったということ。
バーサーカー。臓硯の魔手から桜を護るための、唯一の希望。
制御も困難なサーヴァントを使役するのは苦行だったが、自分はどうなろうと構わないのだ。幼い身に一年、絶え間なく苛まれた少女を、とらわれたあの子を助けたかったのに――
「いや、君がいてくれないと困る」
飛び起きた。
がばっと布団を撥ね除けて気がついた。ここは遠坂邸の客室だ。
せめて蟲蔵の桜に一目会いたいと念じ続けて動いていたのだが、どうした経緯か、丘の上にある時臣の屋敷に運ばれたらしい。
「雁夜、君との戦いで聞いたことを確かめてきたよ。半信半疑だったが、私は臓硯氏に欺かれたらしい。娘がされていた仕打ちは、どう考えても盟約違反だった」
目を鋭く、表情を険しくさせる時臣の迫力に圧倒され、黙って続きを促す。
「あの子は、魔導の加護がなければ生きていけない。魔術を知らなければ魑魅魍魎か協会の餌食にされてしまう。間桐の申し出は天啓に感じたけれど――どうやら私は母親失格らしい」
君の言葉に、もっと早く耳を傾けていれば。
自責をやめない彼女に、もういいと制止の手を挙げれば、こんこんとドアをノックする音が響いた。
扉の向こうに立っていたのは、ちいさな影。
「おじさん……」
救いたいと希ってきた声が降らされる。
「桜ちゃん、――桜。良かった……!!」
まだ昏く光を灯さぬ双眸。けれど、抱きしめた少女はおずおずと肩に腕をまわして応えてくれた。感情をなくしてしまったわけでは、ない。
伝わる確かなぬくもりと、手遅れにならなかったことに感謝しながら、雁夜は時臣が桜に優しい眼差しを向けているのを見た。
時臣が聖杯に願ったことは、マキリ・ゾォルケンの殺害。
同時に、桜に宿る魔術回路をなくすことだった。
桜が、姉と同じく持って生まれた天賦の才。それさえなければ脅威に晒されることもなくなる。
莫大な魔力を洗い流すには、更なる魔力が必要だ。聖杯に蓄えられた量ならば足りる。一般人としての人生を歩むことが出来る。
以前の時臣なら、“凡俗”として顧みなかっただろう道。だが、実際に桜と会えば、平穏こそが必要ではないかと思われた。
雁夜の死体も確認せず捨て置いたあの晩、止めを刺さなかったのは、彼の言葉に心揺さぶられたからでもある。 娘の幸福を願わない親などいない。諜報に長けた使い魔を間桐邸に遣らせ、そこで知り得たのは、――無数の蟲たちに犯され嬲られる桜の現状だった。
それがきちんとした修練なら、変わり果てた娘の姿も仕方がない。だが、鶴野を捕まえて吐かせた所では、継承ではなく胎盤扱い。
怒りで視界が赤く染まった。
すぐさま桜を連れ出して屋敷を灰にしようとしたが、臓硯が容易く滅ぼせない吸血鬼であることを思いだして考え直した。
(何としてでも、桜を取り戻す!)
それを可能とする奇跡を、時臣は手に入れられる。
こうして、聖杯戦争創始者の一人であるマキリの初代当主は、聖杯の力を以て絶命することとなった。
根源へ至るという、歴代遠坂の悲願を捨ててでも、時臣は娘の幸福を優先させたのだ。
「じゃあ、これからは二人とも手元で育てるんだな? 桜ちゃんは遠坂に帰れるんだよな?」
長く会っていると体に障るから、と、桜は綺礼に手を引かれ自室に戻った。
あたたかな表情で雁夜は尋ねる。
「……養子にやられた一年余り、あの子は君の存在を支えにしていたんだ。君なら魔術に縁のない生活を教えてやれる」
どうかあの子を頼む、と必死に頭を下げる彼女の様子は、決意を秘めているように思えた。
「俺は構わないけど、時臣、お前、何か隠してることがあるだろ?」
――話せよ、でなければ受けようもない。
彼女は俯き、私は冬木を出て行こうと思うんだ、と話した。
+++++
彼の外出を阻むために身を任せる。
これは戦略なのだからと言い訳を重ねて。
「貴女がそこまでする理由は何なんです?」
大事な協力者である綺礼に、射るような眼差しで問い詰められ、言葉を濁した。
英霊に何をされたかは打ち明けてあった。時臣から切り出さずとも、邸を護衛していたアサシンから主への報告がいくだろう。そんな気まずい露見は嫌だ。
拒めなかったのだと、潔癖な弟子が呆れるよう軽く告げれば、綺礼は渋面を深くした。
「聖職者である君には聴くに耐えない話をしてしまってすまない……けれど、」
「私には、師が無理をなさっているように見えます」
どんな局面でも優雅で、サーヴァントにも丁重な振る舞いを見せる彼女。けれど、時折恋い求める視線を“ギルガメッシュ”に注いでいた。
綺礼は、時臣が芽生えた想いを必死に殺そうとしている葛藤を間近で見ていたのだ。
令呪を用いた腹いせに、あの傲慢なサーヴァントはマスターを組み敷いたのだという。彼女が憐れでならなかった。
「気のせいだよ、私は無理などしていない。これも作戦のうちだと思えば何ともない」
……やはり綺礼に弱音を吐くつもりはないらしい。虚勢であることは明らかなのだが。
これはギルガメッシュの方に直談判した方が早いな、と綺礼は思った。
多少きつく言わなければ、時臣はますます傷ついていくだけだろう。
ここは聖杯降臨の地となった冬木市民会館だ。彼はセイバーを携えて最後のサーヴァントとの戦いに挑んだ。
――手の甲に刻まれた令呪は消えていた。三画を使い切っても敵わず、敗北を喫したのだと思い出した。
夢に見たのは恒久の平和。戯れ言にさせない力が聖杯には宿ると信じ、大切な存在と引き換えにして、卑劣な手だって使ってきた。
それなのに、及ばなかったのだ。彼と、召喚したきり命令でしか口をきくこともなかった剣士の英霊は。
黄金の輝きを放つサーヴァントに負かされた。
辺りを見渡せば、戦いの後とは思えないほど何も無い。切嗣を含めた三人の人間がそこにいるだけだった。
一騎打ちに倒れ、意識を取り戻したばかりのセイバーのマスターである自分。
なぜか自分に執着し、また弟子として戦いを見届けに来たのだろう、アサシンを従えていた言峰綺礼。
そして……アーチャーのマスターの遠坂時臣。
静かに涙を流し続ける時臣からは、願いを叶えた喜びなど感じられない。
それでも、彼女の発した弱々しい言葉から、切嗣は儀式が失敗したのではないことを知った。
「師よ、衛宮切嗣が目を覚ましたようです」
この男はこんなに遠慮がちな声も出せるのだ、と思った。
綺礼はそっと師匠である魔術師に語りかけた。“魔術師殺し”として警戒されているのかもしれない。どちらにせよ、二対一では逃れられまい。
「如何されますか」
時臣はふるふると首を振った。
「どうともしないよ、私も彼も消耗している。戦う理由はもうないんだ。大聖杯の“彼女”から聞いた彼の話は興味深かったけれど――」
「アイリと、話をしたのか!?」
激痛に耐えながら大声を上げる。時臣は動じず答えを返した。
「もう、生命活動を終えてからだけどね……私の願いを告げた、彼女は君の願いを教えてくれた。だが、聖杯は美しい奇跡を招くものではなかったらしい」
汚染されたそれは、禍々しい方法でしか願いを成就させぬ存在と成り果てていた。
「根源へ至る望みも、あれの前では捨てざるを得なかったよ。結局、使ったのはもっと私的な欲のためにだ」
時臣は聖杯戦争のためだけに己を研鑽し続けてきた魔術師だった。生を受けて以来、ずっと支えと目標にしていたものが、呆気なく水泡に帰してしまったのだ。
「では、サーヴァントはどうした。遠坂時臣と同じく聖杯に願いを懸け、共闘してきたアーチャーは」 切嗣はセイバーが消えた瞬間に意識を途切れさせたためわからなかったが、本来この場には居るべきなのだ、マスターと組んだ勝利者であるサーヴァントが。
「……アーチャーはいないよ」
時臣の声が一段と抑えたものになった。
(だって私が、殺したんだから)
+++++
間桐雁夜は苦しみに呻いた。
体内に埋め込まれた刻印蟲が死滅した。ということは、彼の生命をぎりぎり維持していた魔力もなくなったということ。
バーサーカー。臓硯の魔手から桜を護るための、唯一の希望。
制御も困難なサーヴァントを使役するのは苦行だったが、自分はどうなろうと構わないのだ。幼い身に一年、絶え間なく苛まれた少女を、とらわれたあの子を助けたかったのに――
「いや、君がいてくれないと困る」
飛び起きた。
がばっと布団を撥ね除けて気がついた。ここは遠坂邸の客室だ。
せめて蟲蔵の桜に一目会いたいと念じ続けて動いていたのだが、どうした経緯か、丘の上にある時臣の屋敷に運ばれたらしい。
「雁夜、君との戦いで聞いたことを確かめてきたよ。半信半疑だったが、私は臓硯氏に欺かれたらしい。娘がされていた仕打ちは、どう考えても盟約違反だった」
目を鋭く、表情を険しくさせる時臣の迫力に圧倒され、黙って続きを促す。
「あの子は、魔導の加護がなければ生きていけない。魔術を知らなければ魑魅魍魎か協会の餌食にされてしまう。間桐の申し出は天啓に感じたけれど――どうやら私は母親失格らしい」
君の言葉に、もっと早く耳を傾けていれば。
自責をやめない彼女に、もういいと制止の手を挙げれば、こんこんとドアをノックする音が響いた。
扉の向こうに立っていたのは、ちいさな影。
「おじさん……」
救いたいと希ってきた声が降らされる。
「桜ちゃん、――桜。良かった……!!」
まだ昏く光を灯さぬ双眸。けれど、抱きしめた少女はおずおずと肩に腕をまわして応えてくれた。感情をなくしてしまったわけでは、ない。
伝わる確かなぬくもりと、手遅れにならなかったことに感謝しながら、雁夜は時臣が桜に優しい眼差しを向けているのを見た。
時臣が聖杯に願ったことは、マキリ・ゾォルケンの殺害。
同時に、桜に宿る魔術回路をなくすことだった。
桜が、姉と同じく持って生まれた天賦の才。それさえなければ脅威に晒されることもなくなる。
莫大な魔力を洗い流すには、更なる魔力が必要だ。聖杯に蓄えられた量ならば足りる。一般人としての人生を歩むことが出来る。
以前の時臣なら、“凡俗”として顧みなかっただろう道。だが、実際に桜と会えば、平穏こそが必要ではないかと思われた。
雁夜の死体も確認せず捨て置いたあの晩、止めを刺さなかったのは、彼の言葉に心揺さぶられたからでもある。 娘の幸福を願わない親などいない。諜報に長けた使い魔を間桐邸に遣らせ、そこで知り得たのは、――無数の蟲たちに犯され嬲られる桜の現状だった。
それがきちんとした修練なら、変わり果てた娘の姿も仕方がない。だが、鶴野を捕まえて吐かせた所では、継承ではなく胎盤扱い。
怒りで視界が赤く染まった。
すぐさま桜を連れ出して屋敷を灰にしようとしたが、臓硯が容易く滅ぼせない吸血鬼であることを思いだして考え直した。
(何としてでも、桜を取り戻す!)
それを可能とする奇跡を、時臣は手に入れられる。
こうして、聖杯戦争創始者の一人であるマキリの初代当主は、聖杯の力を以て絶命することとなった。
根源へ至るという、歴代遠坂の悲願を捨ててでも、時臣は娘の幸福を優先させたのだ。
「じゃあ、これからは二人とも手元で育てるんだな? 桜ちゃんは遠坂に帰れるんだよな?」
長く会っていると体に障るから、と、桜は綺礼に手を引かれ自室に戻った。
あたたかな表情で雁夜は尋ねる。
「……養子にやられた一年余り、あの子は君の存在を支えにしていたんだ。君なら魔術に縁のない生活を教えてやれる」
どうかあの子を頼む、と必死に頭を下げる彼女の様子は、決意を秘めているように思えた。
「俺は構わないけど、時臣、お前、何か隠してることがあるだろ?」
――話せよ、でなければ受けようもない。
彼女は俯き、私は冬木を出て行こうと思うんだ、と話した。
+++++
彼の外出を阻むために身を任せる。
これは戦略なのだからと言い訳を重ねて。
「貴女がそこまでする理由は何なんです?」
大事な協力者である綺礼に、射るような眼差しで問い詰められ、言葉を濁した。
英霊に何をされたかは打ち明けてあった。時臣から切り出さずとも、邸を護衛していたアサシンから主への報告がいくだろう。そんな気まずい露見は嫌だ。
拒めなかったのだと、潔癖な弟子が呆れるよう軽く告げれば、綺礼は渋面を深くした。
「聖職者である君には聴くに耐えない話をしてしまってすまない……けれど、」
「私には、師が無理をなさっているように見えます」
どんな局面でも優雅で、サーヴァントにも丁重な振る舞いを見せる彼女。けれど、時折恋い求める視線を“ギルガメッシュ”に注いでいた。
綺礼は、時臣が芽生えた想いを必死に殺そうとしている葛藤を間近で見ていたのだ。
令呪を用いた腹いせに、あの傲慢なサーヴァントはマスターを組み敷いたのだという。彼女が憐れでならなかった。
「気のせいだよ、私は無理などしていない。これも作戦のうちだと思えば何ともない」
……やはり綺礼に弱音を吐くつもりはないらしい。虚勢であることは明らかなのだが。
これはギルガメッシュの方に直談判した方が早いな、と綺礼は思った。
多少きつく言わなければ、時臣はますます傷ついていくだけだろう。
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