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つむぎとうか

   
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新たなはじまりのために
英セー、仏←モナ
イギリスがセーシェルにプロポーズしてから。

それは、かたちは異なれどはっきりと求婚の言葉であったのだ。
『きょうからお前が、この庭の主人だ』
嬉しくて、足元がふわふわ浮いた。慌てて支えたイギリスの両腕にがしっとしがみついた。
『危ないだろ、怪我したらどうするんだ!』
緊張のためか真っ赤な頬をこわばらせ、吐息がかかるほどの距離で囁く恋人。
宗主国と植民地の立場を脱しても、不安は消えなかった。いつ終わりが来るのだろうと怯えていた。
もう、離す心配をしなくていいのだろうか。
『イギリス、さん・・・夢じゃなく、ずっと一緒にいてくれますか?』
『何度眠って起きても覚めねえよ』
セーシェルが泣き出したのを宥めるべく、落ち着きを取り戻したイギリスはぽんぽんと彼女の頭を撫でた。
『俺以外には立ち入らせなかった庭だ。手入れの仕方もひとつひとつ教えてやるから、ちゃんと世話していこうな』
二人で、協力して。

「そんなやり取りがあったのか」
腕を組みうーむと唸ったのはモナコだ。心底羨ましげな響きである。
「だから、庭の都合もあってこちらにお招きしたんですよ。フランスさんは渋ってましたけど」
国同士が結婚するといっても大々的に公表はしないから、内輪の――といっても知り合いの国家は殆どが押しかけてくるだろうが――ウェディングパーティーを開催する運びになった。
日程は一ヶ月後。フランスとモナコが主宰進行役を申し出た。
今日は初めての打ち合わせである。
「フランスさんは過保護だから」
はらり、金色の三つ編みをほどいてモナコは嘆息する。甘やかされるとつい頼ってしまい、髪を縛るのだって自分ではうまく出来なかった。
「あ、水やりのタイミングなので失礼しますね。植物毎に微妙にずれてて面倒なんですよ」
そう言いながらも、軽やかな足取りでドアに向かうセーシェルは幸せそうだ。
フランスが旧知の彼女を祝福したがるのは当然のことだが、モナコは彼のそばに居たいがために志願した。二人に最高のパーティーを贈りたい気持ちに偽りはないけれど。
(あさましいな)
休日にはモナコの家に遊びに来てくれる彼の、心を独占したいと願ったのはいつからだったろう。イギリスとセーシェルも、お互い素直になるまで時間はかかったと聞く。
だが、いつまでも停滞していたくはない。
「お待たせしました。紅茶も用意しましたよーっ」
香り高い湯気の上るカップを盆に乗せ、新たな女主人が打ち合わせの続きをと促した。
が、
「まずは台所、だろうか」
「はい?」
ひとりごちたモナコにセーシェルは小首を傾げた。
「セーシェル、貴女がイギリスの一番大事な庭を任されたというなら。私とフランスさんの場合、キッチンの使用権だと思うんだ」
モナコが料理が苦手だというより、これまでフランスの独壇場だった、というのが正しい。
「今日も含めて、あのひとが参加しない打ち合わせは何度かあったな?差支えなければ、この家で特訓させてもらえないだろうか」
「そ、それはイギリスさんに許可を得ないと」
早速さきほど解いた髪を後ろで結んでいる。やる気満々のモナコに、セーシェルは気圧された。
「私もレパートリー増やしたいですし・・・フランスさんには秘密、ですね」
セーシェルは微笑んだ。セクハラ三昧だった元保護者が、少しだけ素行を改めた理由。
モナコは脈ありとはわかっていないようだが。
(私とイギリスさんをからかった罰ですよ。二人がくっついたら、さんざん絡んであげますから!)
ひとまずパーティー案を進めてしまおう。
仕事で帰ったイギリスに、モナコと協力してとびきりの御馳走をふるまってあげるのだ。

フランスも同席で打ち合わせする時、モナコへの柔らかい接し方にイギリスが驚き、婚約者から事情を知らされるのはこれから三日ほど後のことになる。

終わり

「私たちと同じくらい幸せになってもらいたいですね」
「無理だ。どんなに頑張っても俺たちの次がいいとこだろう」
「珍しくフランスさんに優しいですね」
「紳士だから淑女のモナコに優しいだけだ。妬くなよ」
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