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つむぎとうか

   
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迷走行進曲 8
燐勝はいちゃついとけ

 廊下で、見慣れた明るい髪色とすれちがった。
 徐々に生徒の数が増す時間帯。雪男も通常通りに登校し、別棟まで出向いた志摩がちょうど引き返す所に遭遇した。
 勝呂も自分もクラスは異なれど特進科、普通科の彼が遊びに来るのを幾度か目撃したことがある。今朝に限っては、気軽な用件であったはずがないが、やけに 清々したような表情を浮かべていた。教室に入ろうとする勝呂も見えた。
「おはよう、勝呂君」
 思わず声を掛けた。HR開始まで後5,6分。
「せ、……奥村」
 高等部で接する機会はあまりないためか、怪訝な顔をされたが別にいい。普段の丁寧さはこういう時邪魔だ。鞄を置く暇も与えずに、腕を掴んでずんずん歩い て行く。

 持ち歩いている鍵を使って、無人の教室へ。チャイムの音が響いたが気に留めない。
「始業時刻やないですか」
「僕も君も優等生なんだから平気でしょう」
 一度のサボリくらい大目に見てもらえますよ――有無を言わせぬ声音に勝呂は溜め息を吐いた。真面目な人ではなかったのか。
 講師という意識がはたらいて、あまり話したこともなかった彼だが、同学年で教室は隣接しており、距離だけなら志摩や子猫丸より近いのかもしれない。それ に燐の弟である。
 塾では厳しくしていても、兄を大切にしていることがわかりやすい人。雪男に対峙するのが一番の難関な気がしていた。
「ちょうど君とは話さなければならないと思っていたんです。……兄とのことで」
 ほらきた、作り物めいた笑顔が。



 勝呂のことが好きだ。
 これまで人付き合いと縁が薄かった燐にとって、誰かに惹かれるなんてことは当然未知の経験だった。初めての友人に浮かれているからだとでも横から囁かれ たら、納得してその指摘を受け入れただろう。
 でも、どこかの時点で手遅れになった。同じく良くしてくれた志摩や子猫丸はおろか、女子のしえみと相席している時よりも勝呂とひとことふたことを交わせ た時の方が早鐘を打つ鼓動に、気づかないふりも限界で。
 ヘアピンをくれた。同じ目標を持つ自分に親切に課題の世話を焼いてくれる。仏頂面も詠唱系の授業を受けている時の活き活きした表情も、呆れたように頭を 撫でてくれる笑顔も。
 思考の全てが勝呂で埋まる。頬が紅潮し、もっと会っていたいと望むようになり。

 そうして、同じ熱を孕んだ志摩の視線に気づいた。

「一限中ずーっと雪男と一緒だったぁ!?」
「抑えろ、奥村。サボリバレたらいたたまれへん」
 昼休み、曇っているためか屋上には誰もいない。
 メールにわくわくして訪ねていったら、弁当を口にしながら衝撃の告白。堅物な弟が、勝呂を連れ出し共にサボった、だなんて。――素直に羨ましがればデコ ピンされた。
「奥村先生はな、俺たちの交際に賛成も反対もしてはらへん。志摩がはっきり反対派になったなら、自分は中立でいる、て決めはった」
 正体と言う最大のターニングポイントがあるから、雪男が賛成などしてくれるはずがないが、それよりも。
「志摩?あれから志摩にも会ったのか!?」
 昨夜の今朝で。まさか再び迫られたのか。

 伝えられた言葉に燐は激怒した。
「何なんだアイツ、反省ってか不敵になっただけじゃね?勝呂に謝っても俺には宣戦布告とか……勝呂、お前揺らいだりしてねーよな!?」
「あんま見くびんなやボケ」
 そうフラフラ心動かしたりするか。
「俺はなぁ、奥村やから頷いたんであって……志摩は幼なじみの友人やっ」
 照れ隠しに勝呂は怒鳴った。きょとんとした燐は意味を理解して反射的に抱きすくめた。馬鹿力はこういう時便利だ。
「真っ昼間やろうが、離せ」
「勝呂が可愛いこと言うからだろー」
 志摩にも、誰にも渡してなるものか。初めての恋。幸せなのだ、こんなにも。
(――もし、俺の正体がバレたら?)
 無邪気にじゃれ合う時間の心の端で。
 好きになるほど重たくなる秘密に、痛みが広がった。
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