つむぎとうか
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無自覚表明
柔造視点
子供好きで面倒見が良い。性格は短気だが、熱血漢で周囲から慕われる。
志摩の跡取りにして上級職員の柔造は、昔から意識せずとも女性にモテた。
が、彼女は居ても長続きしたためしがなく、相手が現れないから結婚など考えていなかった。
そんな柔造の元に、心配性の親戚から見合い話が持ち込まれたのは春先のことである。
「俺に嫁さんて……気ぃ早いでおばちゃん」
「何悠長なこと言うてはるの。あんたとこは兄弟ぎょーさんいはるんやから、上はとっとと落ち着いた方がええ」
縁談となると途端に張り切る親戚に根負けし、両親も「いっぺんくらいなら」と引き受けたのだという。本人に知らされたのが前日夜では、断りようがないではないか。
不機嫌を笑顔で抑えて、押しつけられたスーツを着た。
さほど遠くないホテルが会場だというので、倹約を旨とする柔造は徒歩で向かうことにした。角が立たない断り文句を反芻しながら。
「慣れへん格好してどないしたん?」
――たった十秒で知り合いに遭遇してしまった。
声を掛けてきたのは宝生家の長女。休日なので髪を下ろして和服でもないが間違えようのない。
明陀が正十字騎士団と連携してから対立してばかりだが、幼なじみで祓魔師仲間でもあった。
「洋装なのはお互い様やろ、蝮。めかしこんでどないした」
「町まで買い物に行くだけや。スーツ着とる人と一緒にせんといて」
つんとそっぽを向く様子は、仕事絡みの時と同じ。昔はまだ素直だったのに。
「俺かて野暮用済まさなあかんのや。面倒やわ」
溜め息と共に気を引き締めた胸元に、蝮の腕が伸びてくる。
「ようわからへんけど、ネクタイ歪んでる。じっとしよし」
近い距離。鼻腔をくすぐる、花に似た香りに眩暈がした。
(つくづく読めへん女や。普段は水みたいに静かやのに、俺らには喧嘩腰で。そのくせこうして世話焼いて)
蝮にも妹たちがいるからだろうが、柔造の方が年長なのに。
「中身はとにかく、これで見映えはましになったわ」
「素直におおきに言わせろや」
離れていく両手を、名残惜しく思っただなんて認めたくない。
見合い相手は偶然にも元同級生だった。
「久しぶりやねー、志摩君」
懐かしそうに目を細める彼女。あろうことか元恋人でもあった。
中三の冬から数ヶ月付き合って、卒業と同時に別れた記憶がある。
「元気にしとった?」
「うん、お仕事頑張ってるんやて?ますますカッコようなったって噂されとるで」
彼女も見合いには乗り気でなかったそうだが、柔造の名を聞いて引き受けたのだそうだ。思い出話をしたいと望んだらしい。
「そっちこそ美人になったなあ。フラれた時はショックやったで」
元々、柔造には恋愛音痴な所があった。彼女とも確か告白してくれたのをきっかけに付き合うことにしたのだが、東京と京都で高校が分かれ、『続けていく自信あらへん』と引導を渡されたのだった。
「嘘やね。志摩君まさか、うちが自信なくした理由も覚えてへんの?デートしとる時も電話しとる時もこっち見てくれてへん彼氏なんてもう無理やて、あの時言うたやん」
綺麗さっぱり忘れていた。
『志摩君、他に気になる女の子おるやろ?』
身に覚えはなかったのに、食い下がって関係を続ける気にもなれなかった。高校入学後も似たような経緯ばかり辿っていた。
最後の一年なんて、忙しさも手伝って恋人そのものがいなかった。
(ほんまに忙しかったんだけが原因か?俺が正十字三年の時期っちゅうと……)
入学してきた幼なじみに構ってばかりいた頃だ。
「あの時も、特別な相手なんて思いつかんかってんけど。もしかして、心当たりあった?」
彼女は呆れたようなジト目で柔造を見た。――まだわかってないの?とでも言いたげに。
「ずっと、志摩君の特別は宝生蝮ちゃんやろって考えてたで」
恐らく現在も。名前を出しただけでわかりやすく反応するくらい。
「蝮やて?あいつとは顔合わすたび衝突ばっかや」
「ふうん、まだ進展してへんかったん?じれったいなあ」
目を細める彼女の誤解を解きたかったが、うまく反論できなかった。
その後も積もる話に花が咲き、結局、見合い話は流れた。
翌朝。
出張所の玄関先で、青と錦に捕まった。
「ちょっと待ち、志摩め!姉さまに何したん!?」
「昨日あんたに会うてから、姉さまが塞いでしもたやないの」
「挨拶もなしにいきなり何や」
姉を敬愛する妹たちは、姉とは異なり騒がしい。
金造が現れ耳打ちしてきた。
(蝮が気にしとったから、柔兄が見合いやて教えたんや。なあ、もしかして俺のせい?)
(まさか。俺の縁談なんてあいつにはどうでもええやろ)
でも、もし弟の予想通りだったら。
そろそろ、己の気持ちを見極める時なのかもしれない。
何も知らず出勤してきた蝮に問い質した柔造が、真っ赤になった彼女に頬を張り飛ばされ。
「やっぱりお前はかわいげ皆無や!」と短気を発動させるのは、この五分ほど後のことである。
志摩の跡取りにして上級職員の柔造は、昔から意識せずとも女性にモテた。
が、彼女は居ても長続きしたためしがなく、相手が現れないから結婚など考えていなかった。
そんな柔造の元に、心配性の親戚から見合い話が持ち込まれたのは春先のことである。
「俺に嫁さんて……気ぃ早いでおばちゃん」
「何悠長なこと言うてはるの。あんたとこは兄弟ぎょーさんいはるんやから、上はとっとと落ち着いた方がええ」
縁談となると途端に張り切る親戚に根負けし、両親も「いっぺんくらいなら」と引き受けたのだという。本人に知らされたのが前日夜では、断りようがないではないか。
不機嫌を笑顔で抑えて、押しつけられたスーツを着た。
さほど遠くないホテルが会場だというので、倹約を旨とする柔造は徒歩で向かうことにした。角が立たない断り文句を反芻しながら。
「慣れへん格好してどないしたん?」
――たった十秒で知り合いに遭遇してしまった。
声を掛けてきたのは宝生家の長女。休日なので髪を下ろして和服でもないが間違えようのない。
明陀が正十字騎士団と連携してから対立してばかりだが、幼なじみで祓魔師仲間でもあった。
「洋装なのはお互い様やろ、蝮。めかしこんでどないした」
「町まで買い物に行くだけや。スーツ着とる人と一緒にせんといて」
つんとそっぽを向く様子は、仕事絡みの時と同じ。昔はまだ素直だったのに。
「俺かて野暮用済まさなあかんのや。面倒やわ」
溜め息と共に気を引き締めた胸元に、蝮の腕が伸びてくる。
「ようわからへんけど、ネクタイ歪んでる。じっとしよし」
近い距離。鼻腔をくすぐる、花に似た香りに眩暈がした。
(つくづく読めへん女や。普段は水みたいに静かやのに、俺らには喧嘩腰で。そのくせこうして世話焼いて)
蝮にも妹たちがいるからだろうが、柔造の方が年長なのに。
「中身はとにかく、これで見映えはましになったわ」
「素直におおきに言わせろや」
離れていく両手を、名残惜しく思っただなんて認めたくない。
見合い相手は偶然にも元同級生だった。
「久しぶりやねー、志摩君」
懐かしそうに目を細める彼女。あろうことか元恋人でもあった。
中三の冬から数ヶ月付き合って、卒業と同時に別れた記憶がある。
「元気にしとった?」
「うん、お仕事頑張ってるんやて?ますますカッコようなったって噂されとるで」
彼女も見合いには乗り気でなかったそうだが、柔造の名を聞いて引き受けたのだそうだ。思い出話をしたいと望んだらしい。
「そっちこそ美人になったなあ。フラれた時はショックやったで」
元々、柔造には恋愛音痴な所があった。彼女とも確か告白してくれたのをきっかけに付き合うことにしたのだが、東京と京都で高校が分かれ、『続けていく自信あらへん』と引導を渡されたのだった。
「嘘やね。志摩君まさか、うちが自信なくした理由も覚えてへんの?デートしとる時も電話しとる時もこっち見てくれてへん彼氏なんてもう無理やて、あの時言うたやん」
綺麗さっぱり忘れていた。
『志摩君、他に気になる女の子おるやろ?』
身に覚えはなかったのに、食い下がって関係を続ける気にもなれなかった。高校入学後も似たような経緯ばかり辿っていた。
最後の一年なんて、忙しさも手伝って恋人そのものがいなかった。
(ほんまに忙しかったんだけが原因か?俺が正十字三年の時期っちゅうと……)
入学してきた幼なじみに構ってばかりいた頃だ。
「あの時も、特別な相手なんて思いつかんかってんけど。もしかして、心当たりあった?」
彼女は呆れたようなジト目で柔造を見た。――まだわかってないの?とでも言いたげに。
「ずっと、志摩君の特別は宝生蝮ちゃんやろって考えてたで」
恐らく現在も。名前を出しただけでわかりやすく反応するくらい。
「蝮やて?あいつとは顔合わすたび衝突ばっかや」
「ふうん、まだ進展してへんかったん?じれったいなあ」
目を細める彼女の誤解を解きたかったが、うまく反論できなかった。
その後も積もる話に花が咲き、結局、見合い話は流れた。
翌朝。
出張所の玄関先で、青と錦に捕まった。
「ちょっと待ち、志摩め!姉さまに何したん!?」
「昨日あんたに会うてから、姉さまが塞いでしもたやないの」
「挨拶もなしにいきなり何や」
姉を敬愛する妹たちは、姉とは異なり騒がしい。
金造が現れ耳打ちしてきた。
(蝮が気にしとったから、柔兄が見合いやて教えたんや。なあ、もしかして俺のせい?)
(まさか。俺の縁談なんてあいつにはどうでもええやろ)
でも、もし弟の予想通りだったら。
そろそろ、己の気持ちを見極める時なのかもしれない。
何も知らず出勤してきた蝮に問い質した柔造が、真っ赤になった彼女に頬を張り飛ばされ。
「やっぱりお前はかわいげ皆無や!」と短気を発動させるのは、この五分ほど後のことである。
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