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つむぎとうか

   
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忍ぶれど
がくぽとルカとカイト。
愚者と鈍者と卑怯者。

魔が差したとしか言いようがない。
収録が終わったばかりのスタジオで。がくぽは共演者である桃髪の女性に挨拶をしてから帰ろうと、控室のドアを叩いた。
返事はなかったが、扉が僅かに開いていたので隙間から様子を窺う。
ルカは机に突っ伏して眠っていた。
「風邪をひくぞ」
起こしたくはなかったが、衣装のまま着替えてもおらず寒そうだったので、羽織っていた上着をふわりと被せた。
別のジャケットが自分のロッカーに置いてあるはずだ。
「お疲れ、ルカ」
小声で囁きかけてみる。目覚める気配はなかった。
刹那、身を屈ませ、白い頬に接吻を落としていた。
それは決して見られてはいけない行為だったのに。

「気づかなくてごめん」
自分の控室に戻り、替えの上着を袖に通しているとき。
入れ替わりで仕事に訪れた青いマフラーを纏った男が開口一番、頭を深く下げた。
「どうした、カイト?」
「がくぽはルカのことが好きだったんだね」
疑問ではなく確信を携えた声の調子で、目撃されていた先ほどの邪心をひどく悔やむ。
しかし後の祭りだ。
「ルカはカイトと交際しているだろう」
その当人と目と鼻の先で、済まなかった、と。告げる語尾は震えてしまった。
「でも、君を苦しめてしまったから」
――やっぱり、ごめんね。
「そんな泣きそうな顔しないでくれ」
俺が悪いんだから。
逃げるようにその場を離れた。

後日、ルカが上着をクリーニングに出した上で返却に訪れた。
「ありがとう」
「大したことはしてない」
「あら、取るに足らないことだったかしら?私へのキスは」
瞬時に全身が強張る。まさか。あのとき彼女は、すうすうと寝息を立てていた筈だ。
「触れられたらわかるわよ」
どうだった?私を通してあのひとに近づく錯覚でも味わえたかしら。
淡々と、すべてわかっているように冷静に紡いでいく。
奥底に潜ませているのは嘲笑か、それとも憐憫だろうか。
勝ち目のないことなど最初からわかりきっていたのに。
「頼む、カイトには秘密で」
「言わないわ。あなたが彼を好きだなんて」
…彼女の無防備な姿を見たとき。
どうしようもなく知りたくなった。彼が愛しんでいるだろう、頬の感触を。
彼が惹かれたのであろう柔らかさに。
「あの時はどうかしてたよ」
「そうね、二度目はないわ。彼自身に迫られるよりは幾分ましだけど」
カイトに気持ちを伝えるなんて出来やしない。誤解されていなかったとしても、友人の立場まで失うかもしれないから。
ルカが去ってからしばらくの間、がくぽは失恋の痛みに打ちのめされていた。

(彼に告げたら許さない)
ルカの足取りも軽くはなかった。彼女が恋人の位置に居られる理由は、単にタイミングに過ぎない。伝える順番が違えばどうなっていたことか。
カイトの「好き」は恋とは異なる、親愛と呼ばれる類のものだったから。
側にいるのに片思いだなんて虚しい。
いつか、胸を張れるようになれるだろうか。壊れることに怯えないように。
(溢れる想いの半分でいい、彼が受け取ってくれますように)

終わり
 

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