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つむぎとうか

   
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Cendrillon 3
その三。

一曲限りの約束を、何度も延長して。
宴が終わるまで、カイトは彼女に魅了されっ放しだった。
とうとう名前も教えてもらえなかったが。
「貴女は何者だ?」
「最初に呼びかけた時から、貴方は見破ってらしたじゃありませんか」
咲き誇る大輪の薔薇。
「鐘が、鳴っています」
掴まれた腕を振り払うわけにもいかず、彼女は囁く。
「残念だ」
素直に離す前に、跪いて手の甲に口づけた。

メイコは、ぎこちなく笑い返した。
ほんの半刻だけ、夢のような時間を過ごせた。息遣いがすぐ近くにある、甘く幸せな夢。
続けられたならどんなに良かっただろう。
メイコは、童話のお姫様ではない。
「王子様には死を」
それが今回の任務。

鎮まりかえった闇の回廊で。
慎重に施錠を外すと、息を殺して扉内に身を躍らせた。
ドレスは動きやすいように裂いて、靴など装飾品は捨てた。借り物だから罪悪感を覚えたが、気にしていてはきりがない。
規則的な寝息の音から、ベッドの所在を探り当て、枕元に佇む。
両手に握り締めた刃を振り下ろそうとした、刹那。
眠っているはずのカイトが、がしりと鞘をとらえた。


客席で眺めているだけでは退屈でしょう、と。
王が中心になって気遣ってくれたので、和やかに時は流れていった。
がくぽは、無反応を決め込んでいた。
何を話しかけられても表情ひとつ動かさず、周囲も苦笑しながら受け容れていた。
光の宿らない瞳は、さっきルカを案内してくれたのとは別人のようだ。
これでは、日和見王子と呼ばれるのも仕方ないだろう。
(本当はどうなの?)
ちらりと送った視線を受け取ったのか。
彼は突然腰を上げた。
「せっかく遠い道中をいらっしゃったのだ、お相手願えるか?」

王子がフロアに出てくるのがそもそも初めてらしく、他の者は遠慮して壁に添ってしまった。
広い空間を独占してのダンスは、可もなく不可もなくといったところで。
もっと巧く踊る人を沢山知っているのに、胸の高鳴りが邪魔だ。
ルカらしくもない。
足を縺れさせてよろけてしまった。
「大丈夫か」
「・・・ええ」
軽く支えられているだけなのに、言葉さえまともに紡げない。
このままではまずい。
「途中ですみません、疲れてしまいました。少し外の空気を吸いたいのですけど」
人気の少ない場所は、歩いてきた途中でチェック済みである。
「一緒に居てもらえると心強いです」
上目遣いに見つめる。高く、ちいさな声で。
これまで断られたことのない頼み方だった。
いきましょうか、誰もいない物陰に。
喜劇に幕を下ろすために。

ステンドグラスが、明かりを集めて輝いていた。
「気分が悪いなら、部屋まで送って差し上げようか」
「いいえ。ただの口実ですから。――お聞きしたいことがあります」
胸元の首飾りを玩びながら、もう片手で剥き出しの項に手を伸ばす。
「貴方は、凡庸なんかじゃありませんよね?」
鋭く抉る、ルカの指を避ける様子もなく。
がくぽは、三日月のように目を細めた。

続く

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