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つむぎとうか

   
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Cendrillon 4
これでおしまい。


眠っていた。
殺伐としていた深夜からは、想像もつかないような安らかな寝息を立てて。
取り上げたのは立派な業物で、彼女はそれなりの重量の武器を身に着けながらも、軽やかに踊っていたのだ。
このまま帰すには惜しい、と。
欲望も交えて、カイトは引き止めたのだけれど。
「メイコ」
夜が明けようとしている。陽に照らされた彼女の血色は薔薇色で、生を象徴しているようだ。
朝には侍女が呼びに来る。カイトにしたら願ったりだが、困らせてしまうかもしれない。
このまま胸の中に閉じ込めてしまおうか?
腕に力をこめた途端、彼女はがばっと飛び起きた。

結局、兄の読みは当たらなかった。
ルカは急ぎ支度をして、国王夫妻に出立を報告した。
「お招き、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」
不肖の息子を、面倒見てやって下さい――王は喉まで出かかった台詞を飲み込んだ。
がくぽが周囲から軽んじられるような愚者ではないことを、父はよく知っている。
寄り添う存在によって、結果も左右されるだろうと。
妃候補を探しはじめて、隣国の姫に目をつけた。

隣国と同盟関係を結べば、脅威もなくなる。
若き君主・カイトの思考回路は簡単に読めた。彼なら妹を刺客として送ってくるだろう。
逆に取り込んでしまえば、うまくいくのではないか?
がくぽを呼んで、舞踏会の夜の行動を指示した。
息子は気が進まないようだったが、馬車から降り立つルカがもろに好みのタイプだったらしく。
自ら会場までの案内役を買って出たのだった。
『父上、あの姫は何やら企んでいそうですね。表情がそんな感じです』
『王族なのに野生児かお前は』
『口説いて嫁に貰って問題ないですね?』
こいつ今まで女に興味持たなかった癖に、と王は思った。
政治に着手させなかったのは、政争に巻き込みたくなかった王の親心だが。
『構わないさ、聡明さも身分も折り紙つきの良縁だ。国を支える一翼になってくれるだろうて』
しっかり掴まえろよ。
どうやら本気らしい息子の目の色に、苦笑しながら背中を押した。

暗殺は失敗に終わった。
カイトの危機察知能力は予想以上に長けていて、名を白状させられたメイコの依頼主も、すぐに縄にかかるはずだと言う。
「私を見逃してしまっていいの?」
「狙われた俺はぴんぴんしてるし、罪には問えないだろ?・・・第一、逃がす気なんてこれっぽっちもないし」
驚いたように見開く瞳に、整った顔立ちの破顔が映る。
うっかり身を委ねてしまいそうになった、甘やかな幻想。
触れることが許されるはずのないもの。
「なっ、まさか寝呆けてるの!?どこの馬の骨かもわからない、しかも自分を襲ってきた女に向かって!」
「いや、我が王家は直系さえ維持出来ていれば、結婚にも寛大だよ」
だからといって、初対面から一晩しか経っていないのに。
「高慢貴族からあてがわれる女などつまらない。貴女も、似たような気持ちでいてくれるだろう?」
忍びこんだ部屋で。
生命を奪おうとした瞬間、躊躇いが動きを鈍らせたのを知っている。
涙を一筋零したことも。
「まあ通じてないなら仕方がない。欲しいものがあったら、相手の意向など構わず手に入れるのが俺の信念だ」
「どこの盗人の言い種よそれ!」
もうすぐ王になろうとしている男は、油断していた彼女の腕を捕らえた。
型破りな求婚に返事がされるまで、あと数秒。

馬車の中が行きより狭いのは、定員が一名増えたせいである。
「あまりくっつかないで下さい。苦しいので」
「冷たい許婚殿だ」
距離が近いと、こちらの心臓の音まで伝わってしまいそうで嫌なのだ。
――がくぽが同伴しているのは、ルカの両親に婚姻の内諾を得るためである。
といっても国のトップ同士、さして苦労なく承認してもらえるだろう。
兄に言われるだろう皮肉を、想像しただけで気が滅入るが。
ルカの行動をお見通しだった策士だ。無理に排するより、手を組んだ方が双国に利益が得られるだろう。
何だかんだで、気に入った相手を害する結果にならなくてほっとしている。
そう、人間として好感を持っただけだ。政略結婚を受け容れてもいいかな、と思う程度には。
「別に、色恋になんて興味はないわ・・・」
「ならこれから教えて差し上げよう。俺はルカ殿にとうに心奪われているからな」
馬鹿みたい。
大真面目に愛を語るがくぽから顔を背けて、扇で隠して微笑んだ。

帰国したルカが、一夜にして現れた義姉なる存在に魂を飛ばしそうになり。
表情を緩めっぱなしの兄に天変地異を確信するのは、これより数刻後である。

終わり

 

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