忍者ブログ

つむぎとうか

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

あわれなけもの(前)
ミクとレンとリン。
スペクタクルPのThe Beast.を何回聴いても涙が止まりません。
昇華すべく文に仕立てました。
妄想過多ですので広い心でお願い致します。

ミク四肢と耳が獣で、あとは人姿を留めています。
レンの一人称が“オレ”だったりします。ミクの一人称はもちろん“僕”です。
かつレンミク風味。
前編はミクとレンしかいません。

風を受け止めたくて、煉瓦の隙間から腕を出した。
長く鋭い爪が伸びた、毛むくじゃらの指を伸ばして。
「・・・?」
掴まれたような感触に首を傾げる。
ここは誰も来るはずのない城。
ぬくもりなど、何世紀も以前に手放したものだったのに。
“窓”と呼ぶものを開ける。彼女の認識では、城の中=窓の外、だった。
世界を遮断し、人々の暮らしを眺めるために城を築いた。
遠い遠い、昔の記憶。

煉瓦越しの温度は錯覚ではなかった。
「そこにいるの?」
空虚に満ちた内部に似つかわしくない、明るい声が響く。
「ちょっと待ってて・・・、よっ、と」
高く積み上げた筈の煉瓦の、躊躇いもなく頂点に立ちこちら側へ飛び降りる構えを作る。
「木登りは得意なんだ」
誇らしげに言うが、足元が揺れている。――危ない。
案の定、バランスを崩した少年が落下してくるのを、反射的に受け止めた。

「邪魔。何しにここへ来たの?」
素っ気なく少年の衣服に付いた埃を払う。迷い込んだというより、明らかに冒険の延長で辿り着きました、といった風情だ。
金色の髪の少年は、空色の双眸を輝かせながら彼女の指を握って離さなかった。
なんて場違いな体温なのだろう。
「冷たいね。オレの方があったかく思えるくらいだ」
寂しかった?
何故かそう問われた気がして。
彼女は城の別の部屋に逃げようと駆け出した。
「足、捻ったなら手当すればいいから。こっちに構わないでよ!」
救急箱だけ投げてドアを閉めてしまったのに。

「オレは、レン。あなたの名前は?」
大声で答えを求める。いつ以来だ、この城が騒々しくなるのは。
「僕は」
そっと届けようとして、自分の名を本気で忘れかけていたことに気づく。
「――僕の名前は、たぶんミクだよ」

一人でも生きられる。
魔法をかけて獣の身体を手にした時も、完成したての城に入った時も、呪文のように心で唱えていた。
ミクが生を受けて数世紀。町は様変わりしているのだろうが、森の奥に住まうならば移ろいも目に映らない。
時折人間がふらっと訪れることはあったが、一夜の宿を求めた旅人も、この姿を見せたら慌てて引き返した。
傍らにはずっと孤独があった。

それなのに、レンはすぐに去ろうとしない。
「頭でも打ったんでしょう」
呆れた視線でため息を吐いたのに、レンはにっこり首を横に振った。
「ミクと、もっと話がしたいな」
やっぱり可笑しい。最初の時点で無理にでも追い返すべきだった。
がつんと無視を決め込む――のも三日目でミクが折れて、異形の彼女に柔らかく接するレンに城の案内までしてしまった。
(どうせ飽きられるまでの辛抱だ、深くは考えないでおこう)
カラーリングのせいばかりでなく、太陽を連想させる少年。ミクには眩しいだけだ。
「レンは、色々なものを持ってるね」
たまらず羨望を口にして、羞恥に表情が歪む。
「そうかな。ミクは魔法が使えるんだろ?食糧まで賄えるってすごいことだよ?」
――お腹が空くと野菜やら肉を召喚し(調理は自分で行う。獣姿だが生食は敬遠している)ていたミクに、レンは畑を作ってはどうかと提案した。
「オレも仕事がある方が過ごしやすいし。ここ、かなり恵まれた土壌だよ」
熱心に説く彼は農家の出身だという。
「僕も手伝える?」
ごく初期の、手ひどい拒絶が嘘のように、レンの隣に居る状態に慣れてしまっている。
なんとなく、これまでの非生産的な生活を見直そうかな、と思うくらいには。
僅かな光が絶えず射すようになったミクの城。
この日々がずっと続くなんて信じていないけど。
「大丈夫。教える教える」
レンの身の上話も、意図的に介入を避けてきた。

時の流れを止める魔法があれば。
なりふり構わず術を掛けたろうに。
半端なミクは、刹那を噛み締めることに最上の喜びを見出していた。

続く


PR
  
カウンター
Copyright ©  -- 紡橙謳 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]