つむぎとうか
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
転生義兄弟8
タイトル思いつかない小ネタ8。
まるで、失恋したてのような顔をしている。
(ふーん?)
切嗣は顎に指をかけた。所属してもいないのに生徒会室に居座るギルガメッシュは正直邪魔だったので追い出したいのだけれど、今日はいつもと様子がちがう。たとえるならば捨てられた子犬の風情である。
「遠坂先輩と喧嘩でもしたのか」
当てずっぽうだが、どうやら図星か。痛い所を突かれると、この後輩はふいっと視線を逸らすのだ。いつもの生意気で自信満々な態度は引っ込めさせて。
珍しい光景だ。切嗣に生徒会を託した後もさまざまに面倒を見てくれた――渋る切嗣を半ば無理矢理会長に就任させたのも彼だが――遠坂時臣は、穏やかな気質で義弟のギルガメッシュに振り回される一方だった。
(そうか、いつもと逆なのか)
「喧嘩できるほど仲が良かったかは疑問だけどな」
いつの間にやら立っていた綺礼に背後から囁かれた。知り合った当初からこの同級生は妙な出現方法で切嗣を驚かせてばかりいる。二年近くの付き合いになるので、もういい加減慣れた。
「君たち、傍から思われてるほど親しくないからねえ。でも遠坂先輩、そろそろ受験じゃなかったか? こんな時期に家庭内トラブルとか気の毒に」
「受験は取りやめだそうだ」
重たい声を引きずりながら、ギルガメッシュはそれだけ述べた。
「は? あの遠坂先輩が、か? 教師からも絶対合格のお墨付きで、模試でもずーっとA判定だったらしいのに」
「本当よ、センターの出願も下げたって言ってたわ」
花瓶の水を取り替えていた葵が戻ってきた。時臣のクラスメートの彼女も受験生だったが、冬以前に女子大への推薦合格を果たしている。
「さらに追加。時臣君はいま、事情があってしばらく家に帰っていないの。間桐家にお世話になっているそうよ」
「え、ちょっ――本当ですか!?」
次から次へと、品行方正な彼らしからぬ話ばかりがもたらされ、切嗣は混乱した。時臣が決しておとなしいだけの性格じゃないのは承知していたものの。
「家出の原因は、紛れもなくこの馬鹿弟にあるぞ」
綺礼にここまで虚仮にされたギルガメッシュだったが、言い返すどころか止めを刺されたように呻いた。
日頃の行いから、味方してくれる者はこの場にいない。全員一致で時臣を擁護するに決まっている。
「何をしたんだよ、一体」
さて、言い分くらいは聞いてやろうかと小突いたが、ギルガメッシュは沈黙を貫いた。
+++++
年が明けてすぐ、家を飛び出した。
父にも義母にも報告はした。これまで家事一切を引き受けていた上の息子が、しばらく離れる、と告げた時、この機会にギルガメッシュも少しは掃除洗濯炊事を 覚えるべきだ、と夫婦揃って反対しなかった。多忙で留守がちな両親だが、子どもの自主性を尊重してくれる人たちなのだ。
『外国の大学に行きたい、って、もっと早く言ってくれたら良かったのに。時臣、私はお前たちに好きなように生きて欲しいんだよ、援助だって惜しまないつもりだ。それが親というものだ』
父の慈しむような笑顔が眩しく、時臣は非常に後ろめたかった。
留学したいという一番の動機が前世の記憶で、現・義弟のギルガメッシュを避けたいがためだなんて口が裂けても言えない。義母だって不快に思うだろうし。
飛び出した所で高校生にそうそう当てなどなく、雁夜の好意で彼の家に身を寄せさせてもらっている。
「遅くなってごめん、雁夜。今日は買い物を頼まれてるんだっけ」
「ったく、爺も人使い荒いよな。時臣がいるからタイムセールに戦力が増えたー、とかさ」
「……お一人様一個の貴重さは私にもわかるよ」
この友人は、前世において魔術や父親である臓硯のことを毛嫌いしていたが、新たな関係を築いているらしい。
見覚えのある老人を祖父だと紹介された時、打ち解けている雁夜の姿に驚きもしたがほっとした。
(魂は同じでも、別の道だって拓けるのだ)
(ああでも、彼は覚えていないから、)
(私みたいに、囚われることもないのか)
羨ましい。あの日、いっそ忘れたままでいたかったと叫んだのは本心だ。
夢に苛まれ、現実まで浸食され、信頼していた弟子とサーヴァントに裏切られた記憶など甦らせたくなかった。
『思い出したのか? 時臣』
ギルガメッシュもどうやら承知しているらしい。いつから?
もしや、ずっと昔からわかっていたのか――だとしたら、兄弟になろうとする時臣を一体どのように思っていたのだろう。
またしても、己は王の掌の上で転がされるだけの愚かな人形にすぎないのか?
今度こそ、を願ったはずだった。
けれど、蓋を開けてみればどうだろう。
何も思い出さなかった頃すら、自分はギルガメッシュにつまらぬと評され続けた。表向きは笑って受け流しながら、内面では傷ついていることまで同じだ。
『いつ飽きられるかとびくびくするのはもう嫌だっ!』
放ったのは拒絶の言葉だったのに、
(“私”を見て、少しでいいから必要として。どうか捨てないで……!)
湧き上がる望みの女々しさ浅ましさに愕然とする。
魔術師の矜持を取り払った鎧の中身はあまりに醜い。
これ以上呆れられたくなかった。無様にしがみつけば、楽しかった半年間の思い出すらも壊れてしまう気がして。
雁夜や葵に相談しながら、時臣は今後の過ごし方について考えを巡らせた。
(ふーん?)
切嗣は顎に指をかけた。所属してもいないのに生徒会室に居座るギルガメッシュは正直邪魔だったので追い出したいのだけれど、今日はいつもと様子がちがう。たとえるならば捨てられた子犬の風情である。
「遠坂先輩と喧嘩でもしたのか」
当てずっぽうだが、どうやら図星か。痛い所を突かれると、この後輩はふいっと視線を逸らすのだ。いつもの生意気で自信満々な態度は引っ込めさせて。
珍しい光景だ。切嗣に生徒会を託した後もさまざまに面倒を見てくれた――渋る切嗣を半ば無理矢理会長に就任させたのも彼だが――遠坂時臣は、穏やかな気質で義弟のギルガメッシュに振り回される一方だった。
(そうか、いつもと逆なのか)
「喧嘩できるほど仲が良かったかは疑問だけどな」
いつの間にやら立っていた綺礼に背後から囁かれた。知り合った当初からこの同級生は妙な出現方法で切嗣を驚かせてばかりいる。二年近くの付き合いになるので、もういい加減慣れた。
「君たち、傍から思われてるほど親しくないからねえ。でも遠坂先輩、そろそろ受験じゃなかったか? こんな時期に家庭内トラブルとか気の毒に」
「受験は取りやめだそうだ」
重たい声を引きずりながら、ギルガメッシュはそれだけ述べた。
「は? あの遠坂先輩が、か? 教師からも絶対合格のお墨付きで、模試でもずーっとA判定だったらしいのに」
「本当よ、センターの出願も下げたって言ってたわ」
花瓶の水を取り替えていた葵が戻ってきた。時臣のクラスメートの彼女も受験生だったが、冬以前に女子大への推薦合格を果たしている。
「さらに追加。時臣君はいま、事情があってしばらく家に帰っていないの。間桐家にお世話になっているそうよ」
「え、ちょっ――本当ですか!?」
次から次へと、品行方正な彼らしからぬ話ばかりがもたらされ、切嗣は混乱した。時臣が決しておとなしいだけの性格じゃないのは承知していたものの。
「家出の原因は、紛れもなくこの馬鹿弟にあるぞ」
綺礼にここまで虚仮にされたギルガメッシュだったが、言い返すどころか止めを刺されたように呻いた。
日頃の行いから、味方してくれる者はこの場にいない。全員一致で時臣を擁護するに決まっている。
「何をしたんだよ、一体」
さて、言い分くらいは聞いてやろうかと小突いたが、ギルガメッシュは沈黙を貫いた。
+++++
年が明けてすぐ、家を飛び出した。
父にも義母にも報告はした。これまで家事一切を引き受けていた上の息子が、しばらく離れる、と告げた時、この機会にギルガメッシュも少しは掃除洗濯炊事を 覚えるべきだ、と夫婦揃って反対しなかった。多忙で留守がちな両親だが、子どもの自主性を尊重してくれる人たちなのだ。
『外国の大学に行きたい、って、もっと早く言ってくれたら良かったのに。時臣、私はお前たちに好きなように生きて欲しいんだよ、援助だって惜しまないつもりだ。それが親というものだ』
父の慈しむような笑顔が眩しく、時臣は非常に後ろめたかった。
留学したいという一番の動機が前世の記憶で、現・義弟のギルガメッシュを避けたいがためだなんて口が裂けても言えない。義母だって不快に思うだろうし。
飛び出した所で高校生にそうそう当てなどなく、雁夜の好意で彼の家に身を寄せさせてもらっている。
「遅くなってごめん、雁夜。今日は買い物を頼まれてるんだっけ」
「ったく、爺も人使い荒いよな。時臣がいるからタイムセールに戦力が増えたー、とかさ」
「……お一人様一個の貴重さは私にもわかるよ」
この友人は、前世において魔術や父親である臓硯のことを毛嫌いしていたが、新たな関係を築いているらしい。
見覚えのある老人を祖父だと紹介された時、打ち解けている雁夜の姿に驚きもしたがほっとした。
(魂は同じでも、別の道だって拓けるのだ)
(ああでも、彼は覚えていないから、)
(私みたいに、囚われることもないのか)
羨ましい。あの日、いっそ忘れたままでいたかったと叫んだのは本心だ。
夢に苛まれ、現実まで浸食され、信頼していた弟子とサーヴァントに裏切られた記憶など甦らせたくなかった。
『思い出したのか? 時臣』
ギルガメッシュもどうやら承知しているらしい。いつから?
もしや、ずっと昔からわかっていたのか――だとしたら、兄弟になろうとする時臣を一体どのように思っていたのだろう。
またしても、己は王の掌の上で転がされるだけの愚かな人形にすぎないのか?
今度こそ、を願ったはずだった。
けれど、蓋を開けてみればどうだろう。
何も思い出さなかった頃すら、自分はギルガメッシュにつまらぬと評され続けた。表向きは笑って受け流しながら、内面では傷ついていることまで同じだ。
『いつ飽きられるかとびくびくするのはもう嫌だっ!』
放ったのは拒絶の言葉だったのに、
(“私”を見て、少しでいいから必要として。どうか捨てないで……!)
湧き上がる望みの女々しさ浅ましさに愕然とする。
魔術師の矜持を取り払った鎧の中身はあまりに醜い。
これ以上呆れられたくなかった。無様にしがみつけば、楽しかった半年間の思い出すらも壊れてしまう気がして。
雁夜や葵に相談しながら、時臣は今後の過ごし方について考えを巡らせた。
PR
COMMENT