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つむぎとうか

   
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転生義兄弟9
タイトル思いつかない小ネタ9。

 ――ギルガメッシュと顔を合わせたくない、ってさ。
 泣きながら掛かってきた時臣からの電話に、雁夜は耳を疑った。弱った姿を見られまいとする友人がはじめて発する頼みごとだ。涙を拭いて落ち着け、と一旦受話器を置き、そのまま葵の家に連絡をとった。
 ――機械が苦手な時臣君が、一大決心で電話してきたんでしょう。よっぽど切羽詰まっている証拠よ。
 自室に電話線を引いていながら、怖がってほとんど使用しなかった時臣だから、きっと深刻な事態なのだろう。葵にこっそり憧れている雁夜にしてみたら会話のチャンスだが、友人を心配する気持ちの方が勝った。
 ――葵さんは、明日クラスで話を聞いてあげて? とりあえず、家に来させるよ。爺は客好きだし、余ってる部屋もあるから、場合によってはしばらく預かる。放っておけない。
 ――そうね、雁夜君。おじいさまによろしく。
 義兄弟の不仲は、どうも秋の終わりから続いていたらしい。同じ家に居ても時臣が徹底的に避けているそうで、もう心が保たないと消え入りそうに言った。
 去年の件といい、つくづく時臣にとってギルガメッシュは大きな存在なのだ。
 さて、と立ち上がる。心配でじっとしていられそうにもなかった。
 折り返し電話を入れたら、厄介な迷子を迎えに行くとしようか。

   +++++

 進路変更を伝えた時、指導担当のケイネスは難しい表情で黙り込んだ。叱られるかと身を固くしたが、彼はこんな提案をしてくれた。
『なら、私の家に下宿するのはどうだ?』
 現在は日本で教師をしているケイネスだが、イギリスの名門・アーチボルト家の出身だ。ぼんやりと英語圏への留学を考えていた時臣にとってはまさに渡りに船だった。
『三年近く、生徒会つながりで遠坂とは関わってきたのでな。優秀な学生を預かれるなら、私の家族も歓迎することだろう』
『では、お言葉に甘えさせていただきます』
 厳しい顔の下で、時臣の行く先を思いやってくれたのだとわかる。そのまま親切にあちらの大学制度などを詳しく説明してくれた。
 卒業と同時にイギリスへ渡り、下宿しながら語学試験の準備。合格すれば、秋から大学の前段階であるコースの受講が許可される――
 春からの道筋を描いて、沈んでいた気分が浮き上がっていく。
 きっかけはどうであれ、見聞を広めるにはまたとないチャンスだろう。
(これでいいんだ、きっと)
 もう関わらないことが、お互いにとって最善の選択肢に違いない。



 間桐家の庭に面した縁側で、専門書を広げているとからかわれた。
「受験をやめても勉強してるんだな、時臣は」
「これから英語が要るからね。雁夜だって毎日カメラを手入れしているだろう」
 四月から写真の専門学校に通うという雁夜は照れたように笑う。
「春の気配も濃くなってるからな、シャッターチャンス多いんだよ。あ、式ではばっちり泣き顔撮ってやるからな!」

 ギルガメッシュとの断絶は解消し得ないまま、卒業と旅立ちがすぐそこまで迫ってきた。




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