つむぎとうか
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転生義兄弟7
タイトル思いつかない小ネタ7。
夜、ベッドに寝転びながら、ギルガメッシュは考える。
かつてのマスターであった、先の“遠坂時臣”の記憶を呼び起こして。
あの男は、ついぞ執着心を示すことなどなかった。
いつも、遠く彼方にある理想ばかりを追っていた。
対峙していながら己を見ることはない男の態度が不快で憎らしく、やがてギルガメッシュは男に反旗を翻した。
結末は必定だった。ギルガメッシュを道具としか認識していなかった男は、目的さえ達せられれば躊躇もなく自害を命じたのだろう。王たるギルガメッシュを思い通りに扱おうなど言語道断だというのに。
けれど、捧げられた忠誠は紛れもない本物だったので、その分だけは報いてやろうか。
男の屍を足蹴にしたあと、ギルガメッシュは驚愕に開かれたままの瞼が硬直しないうちに閉じさせてやった。
濁りゆく虚ろな蒼に、最期まで映ることのなかった己の姿を、つかのま、無表情に見下ろして。
それが、前世での男とギルガメッシュの幕切れとなった。
――とらわれていたのは、本当はどちらだったのか。
+++++
秋になっても、相変わらず生徒会室への出入りはやめていない。
「時臣先輩の様子がおかしい」
開口一番に綺礼は告げた。
「我に言ってどうなる、そもそも奴はこの部屋にも寄りつかんではないか」
「当たり前だ、とうに引退しているのだから。さすがに最近は受験勉強に専念してらっしゃるそうだが……隈が出来るほどの無茶をなさるとは、彼の性格からして不自然でな」
じゃあお前はどこでその隈とやらを発見したのだ、と茶化してやろうと思ったがやめた。
どうせ、昼休みあたりにでも会いに訪れたのだろう。三年生の教室まで、わざわざ。からかっても顔色ひとつ変えず頷くに決まっている。
「しかし、お前に時臣先輩のことを尋ねても無駄だったか。朝晩顔を合わせていてもそれか、間桐先輩か禅城先輩に聞いた方が早いな」
「……前から思ってたがなぜ時臣だけ名前呼びなんだ貴様は」
相性だよ、などと抜かす。本当に良い性格をしていると思う。
衛宮切嗣への執着とは別に、綺礼は些か度が過ぎるほど時臣に懐いていて、同居しているギルガメッシュよりも彼に関して詳しいのでは、と思わせるふしがあった。
もっとも、時臣とは一年ちょっと前まで口も利かない疎遠さだったのだから、参考にならないだろう。現在だって会話が弾むとまでは言えない。顔を合わせて言葉を交わすようになっただけでもずいぶん進歩したのだ。
ほんの気まぐれで話しかけてやるだけでも、時臣はひどく嬉しそうに笑うから。
それは、転生前の“魔術師”遠坂時臣とは真逆の態度だった。英雄王への敬意は示していたけれど、心から笑まれた記憶などない。
「ギル」
あたたかい、親愛をこめた視線と声を向けられる。けれど、雁夜にも綺礼にも同種の感情を抱いているのだろうと思い当たり、苛立ちが募る。
(他の者と同列になどするな)
けれど言わない。時臣が自分で気づかなければ意味がないのだから。
奇妙な独占欲が芽生えたものだと、気づいた時には既に遅かった。
「どうかしたか」
「いや、」
綺礼の指摘で朝晩、時臣の様子をそれとなく見ていたが、確かに挙動不審だ。問い詰めたがはぐらかされるか、「夢見が悪くて」と断片を引き出すまでが関の山だった。
えいゆうおう、と意味もわかっていない表情で繰り返していた時は衝動で色々ぶちまけかけた。
「時臣、その単語はどこで拾ってきた」
「ただの夢だけど」
また、夢か。覚えていないくせに無意識の世界では英雄王が出演しているのか。面白くない、どうせならば思い出せ。
「夢なんかより、目先の受験のことだけ心配していろ。追求したところで何の益にもならぬ」
時臣は律儀に頷き、綺礼が無表情の下でにやけている。ギルガメッシュの胸にかすかな不安がよぎった。
(もし記憶が甦ったら、今度は我が避けられるようになるのか?)
呑気に夕飯をリクエストするどころか、手のひらを返したみたいによそよそしい接し方に切り替えられるかもしれない。嫌な仮定である。
憎まれるかも、とは何故か思わない。多分、手を下した綺礼さえ責めはしないだろう。時臣はそういう男だった。
ギルガメッシュとしては、まだしばらく家族ごっこを続けていたい。魔術師でなく学生で、己に“兄”と呼んでもらいたがっている時臣は打ち捨てたいような存在ではないから。
+++++
十一月。
帰宅したばかりの時臣を、怒りに任せて詰問した。
「ケイネスから聞いたぞ。この時期に希望進路を変えたのだそうだな」
「……アーチボルト先生も存外、口が軽い」
夏休みには、地元の大学に実家から通う、と言っていたのに、外国留学を希望するなどと、また随分極端な方針転換だ。
当然、勉強量も準備することも段違いに増えるはずだが、時臣はやると決めたら撤回しないだろう。
「ギルには関係ないだろう、私がどうするかなんて」
冷たく突き放すような口調なのに、語尾が震えているせいで泣き言みたいに聞こえる。
背中を見せた時臣の方を掴んで振り向かせた。
「ああ、関係ないな。だが、何も言わずに行くつもりだったのか?」
いつもは家族扱いするくせに、ここでも大事なことは隠しておくだなんて。
生まれ変わっても同じじゃないか。時臣はやはりギルガメッシュの存在を軽んじている。
「だって、君にとっては私がいない方が楽しいだろう? いつまで経っても退屈な男なんだから」
投げやりに吐き棄てる姿に違和感が生じた。
「思い出したのか? 時臣」
「忘れたままの方がどんなにましだったか」
絶望と怯えと、恐怖を混ぜた視線が刺さる。昨日まで感じていた親愛の情は跡形もない。
「今まで、つまらない“私”に付き合ってくれてたんでしょう――英雄、王……?」
問いかけの形だが確信を含んでいた。
「貴方の前から消えます。少しだけでも、家族として過ごせて嬉しかった。前世の私が望みながら伝えられなかった願いだったから」
もう、優しく“ギル”と呼ばれることもないのだと。
「待て、我はお前を疎んでいたわけじゃない」
「いつ飽きられるかとびくびくするのはもう嫌だっ!」
痛切な叫びに、思わず手を離す。
強い拒絶だけぶつけて、時臣はそのまま自室に去ってしまった。
以来、同じ家に住んでいるとは思えないほど顔を合わせていない。
食事の用意はしてくれる。卓を囲むことは本当に皆無になった。
空になった時臣の食器と、ギルガメッシュの食べる分が無人の居間にぽつりと置かれているという日々。
そのまま冬となり、受験シーズンに突入した。
かつてのマスターであった、先の“遠坂時臣”の記憶を呼び起こして。
あの男は、ついぞ執着心を示すことなどなかった。
いつも、遠く彼方にある理想ばかりを追っていた。
対峙していながら己を見ることはない男の態度が不快で憎らしく、やがてギルガメッシュは男に反旗を翻した。
結末は必定だった。ギルガメッシュを道具としか認識していなかった男は、目的さえ達せられれば躊躇もなく自害を命じたのだろう。王たるギルガメッシュを思い通りに扱おうなど言語道断だというのに。
けれど、捧げられた忠誠は紛れもない本物だったので、その分だけは報いてやろうか。
男の屍を足蹴にしたあと、ギルガメッシュは驚愕に開かれたままの瞼が硬直しないうちに閉じさせてやった。
濁りゆく虚ろな蒼に、最期まで映ることのなかった己の姿を、つかのま、無表情に見下ろして。
それが、前世での男とギルガメッシュの幕切れとなった。
――とらわれていたのは、本当はどちらだったのか。
+++++
秋になっても、相変わらず生徒会室への出入りはやめていない。
「時臣先輩の様子がおかしい」
開口一番に綺礼は告げた。
「我に言ってどうなる、そもそも奴はこの部屋にも寄りつかんではないか」
「当たり前だ、とうに引退しているのだから。さすがに最近は受験勉強に専念してらっしゃるそうだが……隈が出来るほどの無茶をなさるとは、彼の性格からして不自然でな」
じゃあお前はどこでその隈とやらを発見したのだ、と茶化してやろうと思ったがやめた。
どうせ、昼休みあたりにでも会いに訪れたのだろう。三年生の教室まで、わざわざ。からかっても顔色ひとつ変えず頷くに決まっている。
「しかし、お前に時臣先輩のことを尋ねても無駄だったか。朝晩顔を合わせていてもそれか、間桐先輩か禅城先輩に聞いた方が早いな」
「……前から思ってたがなぜ時臣だけ名前呼びなんだ貴様は」
相性だよ、などと抜かす。本当に良い性格をしていると思う。
衛宮切嗣への執着とは別に、綺礼は些か度が過ぎるほど時臣に懐いていて、同居しているギルガメッシュよりも彼に関して詳しいのでは、と思わせるふしがあった。
もっとも、時臣とは一年ちょっと前まで口も利かない疎遠さだったのだから、参考にならないだろう。現在だって会話が弾むとまでは言えない。顔を合わせて言葉を交わすようになっただけでもずいぶん進歩したのだ。
ほんの気まぐれで話しかけてやるだけでも、時臣はひどく嬉しそうに笑うから。
それは、転生前の“魔術師”遠坂時臣とは真逆の態度だった。英雄王への敬意は示していたけれど、心から笑まれた記憶などない。
「ギル」
あたたかい、親愛をこめた視線と声を向けられる。けれど、雁夜にも綺礼にも同種の感情を抱いているのだろうと思い当たり、苛立ちが募る。
(他の者と同列になどするな)
けれど言わない。時臣が自分で気づかなければ意味がないのだから。
奇妙な独占欲が芽生えたものだと、気づいた時には既に遅かった。
「どうかしたか」
「いや、」
綺礼の指摘で朝晩、時臣の様子をそれとなく見ていたが、確かに挙動不審だ。問い詰めたがはぐらかされるか、「夢見が悪くて」と断片を引き出すまでが関の山だった。
えいゆうおう、と意味もわかっていない表情で繰り返していた時は衝動で色々ぶちまけかけた。
「時臣、その単語はどこで拾ってきた」
「ただの夢だけど」
また、夢か。覚えていないくせに無意識の世界では英雄王が出演しているのか。面白くない、どうせならば思い出せ。
「夢なんかより、目先の受験のことだけ心配していろ。追求したところで何の益にもならぬ」
時臣は律儀に頷き、綺礼が無表情の下でにやけている。ギルガメッシュの胸にかすかな不安がよぎった。
(もし記憶が甦ったら、今度は我が避けられるようになるのか?)
呑気に夕飯をリクエストするどころか、手のひらを返したみたいによそよそしい接し方に切り替えられるかもしれない。嫌な仮定である。
憎まれるかも、とは何故か思わない。多分、手を下した綺礼さえ責めはしないだろう。時臣はそういう男だった。
ギルガメッシュとしては、まだしばらく家族ごっこを続けていたい。魔術師でなく学生で、己に“兄”と呼んでもらいたがっている時臣は打ち捨てたいような存在ではないから。
+++++
十一月。
帰宅したばかりの時臣を、怒りに任せて詰問した。
「ケイネスから聞いたぞ。この時期に希望進路を変えたのだそうだな」
「……アーチボルト先生も存外、口が軽い」
夏休みには、地元の大学に実家から通う、と言っていたのに、外国留学を希望するなどと、また随分極端な方針転換だ。
当然、勉強量も準備することも段違いに増えるはずだが、時臣はやると決めたら撤回しないだろう。
「ギルには関係ないだろう、私がどうするかなんて」
冷たく突き放すような口調なのに、語尾が震えているせいで泣き言みたいに聞こえる。
背中を見せた時臣の方を掴んで振り向かせた。
「ああ、関係ないな。だが、何も言わずに行くつもりだったのか?」
いつもは家族扱いするくせに、ここでも大事なことは隠しておくだなんて。
生まれ変わっても同じじゃないか。時臣はやはりギルガメッシュの存在を軽んじている。
「だって、君にとっては私がいない方が楽しいだろう? いつまで経っても退屈な男なんだから」
投げやりに吐き棄てる姿に違和感が生じた。
「思い出したのか? 時臣」
「忘れたままの方がどんなにましだったか」
絶望と怯えと、恐怖を混ぜた視線が刺さる。昨日まで感じていた親愛の情は跡形もない。
「今まで、つまらない“私”に付き合ってくれてたんでしょう――英雄、王……?」
問いかけの形だが確信を含んでいた。
「貴方の前から消えます。少しだけでも、家族として過ごせて嬉しかった。前世の私が望みながら伝えられなかった願いだったから」
もう、優しく“ギル”と呼ばれることもないのだと。
「待て、我はお前を疎んでいたわけじゃない」
「いつ飽きられるかとびくびくするのはもう嫌だっ!」
痛切な叫びに、思わず手を離す。
強い拒絶だけぶつけて、時臣はそのまま自室に去ってしまった。
以来、同じ家に住んでいるとは思えないほど顔を合わせていない。
食事の用意はしてくれる。卓を囲むことは本当に皆無になった。
空になった時臣の食器と、ギルガメッシュの食べる分が無人の居間にぽつりと置かれているという日々。
そのまま冬となり、受験シーズンに突入した。
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