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つむぎとうか

   
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Hello,my dear.
ふわっとした感じで読んでいただきたい観用少女パロ。
言時、雁桜、ディルケイソラ になる予定。

 凛、新しいお友達が欲しくはないかい――?

 父からそう切り出された時は、引っ越しでもするのかと身構えたものだ。
 現在、凛の小学校生活は至って順調である。二年生になってクラスが変わってからは以前にも増して多くの友人ができたし、だから投げられた問いに関しての答えは「ノー」なのだが。
「転校、ですか? わかりました、お父様も昔は外国にいらしたんですよね。どこで暮らそうとも、遠坂の娘として立派にやっていきます」
「いや、そういう意味じゃなくてね」
 時臣は慌てて訂正した。しっかり者に育ってくれた娘だが、やや先走る癖があるようだ。
 遠坂家は冬木の地主である。時臣も留学経験はあるものの、先祖代々の屋敷から離れる予定はない。
「学校は関係ないんだ。ちょっと、知人からの頼まれ事でね――プランツ・ドールを引き取って欲しいというんだ」
「うちにもプランツが来るんですかっ!?」
 プランツ・ドールは人形だが、ぬいぐるみなどとは明らかに違う。父が“お友達”と表現した理由がわかった。
「ああ、明日にでも店へ行こう」

 ただし、選んで購入、という話ではない。
 知り合いが子どものためにとわざわざ職人を呼び寄せてまで作らせたはいいが、完成した頃には彼は夫人と離婚し、可愛がっていた子とも別れ別れになった。
 そんな苦い経緯で、新品の人形を引き取らないか、と持ち掛けられたのである。
 急な話ではあるが、忌避する理由もないので承諾し、プランツドールは遠坂家にやってくることとなった。
「私、おじさんの所のサクラちゃんみたいな子が良いです!」
 わがままなど滅多に言わない凛だが、期待に満ちた眼差しで父へと語りかけた。
 サクラというのは妻の幼なじみである間桐雁夜が世話している人形である。
 独身男がアパートで面倒見きれるのだろうか、という心配はどうやら無用で、ちゃんと愛情を注いでさえいれば問題ないという。プランツ専用のミルクや肥料は驚くほど値が張るが、市販の牛乳でもちゃんと飲んでくれるのだそうだ。
 つまりは、環境よりも持ち主次第。
「ううん、どんな子でも楽しみだわ」
 色々なお洋服を着せて、一緒に本を読んで――サクラと遊ぶ時もそうしているのだろう、世話焼きな姉みたいな表情をしている。時臣は瞳を細めた。
(プランツを迎えるのは軽いことではないと言われるが、凛ならきっと大丈夫だろう)
 生来の楽天家気質と、親馬鹿も手伝って、明日の予定を呑気にとらえていた。
 
 ただ、彼はうっかり伝え損ねていた。むしろ自身でも忘れていた。
 知り合いから託されたのは、少年人形であるということを。



 冬木に店を構える、大富豪が道楽で運営しているらしい道具屋は、用途のよくわからぬ奇品珍品が並べられており、変わった物を好む人々から愛されている。
 中に入ると、とてつもなく態度のでかい金髪紅眼の男がふんぞりかえっている。若く見えるがれっきとした店主である。
 凛を携えて重厚な扉を叩いた時臣は、早速じろじろと検分される羽目になった。
「貴様が、あの人形を買う、と?」
 客に対してとんでもない物言いだが、不思議と不快にならない。偉そうだがどこか気品を感じさせる男性だった。
「ええ、紹介を受けた遠坂です」
「他の人形とはいささか毛色が異なるのでな、店には出しておらぬ」
 こちらだ、通された奥の部屋は、雑な店内とは違い、整然とした印象を受けた。 
「……人形<あれ>が埃を厭うものだから」
 おや、と時臣は意外に思った。尊大な態度の端から優しさが滲んでいたから。
 それは凛も感じ取ったらしく、物怖じせずはきはきと話しかけた。
「私、プランツのお友達がいるのよ、金ぴかのお兄さん。サクラちゃんって子、覚えてる?」
「ほう、威勢の良い小娘、お前はサクラを存じておるのか。ふらっと雨宿りに来た雑種に“起こされ”て、我は骨を折ったぞ」
「ねてたの? サクラちゃん」
 無邪気に小首を傾げる娘に、時臣は分かる範囲での解説を試みる。
「いや、凛、観用少女は作られた時は眠っているのだそうだよ。持ち主に出会ってはじめて目覚めるらしい」
 “名人”の称号を持つ職人が丹精こめて作り上げ、夢を見ながら待ち続けるのだ。
 自分に愛情を注いでくれる持ち主が現れる日を。
「眠り姫みたいですてき。でも、私で起きてくれるのかなあ」
「心配いらないよ。お前は遠坂の娘なのだ、どうしてプランツに嫌われたりするものか」
 時臣は何の根拠もない太鼓判を押した。店主は呆れた様子だが、凛は尊敬する父に言われて不安がどこかへ行ったらしい。碧眼をきらきら輝かせている。
「貴様、間違ってはおらぬが情緒に欠ける言い方だな。ふん、つまらん」
「ちょっと、お父様をバカにしないでくれる!?」
 勝ち気な娘が喧嘩をはじめる前にと、時臣は青年に尋ねた。
「それで、“闇夜”は何処に?」
 正式な名前はもちろん持ち主が決めるのだが、知り合いは依頼段階から仮名として呼んでいたのだそうだ。
「……待っておれ、連れて来てやる」
 少しして、青年の腕に抱かれ現れたのは少年の姿をした人形だった。
 てっきり女の子と思い込んでいた凛は目を丸くした。口もぽかんと開けて、優雅さはどこへやらだ。
 だが、時臣は娘をたしなめることをしなかった。彼も、はじめて至近距離で見る存在にすっかり魅了されていたから。
「さて、こやつを目覚めさせられるかな?」
 店主は面白そうに成り行きを傍観している。
 息を呑んで人形を凝視する父娘に応えるかのように、やがて“彼”はまぶたを震わせた。

 その瞬間を、時臣はずっと忘れないだろう。
 ゆっくりと開かれた双眸に、二人はおそるおそる手を伸ばした。

   +++++

 滑らかで絹糸のような漆黒の髪。手を伸ばし、梳いたそれはさらさらと指通りが良い。
「はい、支度完了だよ」
 ブラシを持った時臣がにっこり微笑みかけると、じっとしている少年の肩をぽん、と叩いた。抱き上げて鏡台から下ろす。
「良い子だね、綺礼」
 愛情を向けてやれ、と引き取る際にさんざん注意されたので、整えた髪を崩さない程度に撫でつける。
 正式に遠坂家へ引き取られたプランツは無表情だった。だが、動きにくい表情の下に沢山の気持ちを閉じこめているらしい。
 今だって、時臣が触れた箇所をくすぐったそうになぞっている。彼なりの喜びの表現である。
 初日こそ、かわいくない、と頬を膨らませていた凛も、彼女なりに綺礼との距離を縮めているらしい。弟も悪くはないかも、とぼそりと呟いていた。
『でも、お父様を独り占めだけはさせないんだから!』
 時臣の膝で絵本を捲る綺礼をキッと睨み、父は娘に空いている片膝を差し出した。
 ……どうやら時臣をめぐるライバルだと認定しているらしい。



「懐いてくれるのはありがたいんだが、ね」
 目を覚ました綺礼は、凛と店主を一瞥すると、迷う素振りもなく時臣に抱きついた。無表情なため傍から見ればシュールな光景だった(と、金髪店主が爆笑しながら後に述べた)。
「ああ、お前ん家のプランツは変わり者だな。凛ちゃんより髭のおっさんに抱きつくなんて」
 雁夜にからかわれ、おっさんじゃないよ、と訂正しておいた。あと、凛にも懐いてないわけじゃないんだよ、と。

「やっぱり、サクラは天使だよなー。人見知りなのに、凛ちゃんに紹介された綺礼君とは仲良くしようとがんばってる所とか」
 君の溺愛ぶりも相変わらずだね、と返したが耳に入っていないだろう。サクラと綺礼と凛がままごとに興じている様子を、溶けそうな眼差しで見守っている。
 一人暮らしでサクラが寂しがるから、と、雁夜は定期的に遠坂家邸に遊びに来るようになっていた。
 葵に失恋して以来、時臣を嫌い抜いて寄りつかなかったのに、丸くなったものだ。
「サクラちゃんを大事にするのも結構だけど、君もそろそろ身を固めたらどうだい。家庭を持てば人間成長するよ?」
「今の俺はまだまだだって喧嘩売ってるんだな!?」
 短気な雁夜が叫ぶのを受け流し、時臣はマイペースに紅茶を飲む。
 のどかな昼下がりのリビングだった。




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