つむぎとうか
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おそらくがくぽさん怒り心頭。
PVのロケ先は、浜辺の撮影所だった。
ビーチまで徒歩一分。潮風が額を撫でる。
「この時間帯は人がいませんねっ」
早朝の静かな空気を大胆に切り裂いて。
グミは、傍らの男を振り返った。
「ふたりじめですね」
仕事の都合でボカロ全員が数部屋に泊まっているが、示し合わせて脱け出して来たのである。
恋をしてからというもの、グミは快活さを更に増した。
「はしゃいで転ばないようにね」
小学生に対するような注意にも、張り切って手を振る。兄の親友であるカイトに、一目惚れして、告白した。
受け入れられた日を昨日のことのように覚えている。
「わっ」
当の彼は小石に躓き、よろけてばつの悪そうな顔をした。――そんなところも可愛い。
変に理想化なんてしちゃいないのだ。
「冷たくて、気持ちいい」
寄せる波に足を浸す。
まるで彼みたいな青で満たされた光景に、しぜんと頬が緩む。
だけど、ひとつだけ許容できない点がある。
そわそわ、きょろり。落ち着きなく心ここに在らずの視線。
グミは、口調強めに言い放った。
「だめですよ、アイスはなしです」
季節柄、過剰摂取気味のカイトを心配し、家族がしばらくアイス禁止令を発していたのだ。彼女であるグミにも協力要請があった。
「せっかく誰も見てないのに…」
「いちゃつき目的であって、こっそり食べさせてあげるとかはしませんから」
もう少しの辛抱ですって。
宥めつつ、グミはぴきっときていた。珍しくデートに誘ってきたと思ったら、そういう魂胆だったのか。
…まったく。カイトの氷菓への執着には、時折やきもちさえ呼び起こされる。
「近くのコンビニ、チェックしといたのになあ」
「解禁になったらいくらでも食べさせてあげますから」
幼児を言いくるめる母親のようだ。
「まあ、誰も見てないですし」
両足を海水に浸したまま、ぐっとシャツの裾を掴んで引き寄せた。
顎に触れ唇をあわせる。
――これで、アイスの誘惑を頭から追い払えたらいいのに。
(好物に嫉妬なんて、馬鹿らしいけれど。たまには独占したい)
※
アイスにかこつけてなるべく距離を縮めないようにしてたのに。
グミが後ろを向いた途端、カイトは真っ赤になって俯いた。
遠慮とか理性が吹き飛びそうだ。やばい。
高くなっていく気温が、仕事開始が迫っていることを告げる。
この煩悩をどうしてくれよう。
終わり