つむぎとうか
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こんどは似非平安ですよ。
待つのは得意なのだ、昔から。
筒井筒の夫が『宮仕えする』と言い出しても、一緒に行くなど夢物語だと知っていた。
ルカの日常は、持病に支配されていて。
カイトはひとことも言わなかったが、都にはよく効く薬もあるのだと風の噂に聞いた。
『このままじゃ、いつ君を失うかわからないから』
旅立ち間際に放った言葉を信じたかった。
「それから、三年が経つのだろう?」
穏やかにがくぽが確かめる。床から動けないルカはこくり、頷いた。
見苦しい様子も意に介さず、一向になびかぬ女の家に通い詰めるのは骨が折れる所業だろう。
彼の誠実に応えたら、幸せになれる。わかっている。
「明日の晩、いらして」
ひととせ、便りは絶えた。
ふたとせ、里でカイトの存在はなかったことにされた。
…次の宵で、みつとせ。
もう、夫に縛られまい。
「俺は、もう少しくらいなら待てるぞ?ルカ殿が区切りをつけられるまで」
「きれいに忘れるなんて、無理です」
だから、新たな求婚者の手を取ろうと思う。
やつれはしたが、起き上がって化粧くらいは出来る状態だ。
訪ねてくるがくぽに、精一杯きれいに着飾って微笑みかけたい。この気持ちは恋ではないけれど。
…ほとほと、扉を叩く音が聞こえた。
待ち続けた彼なわけがないと、穏やかな心で窓から顔を覗かせた、それなのに。
「ルカ」
懐かしい、焦がれた夫の声。
病の妻を残して三年、薄情な仕打ちであるはずなのに。
その音はひたすら優しく届いた。
「私は、貴男を忘れようとしていたの。一途なある方と添い遂げようと…」
扉は閉ざしたまま。顔を見たら突き放せない。
「なら、俺以上に、そのひとを愛してあげて」
でも、これだけは受け取って欲しい。
――貯めた給金で手に入れた、君の病の特効薬。
「ずるい」
完全に打ち捨てられていたのではなかった。
「ずっと、貴男を待っていたのに」
よりにもよって、今晩。
「勝手な前夫は、いなくなるから。幸せに」
遠ざかっていく足音。
束の間の、儚いやり取りにはしたくない。
「まっ、て」
走る。伝えたい想いがあるから。誤魔化して消してしまおうとしたけど、
――変わらず貴男を愛してる…。
病身をかえりみず駆ける。
息が苦しいのに、視界の端にすら貴男はとらえられない。
「あ、」
揺れて、倒れ落ちる。
清水のせせらぎが幽かにきこえた。
ルカは大量の血を吐き出した。
このまま、果ててゆくしかないのだろうか。
「ごめんな、さい」
がくぽの姿が一瞬だけ脳裏をよぎった。
…捨てられなかった、前夫への思慕に包まれて目を瞑る刹那。
抱かれて眠る幻がみえた。
終わり