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つむぎとうか

   
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お姉ちゃんは心配性
グミとリリー。キヨリリ前提。

のどかな朝だった。
誰かの携帯が鳴ったと思ったら、
「何っっっで、ゆうべ送ったメールをいまごろ返して来るのよーっ!」
マンション一戸の一室から、大声が轟いた。
「おはようお兄ちゃん、いい朝だね」
「おはようグミ、今日はどんな理由だ?」
神威家に迎えられた新しい仲間。
黄色い髪の彼女は、やたら賑やかな性格をしていた。
「ちょっと出掛けるわ」
「だめだよリリーちゃん。まず挨拶をして、ごはんを食べてからなきゃ」
「姉さんごめん、すぐ済む用だから」
着替えと洗顔を素早く終わらせたリリーは、慌ただしく玄関へ向かう。
「仕方ないなぁ。行き先もわかってることだし、のんびり準備しよっか」
「…なあグミ、リリーは何で俺のことは兄さんって呼んでくれんのだろう。行き先の見当も全然つかないんだが」
明らかに外見年齢のが年下のグミを先輩とも姉とも慕うリリーは、がくぽに対しては素っ気なかった。
「お兄ちゃんは鈍いからねぇ。嫌われてるわけじゃないだろうけど」
軽いため息。しっかり者の妹は、リリーが向かっただろう方角を指さした。
「この先近くに何があるか、考えてみたら?」

仲間うちで“インタネ家”と称されているマンションは、“AHS家”と小学校の間に位置している。
小学校に通っているのはーー
「また通学路でまちぶせ?」
呆れ顔のユキに見つかって、こほんと咳払い。
「歌愛先輩、氷山さんとは一緒じゃないの?」
「リリーおねえちゃんって、同性にだけ敬称つけるよね」
先生はとっくに出勤したよ、と。
屈んだリリーの頭をぽんぽん撫でる、異様に貫禄のあるユキだった。
さて、どうしようか。
立ち止まり、とりあえず家に戻ることに決める。待たせている二人に申し訳ないし。
メールの件はまた改めて。

「それで、キヨテルさんには会えたの?」
食器を片づけている背中に耳打ちした。
「ばれちゃってた…?」
小首を傾げる後輩は、背もグミよりずっと高いくせに少女みたいだ。
そんな表情をさせるキヨテルが羨ましくもある。
「ううん、留守だったわ」
しゅんと、しおれた尻尾まで見えるようだ。背伸びをして髪を撫でる。
「なんの用事?メールがどうの言ってたけど」
「こんど映画を観に行きませんかって、誘われて」
キヨテルはボーカロイドと教師の兼業を両立させているうえに、趣味のバンド活動にも参加していて、とても忙しいはずだ。
嬉しいと同時に、大丈夫だろうかと案じられた。「時間はあるの?」とたずねるメールを送った。
「ひとばん経って“大丈夫です”なんて返信してこられても、私のわがままに連れ回してるみたいで気がひけちゃうの」
提案してくれたのはあちらから。でも、リリーがデート回数の少なさをぼやきまくっていたからではないかと――無理をさせるのは本意じゃないのだ。
「リリーちゃんは優しいねー」
後輩を抱きしめながら、グミはあやすように背中を叩いた。
「あのね、大変な時に大切なひとと会えるとほっとするんだよ?キヨテルさんもきっと、リリーちゃんの顔を見たいから、お仕事をがんばってるんじゃないかな」
「だと、いいんだけどなぁ」
「心配いらないって。もしどうしても都合がつかなくなっちゃったら、その日は私とデートすればいいじゃん!」
「ほんと?姉さん付き合ってくれる?」
「あたりまえでしょ」
年上だけど、可愛い後輩で家族だから、力になってあげたい。恋愛相談でも外出でも。
彼女が泣く事態が来ないように。

「というわけだから、先生も忙しかったら無理せず連絡してね。大丈夫、傷ついたリリーちゃんは私が全力で慰めてあげるから」
「そこがまさしく頭痛の種なんですが!!」
通話相手は脱力のち怒りが湧いてきたようで、普段の穏和さが嘘みたいに棘々しい声になる。
もう慣れたのから、グミは涼しい顔だが。
「勝手に人を悪者に仕立てないでください。こっちはデートを楽しみにしてるんですから」
そのために早朝登校やら残業やらで、リリーへの連絡がとりにくくなってしまったが。
「ちょっとした試練ってやつ。ほら私小姑だから」
――姉さん、お風呂空いたわよ?
「あ、可愛い妹が呼んでる。じゃあねっ」

終了ボタンを押しながら、キヨテルはリリーにメールを打とうとしたが、直接話をしたいので電話番号をダイヤルした。出てくれるといいのだが。
「もしもし、リリーさん?週末の件で電話しました」
絶対にキャンセルはしませんから。
宣言すると、ほっとしたように他愛ない事柄を振ってくる。
その声に癒されているのだ。

終わり
 

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