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つむぎとうか

   
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転生義兄弟5
タイトル思いつかない小ネタ5。

 世界が跡形もなく崩れ去ってゆく。
 いや、壊れたのは世界じゃなく時臣だけだった。
 歪む視界。一瞬遅れて激痛がもたらされる。己の表情は驚きに固まったまま。
 立ち姿を維持できなくなった身体は、どさりと床に沈んだ。

 どうして。なぜ、こんなことに――?

 思考できたのは一秒にも満たぬ間だけだった。
 次々浮かぶ疑問は何ひとつ報われぬまま、時臣の意識はそこで暗転した。

(恐ろしい夢、だった)
 秋も深くなり、寝苦しさもずいぶんましになる季節。だというのに寝間着が汗でひどいことになっている。
 ここまで生々しい夢を視るのは、初めてではない。去年も似たような状況に陥った。

   +++++

 夏の終わりから秋にかけて。義弟の夜遊びに頭を痛めていた頃だ。
 血のつながりがないとはいえ、ギルガメッシュは時臣の家族である。
 父も義母も子供たちに無関心というわけではないのだが、どこまでも多忙な日々を送っていた。会社近くのホテルで寝泊まりすることもしょっちゅうで、滅多に家に帰らなかった。
 ギルガメッシュの“非行”を知るのは、本人を除けば時臣と、親身に心配してくれ思わず打ち明けた雁夜くらいか。
 何としてでも止めなければ――時臣は使命感に燃えていた。
 彼を留めておけない自分が腹立たしい。これでは、二の舞ではないか。そう、今度こそは。
(今度こそ、って……以前も似たようなことがあったのだっけ?)
 そこまで考えて首を傾げる。
 馬鹿な、ギルガメッシュは中学生だ。いまより昔に同じ出来事があったとは思えない。いくらギルガメッシュが年齢にそぐわぬ大人びた眼差しをすることがあったとしても。 義兄弟となってから五年。
 ギルガメッシュは一貫して冷たい態度を崩そうとしなかった。
 二学年差で、在学期間が中学の一年間だけ重なっていたが、登下校も別々だった。
 食事は一緒に摂るのに、私的な会話は全くない。ただ黙々と箸を動かすだけである。だが、おそらくそれがぎりぎりの譲歩だったのだ。
 ギルガメッシュが家にさえ寄りつかなくなって、時臣はいかに自分が義弟に嫌われているか再認識した。
 中学での彼は、クラスの中心人物であるといい、校内外にも多くの友人がいるのだそうだ。
 アルバイトもできない年齢で、家に帰らないということは、友人宅に世話になっているのだろう。顔も見たくないということか。

 リビングで一人、夕食を食べる。 生徒会の仕事で部活をやっている生徒と同様、遅くなってしまうので、凝った料理は作れない。誰かのため、という目的もないのでやる気が出ない。
 機械的に咀嚼し、空になった食器を片付け、台所の電気を消す。
 入浴を済ませたら、あとは自室に籠もって勉強に没頭する。
 寂しいとは、不思議と思わなかった。ギルガメッシュとは比べるべくもないが、時臣にもそれなりに友人はいて、高校に行けば孤独を味わうこともなかったから。
 それでも、ストレスはたまるのか、眠りがどんどん浅くなる。
 夢を視て、自分が殺される内容に飛び起きて。
 いつもいつも同じ場面だ。何者かに背後から襲われ、刃の重みを感じ、絶命するまで。
 目覚めるといつも泣いている。情緒不安定なのか、声が掠れるまで涙が止まらぬ朝もあった。
(やばいな……)
 思った以上に参っているのかもしれない。
 取り繕うのは特技だが、生徒会の仲間たちまでは誤魔化せない。雁夜や葵はすぐに気づく。
 心配を掛けているのはわかっているが、どうしたらいいかわからないのだ。

 そんなある日、玄関に久しぶりに帰宅したギルガメッシュを見つけた。逃せば次はいつになるか。
 時臣は出かけようとする義弟の腕を必死に抑えた。
「不満があるなら言ってくれ、ギル。義母さんも父さんも、君が夜中に出かけてばかりなのを知ったらきっと悲しむ。私に出来ることなら何でもするから――」
 すうっと、紅の双眸が歪んだ。また疎まれているとしても、止められるならば。
「ああ、なら言うことを聞いてもらおうではないか、二言はないな?」 時臣はすかさず頷いた。
 この先いつでも、期限は設けず。ギルガメッシュの望みをひとつだけ、必ず叶えるという約束。

 それから、ギルガメッシュはぱたりと夜遊びをやめ、時臣も悪夢にうなされることはなくなった。
 相手が無関心であろうと、向かい合って食事するという行為にかなり救われている。
 ギルガメッシュからは、新たに購入したゲーム機の対戦をさせられることもあったが、電子機器全般が苦手な時臣の腕前に二回目で見切りを付けられ、またつまらない、との評価を下されてしまった。

   +++++

 ギルガメッシュが同じ高校に進学してくるとは思わなかった。
 加えて、生徒会室に足しげく通うようになろうとは。
 言峰綺礼の影響だろうか。時臣の後輩で、ギルガメッシュには先輩にあたる綺礼は、義弟とは妙に親密そうだ。
 むしろ義兄の時臣よりも懐いているようで、馴染んでくれて嬉しい反面、少々悲しい。
「心配しなくても、あの二人を仲良しとか表現する奴なんて時臣だけだから。百歩譲って悪友、ってか悪人同士だろ」
 呆れた雁夜に額を小突かれた。
「お前の家も複雑だな」
「……そうかい?」
 やはり、周囲には不自然に映るのだろうか。義弟との距離をやっと少しずつ縮めていけるこの状況はずっと望んでいたはずなのに、本当は独占してみたいなどと、欲張りな自分がどこかに存在している。
 不遜で傲岸で、それでも否応なしに人を惹きつける存在が家族などという身近なものだったら、やはり心穏やかではいられないのだ。




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