つむぎとうか
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ご本家クリスマス2010からすぐ。
「日本ーっ、ロマーノが倒れたってほんま!?」
金髪碧眼の客人が慌てて門を叩いたのは夕暮れどきのこと。
会議などではおとなしい印象のあった女性だが、心配そうに大声で尋ねてきた。
「落ち着いてください、ベルギーさん」
「ああごめんな、挨拶もせんと」
お邪魔します。
ぺこり頭を下げ、病人の居る部屋へ案内を請うた。
裏地球関連のごたごたが明けて数日。
日本は枢軸仲間を初詣に誘い、自宅に招いた。
イタリアやプロイセンはノリノリで渋る兄弟を引き連れ(ロマーノは『じゃがいも野郎と一緒なんざ御免だ』と喚き、ドイツは業務が滞ることに難色を示したが、どちらも説き伏せた)、あまり混まない近所の神社で手を合わせた後ーー骨休めとしてしばらく過ごしてもらっていた。
ベルギーはもちろん承知していて、聞いていた帰国日の前夜だった。
イタリアから電話が掛かってきたのは。
『ヴェー、ベルギーさんすぐに来てー。兄ちゃんが・・・!』
重体に陥ったのかと急いで駆けつけてみれば。
「カゼ?」
「ええ、インフルエンザではない風邪です。二、三日安静にしていれば治るかと」
そういえば寒いことになっていましたもんね、ロマーノ君はーー日本はフォローを入れたが、ベルギーは呆れていた。
「どうせ炬燵でダラダラしてたんやろ?クリスマスのあれが原因なら、すぐ症状出てるはずやもん」
・・・図星だった。正月の常として、全員おせちやみかんを供にごろごろしていた。
「ま、日本やみんなの顔を見られたし、来たことは無駄やなかったけど」
「ロマーノ君はまだ起きあがれない状態ですし、貴女がお見舞いにいらしたら最高の薬だと思います」
障子を開けて、布団を被っている青年をうかがう。ぐっすり眠っている。
時折うなされるかのように、「ベル」という寝言を発していたが。
「どうします?目覚めるまではまだしばらくかかりますよ」
それでも付き添いを申し出ようとしたベルギーに、
「ベルギーさん、こっちへおいで下サイ。せっかくですから和服を着ましょうヨ」
日本の後ろからぴょこりと飛び出した黒髪の少女が、にこやかに提案した。
「キモノって動きにくうない?」
「コツを教えて差し上げマス!」
胸を叩いた台湾は、自らも鮮やかな紅の振袖を纏っている。
ベルギーには翡翠色に桜の描かれた柄を見立て、着付けから髪を結う所までを楽しそうに引き受けてくれた。
「台湾は慣れとるね」
「毎年恒例デスから」
幼い時分には窮屈だとすぐに脱いでしまいたくなった和装だが、成長するにつれ、日本の喜ぶ顔を見たくて詳しくなっていったのだと言う。
そういえば、今日の彼とさりげなくお揃いの小物をあしらったりもしているーー微笑ましいことだ。
二人並ぶと、さながら一対のおしどりような日本と台湾だがーーベルギーとロマーノも、ちゃんと恋人同士に見えるのだろうか。
子どもだと思っていた相手が急にかっこよくなると、不安だって湧いてくるのだ。
「ほんまかわええなー。イタリア兄弟にナンパ攻撃されたやろ?」
「?いいえ、ふたりともほめてはくれましタけど」
日本が目を光らせていたからか、イタリアの怒濤の口説き文句が炸裂することはなく。ロマーノに至っては、
「ベルギーさんの話ばっかりでしたヨ」
小柄なのに慈しむような表情を浮かべ、完成しましたよと姿見に映す。
惚れ惚れするような綺麗さだ。
「はい、ばっちりデス。すぐにロマーノさんの所へ行きマショウ!」
照れ気味に俯くベルギーの腕を引いて、待ち詫びているだろう彼の枕元まで。
「なんでベルがここにいるんだ!」
「え、うちが来るって知らんかったん!?」
情けない面を見られたと、ロマーノは唇を尖らせる。
「ベルギーさんがいれば、兄ちゃんカゼなんて撃退しちゃえるでしょ」
イタリアはあっさり企みを白状した。台湾の装いに感動して、もっと華やかにしたいと思ったらしい。
「確かに、とても似合っています」
「だからだよ。じゃがいも兄弟には見せてやらねえ」
プロイセンとドイツは晩餐の材料調達に行っている。
それまでに元の格好に戻して欲しいと、独占欲を剥き出しに口にする。
「全く、わがままな病人やね」
手ぇ掛けてもろうたのにごめんな、台湾ーー
申し訳なさそうに謝るベルギーだが、嬉しそうな本心が滲んでいた。
「若いですね。私もあなたを独り占めしたいと願った時期もありましたが」
こうして見せびらかして自慢してますよと、日本は頬を緩めた。
「・・・ちなみにいつぐらいです?」
「忘れるほど遠い昔に」
ずっと大事にしてきましたから。
少女は赤面した。普段あまり口にしてくれない愛のことばを、たまにくれる時の威力は特大級で。
その度“好き”が増していくのだ。
終わり