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つむぎとうか

   
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散りしかたみに
普にょ日←独な軍人パロ。人名使用。
もしかしたら続くかもしれません。

発端は見合い話だった。
振袖姿の写真をぽんっと渡され、ルートヴィッヒは首を傾げた。
『兄さんの伴侶となる女性だろう?何も俺に見せなくとも』
『ああ、即ちお前の未来の義姉だ』
――だから見せとかねえとな。
昔から感性が少しズレた兄だったが、弟を非常に可愛がってくれた。
だからか、複雑な心境でもあったが(兄を取られる気がしたのだ)。
「長い黒髪の、綺麗なひとだな」
最初は、ほんのその程度の印象だった。

ギルベルトは軍人としては相当に優秀な資質を持つ青年将校だった。
若くして街道を駆け抜けていく彼が自慢で、士官学校への入学を控えていたルートヴィッヒは、兄の未来の妻にも大して興味は示さなかった。
同居するといっても、どうせ束の間だ。

「貴女が、本田桜さんか」
年上の筈なのに胸にも届かない姿に戸惑い、つかの間接し方を忘れた。
「ルッツ、挨拶する時は帽子を取れ」
「ああ…済まない」
敬愛する兄のひとことで赤面しつつ頭を下げた青年を、桜は終始にこやかに見守っていた。落ち着きがあって動じないひと。軍人の妻としては最高の資質だろう。
目を凝らして眺めると、並び立つ軍服のギルベルトと小袖の桜は鴛鴦のようだった。
婚約直後から睦まじいことだ。
「愛だの労りだの、俺達に自由を求める権利はねえ。娶せられた相手が桜で幸運だったぜ」
「ギルベルトさんもルートさんも、面白いですね」
兄が悪気なく洩らした折も、彼女はのほほんと受け流していたが――物陰でこっそりと泣いていたのを知っている。
桜は兄を想い、兄は彼女を頼もしい伴侶とみる。僅かな意識のずれ。
手を差し伸べていいかもわからず躊躇したまま、ルートヴィッヒは寮に入った。

戦が起こり、ギルベルトは真っ先に召集された。便りを受け取り、兄なら功を立てるだろうとぼんやり思った。
新妻の桜はきっと胸を張って送り出したのだろう。
本心が不安で溢れていたとしても。
(義姉、さん)
何故、心が苦しい?

帰省の正月がきた。
俯きがちなルートヴィッヒを迎える桜は、見事な黒髪を切り落としていた。
「夫が戦っているのですから」
私も何かせずにはいられなかったのです――短くした分寒そうに肩を震わせて。
儚くて消えそうだ。
「ルートさん、貴方もいずれ敵地に赴くのでしょう?」
「必ず生きて帰ります。兄も貴女に言ったはずだ」
「あのひとは誓いなんてくれませんでした。根っからの軍人なんですもの。私が勝手に祈るだけです」
危害がギルベルトにまで及ばないうちに、ルートヴィッヒが卒業して徴兵される前に。
この戦に終焉が訪れますように、と。
ごめんなさい、弱気なことを。桜は額を床につけ謝った。
慌てて止める。ちいさな背中を撫でたくなったけど、触れていいはずはなかった。

寮に戻り数週間。
戦の決着がつく寸前という局面で、兄の行方不明が知らされた。
電報の送り主は桜。
“アナタハイキテクダサイ”
添えられた言葉に胸を締め付けられ、生還が絶望視される兄を想う。
浅ましい望みなど棄てよう。

一途に夫を慕う彼女を、願わくば遠くからでいい、眺めていたかった。
実家へ戻った義姉は、生涯兄にとらわれるのだろうか。
淡い感傷を告げずに終わって、再婚の報せがもたらされたとしても。
ルートヴィッヒには何の関係もないことだ。
けれど未練は残る。
「貴女と添うのが、俺であったら良かったのに」

 

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