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つむぎとうか

   
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AM0:40
頑張れ少年

 正十字学園からほど近いが裏路地にあって知る人も少ない、行きつけの呑み屋。
 未成年だけど咎められない複雑さを抱えつつ、雪男は暖簾をくぐる。
「シュラさん、時間です」
「んにゃー……まだぜんぜん足りないっつの、」
 こめかみをひくりと痙攣させながら、腕時計の盤面を示す。他の客はとうに出払っている。
「閉店時間なんだよ!迷惑かけんな」
「えー、じゃあ部屋で呑み直そうぜ」
 真っ赤な頬をつねりつつ、カウンターに向き直り頭を下げる。
「いつもすみませんご主人、酔っ払いは引き取りますので」
「ハイハイ、あんたも大変だねぇ」
 苦笑いの店主は、雪男の実年齢を聞いてもさほど動じなかった大人物である。
「寝ないでください、気を失った人間は重たい」
 できるだけ冷たさを装ってみても、迎えに来た時点でまあ。
「大体貴女は気まま過ぎるんですよ、8時間寝ないと実力発揮できないとか言ってるくせに。今何時かわかってます?」
「やれやれ、お前は残業ついでだろ?いい若い者が睡眠時間も確保できてない時点で未熟だにゃあ」
 ……このひとだけには言われたくない。
「良いでしょう、僕のことはどうでも」
 ぐぇっ、と、変な声が出た。背負った状態で後頭部を狙われたからだ。
 押しつけられる手のひらの熱がじんじんする。五本指の感触に心臓が波打った。
「あたしはなー、燐だけじゃない、お前のことだって獅朗に頼まれたんだぞ!?」
 柔らかさを湛えた呼びかけに嫉妬が湧きあがる。
「大きなお世話です」
 というか、思いっきり反対じゃないですか、いまのこの状況。
「貴女に甘えたいと思ったことなんてありませんよ」
 必要なのは、背中を預ける程度の信頼だけ。
「かわいくねえ」
「生憎、言われ慣れましたよ」
 主に重たくのしかかってくる誰かさんによって。
 それに、可愛いと思われたいわけでもない。
「ま、かっこいいにはまだ遠いな」
 そりゃそうだろう、貴女の中の神父さんを越えるまでは。悔しいけれど。
「減らず口叩いてるうちに着きましたよ」
 彼女の家の前。運べるくらいには成長したのだから、いつかきっと。
「さんきゅ、またな」
 明日塾でという意味なのか、それともまた介抱しろという意味なのか。
 どちらにせよ彼女との約束が積み重なり、雪男の存在が少しずつ浸透していけるよう。
「しょうがないから、また付き合ってあげます」
 背から降ろし向かいあう、一瞬の素顔を見逃さないように。

「……ビビリが、」
 男子寮に帰る途中、拾ったものは幻聴だったのだろう。
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