つむぎとうか
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宵のゆめ
Twitterにて6時間以内に1RTされたので、柔蝮が旅館でキスをする、シリアスな作品をかいてみました。
顔をしかめる。目の前数センチに迫る顔が不快だというのではなく、近くで眺めるとこの男がモテる理由が何となくわかってしまったので。
(癪に障る整い方やわ)
繊細というより精悍な顔立ちは、彼を深く知らない女性にはいかにも頼りになりそうな印象を与えるだろう。いや、短気であるという点を除けば間違っていない。幼なじみだからこそ、見てくれだけの男ではないことくらいは承知していた。決して言わないけれど。
「あつくるしいわ、どっか行きよし」
「とか言っといて、がっちり掴んで離さへんのは誰や」
手慣れた風情で苦笑するのが憎たらしくて。
いつも申と罵っているのが嘘みたいなふんわりした手つきで、蝮は柔造の顎を引き寄せる。抵抗の素振りもないので両腕で頬を包んだ。彼女の手には余る頑強さだ。
そのまま、音を立てて唇を被せた。
二月半ば。
午前ぎりぎりにもたらされた吉報によって、明陀宗は慶びにつつまれていた。
“私立正十字学園を受験した三人が、揃って合格した”――と。
奨学金の受給まで認可された次期座主の勝呂に、三輪家の若当主である子猫丸に関しては何の心配もしていなかった。結果が危ぶまれたのは僧正家五男坊の志摩廉造だけで、奇跡が起きたのだろうと八百造はしばらく仏壇で護摩を焚き続けた。
……とにかく、無事進学先が決定したということで、大人たちは沸いた。当人たちよりも盛り上がり、勤務終了後の夜遅くに宴の席を設けるほど。
「盃は断れってあれほど念押したやろうが!」
「ふん、竜士さまを祝う晩やで?野暮は言いっこなしやろ」
酔っぱらっても可愛くない女だ――柔造は舌を巻いた。
虎屋旅館の一室、客は通せないが清掃は行き届いた物置部屋にて。
やけに上機嫌そうにけらけら笑う蝮と、反比例して渋面を増してゆく柔造。実は頻繁にみられる光景であった。
彼女が非常に酒に弱いことは、柔造だけが知っている。大々的に羽目を外すのは宝生家長女の沽券に関わるらしく、一滴たりとも口にしない。そんな蝮が友人の勧めで未知の感覚に倒れ、家族に失態は見せられないと呼び出されたのが柔造。
成人式当日の話だから、もう三年以上が経つ。
意識を失くした自分がキス魔と変貌することを、翌朝記憶を失くした彼女は信じなかった。証拠の写メールを送ったら、しばしの間硬直し、しゅんとして手を合わせた。
『迷惑かけたみたいやね。志摩、私がお酒を口にせえへんよう見張ってくれへんか?』
普段の生意気さからは想像も出来ないしおらしさに、うっかり頷いたのが運の尽きだったろう。
今宵も、ふらり足取りを狂わせた彼女を連れ出し、落ち着くまで付き添うことになった。
白い肌を紅潮させ、冬なのに着物の袷を緩ませた女と、密室で二人きり。
幼なじみのよしみで醒めるまで誰の目からも隠してやっていたが、誘われていると錯覚しそうだ。蝮は、自分がどんな危機に面しているかなど思考することさえないのだろう。
(廊下歩いとる最中にも、座ってからもキスの雨降らせよって……ほんま恐ろしい酒癖やわ)
この姿を柔造以外の男性に晒されたら、と思うとぞっとする。即、勘違いされるのがオチだろう。
「しまー、お水、ちょうだい」
「すぐ貰うて来るから動くんやないで」
コップに水を満たして蝮の元に戻れば、彼女は不機嫌そうに睨んできた。
「どこ、行っとったん……」
膝をついて視線を合わせれば、ぎゅっと首にしがみついてくる。どうやら寂しかったらしい。
コップを指に握らせても、俯いたまま微動だにしない。柔造は溜め息を吐きながら自らの口に含んだ。
そうっと仰向かせ、口づけた状態で流し込んだ。
ごくん。
細い喉が上下したのを確認して、おなじ動作を繰り返す。雛に餌を与える親鳥みたいに。
「お代わりはええか?」
中身が空になったのを確認して、少しだけ理性を取り戻した双眸に尋ねる。
「おおきに」
素直ににっこり微笑んでくれるのなんていまだけだ。やがてことんと寝入ってしまえば、明朝には記憶など飛んでしまっている。
それがいつものパターンだったのに、急に乱してみたくなった。
(……眠らせへんかったら、お前はどうなる?)
「どしたん、しま」
「いや――ちょっと、責任とって欲しゅうてな」
「?」
「俺を煽った責任」
先程の仕返しとばかりに、濡れた唇を食む。
蝮からの触れるだけのそれとは違って、募らせ続けた欲望の発露に。
ただひたすらに求め続けた。
(癪に障る整い方やわ)
繊細というより精悍な顔立ちは、彼を深く知らない女性にはいかにも頼りになりそうな印象を与えるだろう。いや、短気であるという点を除けば間違っていない。幼なじみだからこそ、見てくれだけの男ではないことくらいは承知していた。決して言わないけれど。
「あつくるしいわ、どっか行きよし」
「とか言っといて、がっちり掴んで離さへんのは誰や」
手慣れた風情で苦笑するのが憎たらしくて。
いつも申と罵っているのが嘘みたいなふんわりした手つきで、蝮は柔造の顎を引き寄せる。抵抗の素振りもないので両腕で頬を包んだ。彼女の手には余る頑強さだ。
そのまま、音を立てて唇を被せた。
二月半ば。
午前ぎりぎりにもたらされた吉報によって、明陀宗は慶びにつつまれていた。
“私立正十字学園を受験した三人が、揃って合格した”――と。
奨学金の受給まで認可された次期座主の勝呂に、三輪家の若当主である子猫丸に関しては何の心配もしていなかった。結果が危ぶまれたのは僧正家五男坊の志摩廉造だけで、奇跡が起きたのだろうと八百造はしばらく仏壇で護摩を焚き続けた。
……とにかく、無事進学先が決定したということで、大人たちは沸いた。当人たちよりも盛り上がり、勤務終了後の夜遅くに宴の席を設けるほど。
「盃は断れってあれほど念押したやろうが!」
「ふん、竜士さまを祝う晩やで?野暮は言いっこなしやろ」
酔っぱらっても可愛くない女だ――柔造は舌を巻いた。
虎屋旅館の一室、客は通せないが清掃は行き届いた物置部屋にて。
やけに上機嫌そうにけらけら笑う蝮と、反比例して渋面を増してゆく柔造。実は頻繁にみられる光景であった。
彼女が非常に酒に弱いことは、柔造だけが知っている。大々的に羽目を外すのは宝生家長女の沽券に関わるらしく、一滴たりとも口にしない。そんな蝮が友人の勧めで未知の感覚に倒れ、家族に失態は見せられないと呼び出されたのが柔造。
成人式当日の話だから、もう三年以上が経つ。
意識を失くした自分がキス魔と変貌することを、翌朝記憶を失くした彼女は信じなかった。証拠の写メールを送ったら、しばしの間硬直し、しゅんとして手を合わせた。
『迷惑かけたみたいやね。志摩、私がお酒を口にせえへんよう見張ってくれへんか?』
普段の生意気さからは想像も出来ないしおらしさに、うっかり頷いたのが運の尽きだったろう。
今宵も、ふらり足取りを狂わせた彼女を連れ出し、落ち着くまで付き添うことになった。
白い肌を紅潮させ、冬なのに着物の袷を緩ませた女と、密室で二人きり。
幼なじみのよしみで醒めるまで誰の目からも隠してやっていたが、誘われていると錯覚しそうだ。蝮は、自分がどんな危機に面しているかなど思考することさえないのだろう。
(廊下歩いとる最中にも、座ってからもキスの雨降らせよって……ほんま恐ろしい酒癖やわ)
この姿を柔造以外の男性に晒されたら、と思うとぞっとする。即、勘違いされるのがオチだろう。
「しまー、お水、ちょうだい」
「すぐ貰うて来るから動くんやないで」
コップに水を満たして蝮の元に戻れば、彼女は不機嫌そうに睨んできた。
「どこ、行っとったん……」
膝をついて視線を合わせれば、ぎゅっと首にしがみついてくる。どうやら寂しかったらしい。
コップを指に握らせても、俯いたまま微動だにしない。柔造は溜め息を吐きながら自らの口に含んだ。
そうっと仰向かせ、口づけた状態で流し込んだ。
ごくん。
細い喉が上下したのを確認して、おなじ動作を繰り返す。雛に餌を与える親鳥みたいに。
「お代わりはええか?」
中身が空になったのを確認して、少しだけ理性を取り戻した双眸に尋ねる。
「おおきに」
素直ににっこり微笑んでくれるのなんていまだけだ。やがてことんと寝入ってしまえば、明朝には記憶など飛んでしまっている。
それがいつものパターンだったのに、急に乱してみたくなった。
(……眠らせへんかったら、お前はどうなる?)
「どしたん、しま」
「いや――ちょっと、責任とって欲しゅうてな」
「?」
「俺を煽った責任」
先程の仕返しとばかりに、濡れた唇を食む。
蝮からの触れるだけのそれとは違って、募らせ続けた欲望の発露に。
ただひたすらに求め続けた。
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