つむぎとうか
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本番を迎えた話。
喧嘩ップルとは英セのためにある言葉じゃないでしょうか(真顔)。
学園祭も、早や最終日。
模擬店の閉まる夕刻となり、漫画喫茶も好評を得て収益も出ていた。
日本は、既視感にため息をついた。
「また、イギリスさんに無茶を言われましたか?セーシェルさん」
あれ以来、少女は未知の仕事に目を白黒させながらも、いきいきと駆け回っていたと聞いている。
それが、漫研の店に閉店間際に訪れ、ずっと頬杖をついている。
泣いてこそいないものの、爆発寸前のこの表情を引き出したのはきっと。
(今度は何があったんでしょうね)
厄介な予感がしつつも、問うてみる。
すると少女は、なかなかぶっ飛んだ発言をしてくれるのだった。
「日本さん・・・私、花嫁なんて絶っっっ対にいやです!」
学園祭の合間にも、本部から役員招集がかかる。
美化係としてゴミ箱の設置や巡回、回収に明け暮れていたセーシェルは仰天した。
お化け屋敷をやっていたわけでもないのに、生徒会室が異空間と成り果てていたので。
『どういうことですか、この派手衣装の山は』
魔女・妖精・サンタクロースに天使ーー(趣味に偏りは見受けられたが)鮮やかな服の数々が陳列している。
壮観だった。
『立案者はお前だろうが』
黒ローブが様になっているイギリスが誇らしげに語るが、褒めているのではなく怪しさ倍増という意味である。
ーーということは、パーティーのために用意されたものなのか、これらは。
『ほら、一枚引け』
目の前に突き出されたのは、魔術のタロットカードではなく籤の白い紙だった。
わけもわからず一枚を選び、折りたたまれた一片を開く。
“Bride”
『ということは、これだな』
指差された先には、純白のウェディング・ドレスが鎮座していた。
『これまさか強制ですか』
『だって、フォーマルな装いだけじゃ華やかさに欠ける、と言ったのはお前だったよな?』
イギリスは俯くセーシェルを不思議そうに眺めた。
『実行委員会で、話し合いを重ねて決定していったんですよ!土壇場でなんてサプライズかましてくれるんですか・・・っ』
あんまりだ。生徒全員に楽しんでもらいたくて、必死に知恵を絞ってきたというのに。
『え、もしかして余計なことーーだったのか?』
好意から準備してくれたのかもしれないが、一言通してくれたら良かったものを。
『・・・もう、良いです。イギリスさんの考えたコスプレパーティー、きっと皆大喜びですよ。私は裏方に徹することにしましたから』
『はあ?ダンスタイムに一曲踊るくらい』
『出来たとしても、胡散臭い魔法使いの手なんか取りたくありません』
付き合ってられない。
怒りを通り越して冷徹に言い捨てると、セーシェルはすたすたと退室した。
途方に暮れたような生徒会長を残して。
(イギリスさん・・・セーシェルさんのウェディングドレス姿が見たかったんでしょうか)
不器用なあまり、意味不明な行動に走るのは彼の愛すべき欠点だが。少女にしたらたまったものではないだろう。
メールを送ると、数分して迎えにやって来た。不気味な黒ローブから、燕尾服に着替えて。
「セーシェル、俺が悪かった。花嫁には対になる衣装でなければ不釣合いだよな」
日本のアドバイスで、一分の隙もなく完璧に整えた。日本は噴きだすのを堪えるのに必死だったが。
少女が絡むと、面白いまでに乗ってくれる男だ。
今回は率直に謝られたので、セーシェルも困惑していた。が、腹を括ったのか、
「もう、わかりましたから頭を上げてください!」
ーー踊ればいいんでしょう、踊れば。
後夜祭開始まで時間がないことに気づき、慌てて着替えに走る。
「ああセーシェルさん、老爺心ながら忠告しておきますと。コスプレする時は、身も心もそのキャラになりきるのが吉ですよ」
だから、新婚さんの気分で挑むと良いですよ。
適当なことを嘯きながら、日本はにこやかに手を振った。
(面白そうな光景も見られそうですし、私も久々に腰を上げましょうか)
他の生徒がどんな衣装を纏ってくれるのか、実に楽しみだった。
ハンガリーは魔女、オーストリアは牙を装着して吸血鬼の扮装をしている。
可憐な妖精の羽を付けたリヒテンシュタインが微笑めば、傍らのスイスが狩人らしく威嚇射撃した。
揃って、祭りを堪能している。
「クライマックスの花火は、お前・・・君のアイディアか?奥さん」
「ええ、イギ・・・旦那さま。喜んでもらえてるでしょう?」
取って付けたように“待ち望んだ挙式当日を迎えた新婚夫婦ごっこ”を繰り広げていたイギリスとセーシェルだが、いつもより近い距離に双方どぎまぎしていた。
(小麦色の肌に、光沢のある生地は眩しいくらいだな・・・俺の見立てだから似合ってて当然だが)
(いつもそうやって悪人面引っ込めてれば、私だって素直になれるのに)
照れを隠そうとして、沈黙が落ちる。密着しているから動悸がばれそうで焦った。
流れてゆく時間のなか、ふたりの想いが重なった。
ーー今はまやかしでも、いつの日か。
結婚するとしたら、目の前の相手とがいい。
終わり
Enjoy school festival and happy party.