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つむぎとうか

   
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ササゲモノ
カイト→←ルカ。
清々しいまでに捏造。

彼女の世界を形成しているものは二つに大別される。
教会と、彼だ。

「ルカ、礼拝の時間ですよ」
微睡んでいた少女を揺り起こしたのは顔なじみの神父だった。
眩しさのなか、頬を張って意識を覚醒させる。毎朝の光景だ。
「おはようございます」
欠伸を堪えて裏返る声を、神父もシスターも苦笑しつつ見逃してくれた。彼らにしたら当然のことなのだろうが、早起きの努力は認めてくれているらしい。
規則正しい生活を送る神職者たちに混じって、明け方眠りに就く彼女は異質だった。そんな存在でも、疎外することなく受け容れてくれる場所。
いっそ彼らに溶けこんでしまえたら楽なのに。
聖書に挟んでいた紐を探り当て、昨日の続きの頁を開く。
祈りの言葉はそらで唱えられるほど。

ルカは教会の子だ。
教会の祭壇に捨てられていた孤児で、両親の手掛かりもない。
富裕層の少ない町で、養い親になろうと申し出てくれる家はなかった。教会がそのまま引き取ってくれたのは運が良かったのだろう。
凶作の年ならば、葬られても仕方のなかったちっぽけな命だ。
そんな少女が、一歩教会の外に出ると腫れ物のような扱いを受けるのは仕方のないこと。
町の人々は基本的に善良で、ルカの置かれた立場を必要以上に畏怖していた。
神への贄として。



『この娘が良い――』
天から降る声を、殆どの大人がはっきり聞き届けたという。
十歳になる少女たちが集められた祭りの夜。
高まる緊張感などお構いなしに、子どもたちはきゃっきゃとはしゃいでいた。
注意する親たちは揃って悲痛な顔だった。
伝承により百年毎に開かれる儀式。数えで十の娘からひとりを選び、その子が成人した時、天に捧げる。
選ぶのは神自身で、声が響いた時、ルカは脳に直接語りかけられたような衝撃を受け、その場にうずくまった。
が、他の少女たちには何も聞こえなかったらしい。
大人たちだってルカを通して声を拾ったのだというから、スピーカーの役割をさせられたわけだ。
「あの時、耳がおかしくなるかと思ったんだから」
今夜は虫の居所が悪いので、文句を言う。
「悪かったって。仕方ないだろ、神様がそうしろって命じたんだから」
ひょっこり、闇に紛れて現れた影が頭を掻いた。
「遅いわ」
天の使いと名乗った彼は、祭り以来毎晩、ルカの前に姿を見せるようになった。胡散臭そうで警戒していたが、贄と決まった少女の専属だという。
町の図書館には、そういう存在が記された文献も残っていた。
すくなくともヒトではないことは、出逢って数年が経つのに容姿に全く変化がないことからわかる。天界では地上と異なる時間が流れているのだそうだ。
暗がりでわかりにくいが、青空の下では映えるであろう青い髪と瞳。
気さくでお人好しな青年だが、ルカに接触するのはサービスでも何でもなく仕事の一環だ。
「贄って名目だけど、要するに神様の嫁だからね。迎えるまで清らかな娘であって欲しいって、まあ見張り役だね」
「神様わりと心配性なのね」
…嫁候補だったのか。古来、神様って女好きだっけ。恐ろしい目に遭わされるよりはよっぽどましだ。
「同年代とは接触ないわよ、いちばん親しいのは貴男かも」
次点で鏡音さん家の双子、と考え込んでいるうちにはたと気づいた。――そういえば彼の名前を未だ知らない。
「俺のことなんかどうでもいいだろ。ただの使い役で十分だ」
「そう?残念、けっこう仲良くなれたと思ってたのに」
しゅんとうなだれる。親しみを感じていたのはルカだけだったらしい。
「時間だ。じゃあね、ルカ。また明日」
朝陽が昇るまでに遠ざかるのを引き留めたいくらいなのに。

「こわくはないわ」
短い眠りに落ちる前に、ぽつり呟く。
居場所なんてどこにもなかった。天界とやらに連れて行かれたところで、どうせまた独りぼっちになるだけだ。
もっと彼と過ごせたら、なんて。
浅ましい夢を望んで瞼を閉じる。



神への報告帰り、カイトは自己嫌悪に沈んでいた。
冷たくしたかったわけじゃない。でも、必要以上に距離を縮めすぎたのかもしれない。
日に日に美しく成長してゆく少女。
神の定めた期限まで、もう一年を切った。
婚礼が成立したら、遠い遠い存在になる。
こんなに胸が痛むなら、はじめから専属になどなりたくなかった。

 

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