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つむぎとうか

   
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雛鬼と少女
はんにゃG様の雛逃げを聴いていたら浮かんだ妄想。
…しかし結末が思いつかなかった。
ので中途半端なところで切れます。フリーダムもいいとこです。

なんちゃって江戸時代。
視点人物はリンとグミ。


初音屋敷は深刻な人手不足だ。
今年に入って次々と侍女たちが辞めてしまい、元気いっぱいの少女が奉公にあがった時
も、まだ幼いのに何故?と訝る者もなく歓迎された。
十を越したばかりのリンは、人目のない場所ではおとなびた顔つきで何かを探していた。
「あれはどこにつながっているんですか?」
無邪気を装って、侍女頭の老女に尋ねる。
指差したのは地下へと続く縄梯子。
「由緒ある家には、知らない方がいいこともあります」
素っ気なくあしらわれたら、それきりあっさり興味を失くした。

夕方、勤めから帰ろうとしたリンは、まだ肌寒い庭先に佇む人影を目撃する。
「お前は誰?」
「今日から仕えることになりました、リンと申します」
「そう」
問うた人は、今にも消え入りそうに美しかった。
青磁の髪、真っ白な手、華美な衣装。
「姫様、お体に障ります!」
侍女たちが悲鳴をあげた。

近所の噂では、初音家の一人娘・ミクは、誰にも姿を見せないと不思議がられている。
庭の縁に腰掛けた姫に老女は問う。
「あの娘がお気に召しましたか」
「いいえ?だって似てないじゃない」
老女は痛ましげに表情を歪めた。

深夜。
夜明けまでにと出口を探す。
無理やり剥ぎ取った目隠しの下の瞳は涙に濡れ、帯は乱れきっている。
年明けからどれだけ時間が経ったかもわからず、グミは焦っていた。
(早くはやく逃げなくちゃ)
長い廊下を駈ける着物の裾を、華奢な腕が捕らえた。
「逃げようだなんて、悪い子ね」

朝。
「年明け、こちらで婚礼の儀があったと聞き及びましたが」「当家にはミク様の他に姫はいらっしゃいませんよ」
リンはミクの異母弟・レンと仲良くなる。
「姉上のことはよく知らないんだ。そういえば、姉上のお気に入りだった侍女の姿を見ないな…」
リンは瞳を光らせた。

グミは毎晩、逃げようとしては掴まる。それは終わりの見えない遊戯。
鬼はいつでも、美しい雛姫だ。
「お前の心もよこしなさい」
…いっそ、心を捨てれば楽にもなるのだろうが。
いくら汚されても、折れるわけにはいかぬ。哀れな姫のために。
「今宵こそ、逃げ切ってみせます」
雛の形相が怒れる般若へと変化した。

リンは真相を頭に組み立てた。
「ミク様とレン様の間に、もうひとり、いらした…?」
「だったらどうだというんです、リン。口を慎みなさい!」
老女が血相変えて口止めをはかるが、勢いづいた少女は止まらない。願いがある。
「初音の不名誉になることは言いません。ミク様がひっそりと嫁入りされたことも」
隠し通しますから――
「グミ姉さんを返して下さい」
リンは、いなくなった姉を連れ戻さんと初音屋敷に乗り込んだのだ。

幼い頃からずっと、仕えてきた。
表向きはミクに、陰では病弱な弟・ミクオに。
双子ゆえ当主に疎まれた姉弟は、地下牢で育ったようなものだった。
それでも健やかなミクは姫として公に出る機会があったが、ミクオは存在すら認知されていない。
世話役に同じ年頃のグミが就き、三人、肩を寄せ合うように成長した。
でも、グミには置いてきた家族があった。
『姉さんがいなくなったら、僕は誰からも“いらない”存在になるね』
『そんなことありません、私にはミクオ様が必要ですもの』
儚い自嘲の笑みは、既に狂気の予兆だったのか――

今年の正月。
宴席でさる若殿に見初められ、嫁に行ったミク。取り残される恐怖に耐えきれず、ミクオはグミだけでも離すまいとした。
地下牢に鍵を掛ける。何も知らずに食事を運んで来た、グミを捉えて、鬼ごっこが始まった。
「何故、グミまで逃げてゆくの?姉様はいなくなった、私にはお前しかいないのに」
心を病み、姉を真似て姫になりきったミクオは、グミだけはずっと手元に置いておこうとする。つないだ鎖。隠した瞳。お前が何を願おうと、雛からは逃げられない。
グミは、自分はミクの身代わりに過ぎないと悟っている。
心まで堕ちれば、グミは完璧に「ミク」として扱われるのだろう。
嫌だ。
ミクオには身代わりじゃなく必要とされたかった。
だから走る。
「いかないで。ひとりにしないで、グミ。グミ…!」
振り返るな。これはまちがいで、ミクオだって明るい場所に出ればきっと。
どうか笑顔を取り戻して欲しい。

柔らかく眩しい光が射して。
「…グミ姉さん!」
懐かしい、実妹の声が聞こえた。

 

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