つむぎとうか
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
…しかし結末が思いつかなかった。
ので中途半端なところで切れます。フリーダムもいいとこです。
なんちゃって江戸時代。
視点人物はリンとグミ。
初音屋敷は深刻な人手不足だ。
今年に入って次々と侍女たちが辞めてしまい、元気いっぱいの少女が奉公にあがった時
も、まだ幼いのに何故?と訝る者もなく歓迎された。
十を越したばかりのリンは、人目のない場所ではおとなびた顔つきで何かを探していた。
「あれはどこにつながっているんですか?」
無邪気を装って、侍女頭の老女に尋ねる。
指差したのは地下へと続く縄梯子。
「由緒ある家には、知らない方がいいこともあります」
素っ気なくあしらわれたら、それきりあっさり興味を失くした。
夕方、勤めから帰ろうとしたリンは、まだ肌寒い庭先に佇む人影を目撃する。
「お前は誰?」
「今日から仕えることになりました、リンと申します」
「そう」
問うた人は、今にも消え入りそうに美しかった。
青磁の髪、真っ白な手、華美な衣装。
「姫様、お体に障ります!」
侍女たちが悲鳴をあげた。
近所の噂では、初音家の一人娘・ミクは、誰にも姿を見せないと不思議がられている。
庭の縁に腰掛けた姫に老女は問う。
「あの娘がお気に召しましたか」
「いいえ?だって似てないじゃない」
老女は痛ましげに表情を歪めた。
深夜。
夜明けまでにと出口を探す。
無理やり剥ぎ取った目隠しの下の瞳は涙に濡れ、帯は乱れきっている。
年明けからどれだけ時間が経ったかもわからず、グミは焦っていた。
(早くはやく逃げなくちゃ)
長い廊下を駈ける着物の裾を、華奢な腕が捕らえた。
「逃げようだなんて、悪い子ね」
朝。
「年明け、こちらで婚礼の儀があったと聞き及びましたが」「当家にはミク様の他に姫はいらっしゃいませんよ」
リンはミクの異母弟・レンと仲良くなる。
「姉上のことはよく知らないんだ。そういえば、姉上のお気に入りだった侍女の姿を見ないな…」
リンは瞳を光らせた。
グミは毎晩、逃げようとしては掴まる。それは終わりの見えない遊戯。
鬼はいつでも、美しい雛姫だ。
「お前の心もよこしなさい」
…いっそ、心を捨てれば楽にもなるのだろうが。
いくら汚されても、折れるわけにはいかぬ。哀れな姫のために。
「今宵こそ、逃げ切ってみせます」
雛の形相が怒れる般若へと変化した。
リンは真相を頭に組み立てた。
「ミク様とレン様の間に、もうひとり、いらした…?」
「だったらどうだというんです、リン。口を慎みなさい!」
老女が血相変えて口止めをはかるが、勢いづいた少女は止まらない。願いがある。
「初音の不名誉になることは言いません。ミク様がひっそりと嫁入りされたことも」
隠し通しますから――
「グミ姉さんを返して下さい」
リンは、いなくなった姉を連れ戻さんと初音屋敷に乗り込んだのだ。
幼い頃からずっと、仕えてきた。
表向きはミクに、陰では病弱な弟・ミクオに。
双子ゆえ当主に疎まれた姉弟は、地下牢で育ったようなものだった。
それでも健やかなミクは姫として公に出る機会があったが、ミクオは存在すら認知されていない。
世話役に同じ年頃のグミが就き、三人、肩を寄せ合うように成長した。
でも、グミには置いてきた家族があった。
『姉さんがいなくなったら、僕は誰からも“いらない”存在になるね』
『そんなことありません、私にはミクオ様が必要ですもの』
儚い自嘲の笑みは、既に狂気の予兆だったのか――
今年の正月。
宴席でさる若殿に見初められ、嫁に行ったミク。取り残される恐怖に耐えきれず、ミクオはグミだけでも離すまいとした。
地下牢に鍵を掛ける。何も知らずに食事を運んで来た、グミを捉えて、鬼ごっこが始まった。
「何故、グミまで逃げてゆくの?姉様はいなくなった、私にはお前しかいないのに」
心を病み、姉を真似て姫になりきったミクオは、グミだけはずっと手元に置いておこうとする。つないだ鎖。隠した瞳。お前が何を願おうと、雛からは逃げられない。
グミは、自分はミクの身代わりに過ぎないと悟っている。
心まで堕ちれば、グミは完璧に「ミク」として扱われるのだろう。
嫌だ。
ミクオには身代わりじゃなく必要とされたかった。
だから走る。
「いかないで。ひとりにしないで、グミ。グミ…!」
振り返るな。これはまちがいで、ミクオだって明るい場所に出ればきっと。
どうか笑顔を取り戻して欲しい。
柔らかく眩しい光が射して。
「…グミ姉さん!」
懐かしい、実妹の声が聞こえた。