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つむぎとうか

   
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ある夜の出来事

サディエリで結婚パロで襲い受けな作品を6時間以内に1RTされたら書(描)きましょう。

→RTしていただいたので書いてしまいましょう。

→襲い…受け?にはどうもならなかったのでただの新婚パロ。

男は瞑目して、思考を整理しようと試みた。
予測不能な状況に陥ったとき、人間は真価が問われるのだ。
認めたくはないが、この年齢まで自分は色恋沙汰のトラブルとは無縁だと豪語してきたのは単に経験が足りなかっただけらしい。
そうはいっても、自分より一回り近く年下の女にそれを思い知らされるのはいかがなものか。
「とりあえず膝を閉じろ、エリザ」
若い娘がはしたない。
溜め息(仰向けだから女の顔にもろに掛かることになってしまう)を吐いたらじろりと睨まれた。
「…お酒臭い」
こんな時間まで呑んでたの?
呆れた問いは、薄々わかっていたのに発してしまったものだろう。肯定以外にどんな答えを返せというのか。
「付き合いってもんがあるんでぃ」
男には、と付け足すと、浮気してたんじゃないのね?と念押しされる。馬乗り状態で話を進められても困るのだが、濡れ衣は晴らしておかなくては。
今夜は大事な取引が成立するかどうかの瀬戸際だったのだ。アルコールに大して強くもないのに、頑張って接待した。
「それで結果はどうなったの?」
女の柔らかいエプロン生地に皺をつくりながら、成功だよ、と囁く。赤い頬にぴとりと冷たい指先が触れた。
「おめでとう」
伝えたくてタクシーを飛ばして家へ急いだのだ。一緒に暮らしはじめてから仕事関係で朗報を持ち帰れたのが嬉しかった。
エリザベータは、ついこの間結婚したばかりの新妻だ。
「ちゃんと御馳走用意して待ってたわよ。胃袋に空きはあるんでしょうね?」
「食べてねェから悪酔いしたんだ」
ぽすん、男を拘束していた細い腕が解かれる。あんたを押さえこむのは力が要るのね、と舌を出した女の頭を緩く羽交い絞めにしてから、醒めるのを待った。
場所は寝台。はやくスーツを脱がないとアイロンが大変だ。
それ以前に理性がもたないだろう。

熱いシャワーを浴びることでようやく意識も浮上して、サディク・アドナンはキッチンに立つ女に呼びかけた。
「飯、もしかしてまだだったか?」
フライパンと皿を行き来させていた手が止まる。中身がなかったらスイングしてぶつけている所だ。
「旦那を置いてひとりで片付けるなんて味気ないじゃない」
腹の虫の鳴き声を幾度無視したことか。――ああ、報われないこと!
日付も変わろうかという時刻だった。
「怒るエネルギーがもったいないわ。サディク、食器棚からフォークとナイフを用意してちょうだい」
美味しい料理は雰囲気を盛り上げてくれると相場が決まっている。
鈍感だろうと、いつも心の底からうまいと述べて口を動かす男は憎めない。
「このシチュー、また作ってくれ」
子どもみたいねと微笑んで承知した。
再び、こんどは電気を消した寝室。
「浮気してたらどうするつもりだった?」
「女の目の前であんたを刺すわ」
そして私も喉を掻き切るわと、一分の迷いもない恐ろしい反応を告げてくれる。
「愛されてるな俺は」
若く美しい妻を娶った時、周囲から囃されたものだった――どっぷり溺れそうだ、と。
予想を違えたわけではないが、エリザベータの方が数倍、愛情表現は強烈だった。
サディクが派手に示さないだけかもしれないけど。
「ま、見合うだけの感情は注ごうかねェ」
先刻の食事、最高だったがひとつだけ足りなかった。何かわかるか?
デザートだ。
「ふん…一方的に貪ろうなんて思ってるんじゃないわ、覚悟するのね」
暗がりでもわかる、輝く瞳と好戦的なことばが男を煽る。互いに満足させてもらおうじゃないか。
今宵も、長い長い夜を。

終わり
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