つむぎとうか
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されたからやってしまえ。
レンが高校生で18歳。カイトは23歳の新任教師。
期末試験が終わった翌週の放課後。
部活に遊びに余念のない教え子たちはとうに去り、閑散とした教室では補習が行われていた。
「わかった、鏡音?」
数式で埋め尽くされたノートを覗きこみ、確認がてら黒板に問題を記す。これが出来たなら理解度はじゅうぶんだろう。
マンツーマンの相手――鏡音レンは、テストの結果からは考えられない速度で正答を導き出した。
「完璧」
少年の眉間に皺が寄ったのにも気づかず、カイトは目を細めながら赤ペンで丸を付けた。長く居残らせた甲斐があったというものだ。
達成感から、肉親に接するように後ろで束ねられた髪をくしゃくしゃに撫でた。長さは校則違反だが、今はそんなに気にならない。
するとやり過ぎたのか、ヘアゴムが音を立てて千切れ飛んだ。
「あ、ごめん」
肩先まで広がる金髪に一瞬だけ視線を奪われたから、ぶつけられた言葉には気づかなかった。
「…加減に、…ろよ、」
「?」
首を傾げようとしたらぐいっと襟元を掴まれた。
椅子を蹴り倒したレンに引き寄せられるようにして、頭を打ったと思ったら天井を仰いでいた。
冗談にしてはやり過ぎだ、と。
注意しようとするが、強い力で撥ね除けられない。
このままでは面目なしだ。
「カイト兄はどこまで鈍いの?」
その名は学校では呼ぶな。
声を挙げたいのに、喉が塞がれたようで言葉を紡げない。
出せたとしてもこの体勢では分が悪い。
やや年が離れているが、レンは幼馴染だった。高校までは近所に住んでいて、大学は下宿住まいだったものの――就職にあたって実家に戻った。
今年の春から、母校の私立学園で教鞭をとっている。
「忘れた筈はないだろ。うちの大学部にも教育学部はあった。わざわざ外部進学したのは、オレから逃げるためだったんだから!」
――半分は嘘で、残りは本当だ。
小さな頃から慕って追いかけてきてくれたレン。双子のリンと共に可愛かったし、いつまでも兄弟みたいな関係を保ちたかった。
『オレ、カイト兄のことが好きだよ』
レンが中等部へ進んだ年、純粋な瞳で告白された。
…距離を置いて昔みたいに戻りたかった。
大学在籍中は、顔を合わせるのを避けて、里帰りも殆どしなかった。
もう大丈夫だと思ったのに。
「ねえ、オレがどんな気持ちで半年以上耐えてきたか知ってる?数学は得意教科なことも」
赤点取りそうな奴にはみっちりコツを叩きこんで、今回の平均底上げに協力したんだぜ?
確実にあんたと二人きりになれるように。
しゅるり、シャツに垂れさがったネクタイを外して、少年はわらう。網にかかった獲物を捕食する獣そっくりだ。
カイトはぼんやり宙を眺めていた。
ボタンが弾けて、肌を露わにされる。危機感が募ってきたときにはもう遅い。
「帰ってきたなら、オレの想いは反故にしないよね」
却下したら傷つけてしまうだろうか。
脳裏をよぎるのは遠い昔の幼い弟分。いつの間にこんなに成長したものか。
夢であればいいのにと願いながら、噛みついてくる唇を享受した。
終わり
お粗末さまでしrた。