つむぎとうか
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グラジオラス
投稿一周年おめでとうございます!
青桃かわいいよ青桃。
青桃かわいいよ青桃。
もう、手を離していい?
降ってきた声に、弾かれたように顔を上げた。
カイトは感情を覗かせない無表情だ。――長年見てきたから、わかる。
これは、泣きたいのを堪えるためのポーズ。
「帰って早々に別れ話なの?」
コートから袖を抜きつつ、触れた指からは熱が伝わってきた。暖房が効いた部屋で考え込んでいたのか。
ルカが半分棲みついているような彼のマンションは、実家からは遠い大学近くに借りたもので、近隣の大学に在籍するルカも通いやすい場所にあった。
知り合ったのは中学時代だ。
高校までの六年間は友人の域を出なかったし、大学の共同サークルで所属が被ってからも、挨拶や世間話を交わす程度の仲だった。
距離が近づいたのは二回生の初夏。
『巡音さん、モテて大変でしょう』
コンパで掛かる声の絶えないルカに、女子におもちゃにされていたカイトがからかいの言葉を投げた。
彼女は誰それに告白されたらしいという噂が頻繁に取沙汰されていたが、特定の恋人がいるとはついぞ聞いたことがなかった。
『そういうの、苦手なの。お断りするのも角が立ったらと思うとひやひやするわ』
『せっかくだから付き合ってみたら?』
高嶺の花に選ばれるのは一体どいつかなと、無責任な好奇心でカイトは提案した。
すると、ルカは悩んだのち、向かい合う相手を指さした。
『言いだしたなら責任とって欲しいんだけど。あなた浮気とかしなさそうだし』
これからよろしくね、カイト君?
気軽そのものではじまった交際を経て、彼女も彼も寂しさを埋める存在をちょうど求めていたのだとわかった。
それから、季節がひとめぐりし、二度目の夏も過ぎて冬に差しかかった。
こじんまりしたベランダに、ルカの好きなグラジオラスの鉢が置かれている。いまは咲く頃じゃないのだ。
少しずつ、お互いの居る生活に慣れてきたと思っていたのに。
「もしかして、好きなひとでも出来たの?」
ハンガー片手におそれていたことを聞く。きっかけがきっかけなので、その場合彼女は身を引くべきなのだろう。
「違うよ。・・・逆だ」
「どういう」
意味かという問いは遮られ、ソファから立ち上がったカイトが立ち尽くしているルカを抱きすくめた。
腕の力はいつまでも緩むことはないまま。戸惑う彼女の耳朶に直接響かせるように、囁き続ける。
「君にとって俺は、折良くあの場所に居合わせただけで。これから他の男と出会う機会だってあるだろ?入れこまないだろうって確信してたよ、最初は俺も」
なのに、日に日に心を占拠されていく。
「ずっと、俺だけで満たしたいと願ってしまうんだ。こんな本気は“らしくない”よ」
きょうまでありがとう、解放してあげる――
「馬鹿じゃないのかしら」
つよい瞳で何を言いだすのかと思ったら。
「形のない関係じゃ、足りなくなったって話でしょう?」
それでは、別れる理由になどなるわけがない。
「これまで隠してきたけど、私はずっとそうだったのよ」
一年半も隣に居て、本当に今更な告白をする。好きになったのはもう何年か遡る。
制服を着ていた頃から目で追っていたのだ。
だから、このしあわせ手放すつもりなどない。
想いを託した口づけを、カイトの唇まで届ける。わからなかったなんて情けないけど。
「愛してる、の」
小声は再びの抱擁によって掻き消された。
終わり
降ってきた声に、弾かれたように顔を上げた。
カイトは感情を覗かせない無表情だ。――長年見てきたから、わかる。
これは、泣きたいのを堪えるためのポーズ。
「帰って早々に別れ話なの?」
コートから袖を抜きつつ、触れた指からは熱が伝わってきた。暖房が効いた部屋で考え込んでいたのか。
ルカが半分棲みついているような彼のマンションは、実家からは遠い大学近くに借りたもので、近隣の大学に在籍するルカも通いやすい場所にあった。
知り合ったのは中学時代だ。
高校までの六年間は友人の域を出なかったし、大学の共同サークルで所属が被ってからも、挨拶や世間話を交わす程度の仲だった。
距離が近づいたのは二回生の初夏。
『巡音さん、モテて大変でしょう』
コンパで掛かる声の絶えないルカに、女子におもちゃにされていたカイトがからかいの言葉を投げた。
彼女は誰それに告白されたらしいという噂が頻繁に取沙汰されていたが、特定の恋人がいるとはついぞ聞いたことがなかった。
『そういうの、苦手なの。お断りするのも角が立ったらと思うとひやひやするわ』
『せっかくだから付き合ってみたら?』
高嶺の花に選ばれるのは一体どいつかなと、無責任な好奇心でカイトは提案した。
すると、ルカは悩んだのち、向かい合う相手を指さした。
『言いだしたなら責任とって欲しいんだけど。あなた浮気とかしなさそうだし』
これからよろしくね、カイト君?
気軽そのものではじまった交際を経て、彼女も彼も寂しさを埋める存在をちょうど求めていたのだとわかった。
それから、季節がひとめぐりし、二度目の夏も過ぎて冬に差しかかった。
こじんまりしたベランダに、ルカの好きなグラジオラスの鉢が置かれている。いまは咲く頃じゃないのだ。
少しずつ、お互いの居る生活に慣れてきたと思っていたのに。
「もしかして、好きなひとでも出来たの?」
ハンガー片手におそれていたことを聞く。きっかけがきっかけなので、その場合彼女は身を引くべきなのだろう。
「違うよ。・・・逆だ」
「どういう」
意味かという問いは遮られ、ソファから立ち上がったカイトが立ち尽くしているルカを抱きすくめた。
腕の力はいつまでも緩むことはないまま。戸惑う彼女の耳朶に直接響かせるように、囁き続ける。
「君にとって俺は、折良くあの場所に居合わせただけで。これから他の男と出会う機会だってあるだろ?入れこまないだろうって確信してたよ、最初は俺も」
なのに、日に日に心を占拠されていく。
「ずっと、俺だけで満たしたいと願ってしまうんだ。こんな本気は“らしくない”よ」
きょうまでありがとう、解放してあげる――
「馬鹿じゃないのかしら」
つよい瞳で何を言いだすのかと思ったら。
「形のない関係じゃ、足りなくなったって話でしょう?」
それでは、別れる理由になどなるわけがない。
「これまで隠してきたけど、私はずっとそうだったのよ」
一年半も隣に居て、本当に今更な告白をする。好きになったのはもう何年か遡る。
制服を着ていた頃から目で追っていたのだ。
だから、このしあわせ手放すつもりなどない。
想いを託した口づけを、カイトの唇まで届ける。わからなかったなんて情けないけど。
「愛してる、の」
小声は再びの抱擁によって掻き消された。
終わり
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