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つむぎとうか

   
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独占欲異常
蘭白。
これの続きのような。

『ほんなら、うちがお嫁さんになったる』
あどけない笑顔の、鮮やかな記憶。
妹はきっと、覚えてなどいないだろうけど。

ブリュッセルに到着したのは昼過ぎだった。
――この前のお礼もせなあかんな。おにいちゃん、次の休日空いとる?
今度はこっちに招待するわと、誘いに応じて来てしまった。
当分会わないでおこうと思った矢先に。
『うちの初恋はおにいちゃんやってん』
「過去形やないか」
タイミングがずれてしまったから、今更歩み寄ろうとしては嫌がられるだろうか。…兄妹として仲良くしたいのだろうか。
幼少期を共に過ごした相手に特別な感情を抱くのはおかしなことではない。国同士なら肉親といって後ろ指さされることもあるまい。
これまで色恋を挟まずやってきたというのに。
(壊すのが、怖い)
積み重ねてきた思い出が、一瞬で消えてしまうことが。
「お待たせ」
懸案の相手から声を掛けてきた。

「お礼言うても、俺の家で結構色々してくれたやろ」
「屋根の修理とか頼みたいねん」
男手は必要やしと、道具箱を渡されて。変な遠慮もなく、次々と用事をこなした。
夕方、ようやくひと段落した。
「お疲れさま、一気にごめんな?今度はスペインとかロマにもお願いするわ」
「ええ。何かあったら俺を呼びね」
ベルギーが周辺諸国とも親しく付き合っているのは知っているが、他の男に力を借りられるのも癪に障る。
『真っ先に俺ん所へ来ねま』
兄妹ふたりきりだった頃は、何のためらいもなく放っていた言葉だったのに。
『でもうちかて、おにいちゃんの役に立てるんやで!』
ぐずる彼女を背負いながら慰めて(涙のきっかけは覚えていない)、泣き止んだ直後に叫んだ。
『今かておんぶされとるくせに。どうする気や』
『あんな、おにいちゃんの面倒みたるわ』
幼い眼差しが真剣さを語っていたが、当時のオランダには笑い草でしかなく。
『あっ、本気にしてへんやろ!?いまはかなわへんけどなあ、戦に負けて弱ってもそばにおるし、そうや、お嫁さんにかてなれるねんしな!』
戯言だとしても、その日の指切りがずっと破られない日々を望んでいた。
――願っていたのだ。
共に過ごしたい、と。
(あれからお前も俺もスペインの世話んなって、近づいては離れて。もう面影もないな)
初恋が自分だと聞かされても、信じられなかった。
嬉しくてどうにかなってしまいそうだった程に。
遠い日の己の姿が眩しかった。

現在、ベルギーとの間には見えない溝があると思っている。
逆に言えば、失敗しても何も変わらないのではないか?
席をこしらえ、手招きする妹に軽い一撃を。
「俺の初恋は、断じてお前やなかったからな」
「わざわざ否定強調せんでもええやん!」
牙を剥く彼女はいつか気づくだろうか。先日、『叶わないのが初恋やもの』と吐露したことに対する、オランダの返答に。
(せやからきっと、捕まえたる)
精々覚悟すればいい。
いつか、なるべく早くに伝えよう。

終わり

淡泊そうで、欲が芽生えると執着するオランダさんが好きです。

 

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