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つむぎとうか

   
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転生義兄弟15
タイトル思いつかない小ネタ15。ラスト。

 研究室を出てフラットに帰る道すがら、鞄にしまっていた携帯電話の着信音が鳴った。
 マナーモードに設定していたはずなのに、いつの間にか解除されている。操作に慣れない時臣がうっかりいじった、という可能性は薄い(そもそも就寝時から触れてすらいない)。おそらくは同居人の仕業だろう。
『我のメールにだんまりを決め込むとは許し難い』
 それだって一、二回返信が遅れただけだ。わざわざ日本から後輩が送ってくれたとはいえ、機械と向き合うのは時臣にとってそれなりに苦行だったが、案外何とかなるもので。
 最近では定期的に履歴をチェックする習慣がついた。というか、しないと怒られる。
「はいはい、すぐ出るってば」
 音の長さからメールではなく電話だと目星をつけて、店の連なる大通りを一本外れた裏道にそれる。周囲を見渡す。誰もいない。
 大方、同居人からの夕飯の催促だろうと踏んでディスプレイを確認したら、予測していない人物の名前だった。
 登録はしたけれど、まさか掛かってくるとは思わなかった。最後に会ったのは帰国時だから、一年ぶり、いやそれ以上か。
 ――突然何だい、雁夜?
 時計の針が指すのは午後六時過ぎ。日本との時間差はマイナス九時間ある。
 朝っぱらから、どんな急用だ、と慌てたが、友人の返答はさらに驚かせるものだった。
 ――俺、さっきから、お前らの部屋にお邪魔してるんだけど。
 そんな気軽に邪魔できる距離じゃないだろう。が、受話器の向こうで点いているらしいテレビはどう聞いても英語で、同居人がこの時間帯に好んで見ている番組独特の効果音が流れた。
 どうやら冗談ではなさそうだ。
 ――わかった、すぐ帰る。急いで夕飯作るから!
 ――大丈夫だ、俺とギルガメッシュで何とかしとくからのんびり帰ってこい。
 でも雁夜、君料理したことないんじゃ、と指摘しようとしたら切られた。
 あちこち飛び回ってるうちに自炊するようになったのだろうか、と希望的観測を掲げてみたが信用ならない。雁夜は明らかに三食カップラーメンで済ませたがる性質である。
(多少変わった味でも、消化できればましだろうか)
 嫌な予感に胃袋が軋んだ。

 間桐雁夜は現在、各地を飛び回ってライターをしている。
 専門学校を卒業後、撮影技術が認められ、フリーとはいえ仕事には困らない様子だ。活動拠点は日本全国、最近は海外にも足を伸ばしているのだとか。
 だから、イギリスへ来たとしても驚きはしないけれど。
(事前に連絡してくれたっていいだろう!)
 昨晩にでもわかっていたら、もてなしの準備が出来たのに。
 顔を合わせていないとはいえ、時臣は大切な友人の近況くらいチェックしているのである。出発前の約束通り、綺礼とはそれなりの頻度で手紙を出し合っていた。
 新たな連絡手段として、メールが加わってからは半年ほどだろうか。大学のクラスメートや教員、日本の両親以外には、切嗣や葵のアドレスも登録してある。
 自宅の電話以外を頑なに拒否していた過去からすれば、とんでもなく進歩したものだと思う。

 冷蔵庫の中味を掻き集めて作ったという雁夜の料理は、それなりにいける味だった。
 ギルガメッシュと三人でテーブルを囲みながら、取り留めもない話に興じる。
「そうだ、衛宮から伝言。“遠坂先輩も人が悪い”だそうだ」
「ええっと……もしかしてバレたのかな」
「これまで秘密にしてた理由が謎だっての。なんであいつには隠しときたかったんだ?」
「だって、照れくさいし。君たちは誤魔化せないにしろ、大声で言って回ることでもないだろう」
「拗ねてたぞ。フォローのメール打っとけ」
 雁夜と時臣が盛り上がっていると、機嫌を損ねたギルガメッシュが割り込んでくる。
「我にも構え」
「いつも構ってるでしょう」
 呆れながらも隣へ移動し、試しに頭を撫でてみたら、仏頂面の目を閉じて肩に寄り掛かられた。少々気恥ずかしい姿勢である。

「――ったくもう! 俺、そろそろホテルに戻るな!! また明日も遊びに来るから」
 いたたまれなくなった雁夜がそっと退去し、玄関のドアを閉めると、待ちかねていたように抱きすくめられた。
「ギル、加減忘れてる」
「ついでに我以外のこと全部忘れてしまえ」
 存外嫉妬深い彼が、二年間大人しくしていた。どれだけ我慢したのだろう。
 追いかけてきたからには、もう自重などするわけがなく。
 睫毛の触れ合う距離で、視線が絡み、吐息が重なる。己の蒼が映りこんだ紅い双眸には、隠さない欲と、確かな歓喜が刻まれていて。

 この日々がいつまでも続く保証はない。
 いつか、失うことになるかもしれなくても。
 ギルガメッシュに求められているのを実感する度に、時臣は言い様のない幸福に酔い痴れるのだった。

   そしてふたりは、すえながくしあわせにすごしました

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