つむぎとうか
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転生義兄弟12
タイトル思いつかない小ネタ12。
どうせ長くは続くまいと、ギルガメッシュは高を括っていたのだ。
同じ屋根の下で過ごす自分を無視するということは、時臣の性格上、日々ダメージを蓄積させていく行為だ。
きっとそのうち折れるはずだ。一人の食事にもいい加減飽きた。
謝ったって解決する問題ではないだろう。時臣はギルガメッシュと顔を合わせることが苦痛なのであって、責めたいわけでもなさそうだ。ぐちゃぐちゃの心から、挨拶を交わす程度まで回復しないかとしばらく待っていたのだが。
……甘かった。年を越してすぐ、限界を迎えた時臣が、まさか家を出る方向に動くとは。
(一時の感情のために、生まれ育った場所を離れるだと!?)
去年の己の所行を棚に上げてギルガメッシュは怒った。
いや、自分は家に寄りつかなかったといってもふらふら遊び歩いていただけである。時臣の場合は間桐家に世話になるというのだ。生半可な決意ではないのだろう。
そもそも、母の再婚で遠坂邸に住み始めて六年目のギルガメッシュが残り、十八年間ずっと暮らしてきた時臣が出て行くだなんておかしい。
とにかく一緒が気まずかったのだろう。変な所で行動力を発揮しなくとも良いのに。
時臣が去った日は、珍しく両親が家に揃っていた。
むしろ、時臣のために予定を空けた、という方が正しいだろう。ギルガメッシュが帰宅すると、三人はリビングのテーブルに留学の資料やら試験願書を並べ、真剣な眼差しで話し合っていた。
「あらギル、いま時臣の将来に関して大事な相談中だからどっか行ってなさい」
「数週間ぶりに会った息子に対する物言いかそれ」
時臣だって息子だもの、と、母は堂々とギルガメッシュを邪魔者扱いした。見かねたのか義父が取り成す。
「別にギルが同席しても構わないんじゃないか」
「あのねえ、進路なんてきょうだいがどうこう言う話じゃないでしょう。というか、この馬鹿息子は留学許さないって駄々こねるに違いないから追い払うのよ」
義父は困っているが、時臣は曖昧な微笑を浮かべるだけだ。母と同様、ギルガメッシュ抜きの話し合いを続けたがっているのだとわかる。
血のつながり関係なく、きょうだいに口を出す権利は確かにない。それでも、ここでギルガメッシュが反対すれば、時臣は留学計画を中止して冬木に残るしかない。
(我との約束があるから)
夜遊びばかりしていたギルガメッシュを抑えるための条件だった。あれ以降ギルガメッシュはぱたりと出歩くのを止め、時臣への要求は未だ保留状態で残っていた。
『私に出来ることなら何でもするから』
忘れるものか。真摯な懇願を受け容れて、それからずっと願い事の使い道を考えていた。
両者合意の約束は、拘束力こそ異なれど、聖杯戦争における令呪に似たようなものだ。
縛られる側だった前世では、ただひたすらに煩わしいだけだったが、あの頃の時臣の気持ちが少しだけ理解できた気がする。
(恐らくあやつは、安心しきっていたのだろうな)
時臣が綺礼を信頼しきっていたから、そして根本的な所では主従関係を過信していたからこそ成った裏切り。
そこにはやはり“英雄王”への敬慕が読み取れるけれど、ギルガメッシュ個人の意図を汲もうという気は端から感じられない。
徹底した道具扱いに憫笑を洩らす。遠坂時臣の真意を聞かされた時から、ギルガメッシュの中で彼は既に死を迎えていた。
けれど、もし。万が一、時臣が綺礼より先に見所を示すようなことがあったら?
その日が来るのを恐れて、これ以上とらわれる前にと、綺礼を唆し終焉を加速させたのかもしれない。
迎えにやって来た雁夜と荷物を半分ずつ持って、時臣は振り返らず住み慣れた家を出て行った。
義父と母に促されて玄関先まで付き添ったが、ギルガメッシュは二つの足音が去るまで顔を上げず、口も利かなかった。
――目を合わせると酷い言葉を吐いてしまいそうだったから。
+++++
会わなくても、季節は移ろう。
「じゃあね、時臣。元気で」
受話器を置いた母に慌てて問うた。
「ときお……義兄さんが間桐家から掛けてきたのか、今?」
「ええ。もう切れちゃってるけど」
もっと早くに気づいていれば、代わってくれと叫んだのに。惜しい。――もっとも、そうしたところで時臣がすんなり会話してくれるかは不明だが。
「明日はいよいよ卒業式だもの。私も父さんもどうしても行けないって謝ったら、出発前でばたばたしてるからその方が良いんですって」
出発。そうだ、彼は春からイギリスに旅立ってしまうのだ。
「いっそギルが代わりに出席しちゃえば?」
「誰が行くか」
そもそも、在校生はほぼ欠席する行事だと聞いている。高校に行くつもりはなかった。高校には。
「……空港くらいなら行ってもいい。飛行機の時間はわかるだろう、母さん?」
「聞くの忘れてた。父さんならきっと知ってるわよ」
母に促されて、義父の職場の電話番号を入力した。
義父から教わった出発時刻から逆算して、空港への最寄り駅で待ち伏せする。
何ひとつ話をしないままで逃げられてはたまらない。最後のチャンスだ、手の届かない遠くへ去られてしまう前に。
「二ヶ月ぶりだな、時臣“義兄さん”」
抑えたつもりだがどうしても棘が滲む。時臣がちいさく息を呑んだ。はじめて両親以外の前で兄と呼んだせいか。
咄嗟に逃れようと捩る身の進行方向を塞いで、ついでに時臣に付き添っている綺礼をぎろりと睨んでおく。
「どうして、ギルがここに……」
「義父さん母さんから聞いたに決まっているだろう」
視線は合わない。まったく、往生際が悪い。
物凄く愉しそうにこちらを窺う綺礼に釘を刺しておく。
「久しぶりのきょうだい水入らずだからな。割り込むなよ、綺礼」
そのまま、連れ去ってしまう。
空港に着いたが、すんなり行かせるつもりはない。時臣の腕をしっかり掴みながら、ギルガメッシュは落ち着いて話せる場所を捜した。
さあ、どんな言葉を交わそうか。
同じ屋根の下で過ごす自分を無視するということは、時臣の性格上、日々ダメージを蓄積させていく行為だ。
きっとそのうち折れるはずだ。一人の食事にもいい加減飽きた。
謝ったって解決する問題ではないだろう。時臣はギルガメッシュと顔を合わせることが苦痛なのであって、責めたいわけでもなさそうだ。ぐちゃぐちゃの心から、挨拶を交わす程度まで回復しないかとしばらく待っていたのだが。
……甘かった。年を越してすぐ、限界を迎えた時臣が、まさか家を出る方向に動くとは。
(一時の感情のために、生まれ育った場所を離れるだと!?)
去年の己の所行を棚に上げてギルガメッシュは怒った。
いや、自分は家に寄りつかなかったといってもふらふら遊び歩いていただけである。時臣の場合は間桐家に世話になるというのだ。生半可な決意ではないのだろう。
そもそも、母の再婚で遠坂邸に住み始めて六年目のギルガメッシュが残り、十八年間ずっと暮らしてきた時臣が出て行くだなんておかしい。
とにかく一緒が気まずかったのだろう。変な所で行動力を発揮しなくとも良いのに。
時臣が去った日は、珍しく両親が家に揃っていた。
むしろ、時臣のために予定を空けた、という方が正しいだろう。ギルガメッシュが帰宅すると、三人はリビングのテーブルに留学の資料やら試験願書を並べ、真剣な眼差しで話し合っていた。
「あらギル、いま時臣の将来に関して大事な相談中だからどっか行ってなさい」
「数週間ぶりに会った息子に対する物言いかそれ」
時臣だって息子だもの、と、母は堂々とギルガメッシュを邪魔者扱いした。見かねたのか義父が取り成す。
「別にギルが同席しても構わないんじゃないか」
「あのねえ、進路なんてきょうだいがどうこう言う話じゃないでしょう。というか、この馬鹿息子は留学許さないって駄々こねるに違いないから追い払うのよ」
義父は困っているが、時臣は曖昧な微笑を浮かべるだけだ。母と同様、ギルガメッシュ抜きの話し合いを続けたがっているのだとわかる。
血のつながり関係なく、きょうだいに口を出す権利は確かにない。それでも、ここでギルガメッシュが反対すれば、時臣は留学計画を中止して冬木に残るしかない。
(我との約束があるから)
夜遊びばかりしていたギルガメッシュを抑えるための条件だった。あれ以降ギルガメッシュはぱたりと出歩くのを止め、時臣への要求は未だ保留状態で残っていた。
『私に出来ることなら何でもするから』
忘れるものか。真摯な懇願を受け容れて、それからずっと願い事の使い道を考えていた。
両者合意の約束は、拘束力こそ異なれど、聖杯戦争における令呪に似たようなものだ。
縛られる側だった前世では、ただひたすらに煩わしいだけだったが、あの頃の時臣の気持ちが少しだけ理解できた気がする。
(恐らくあやつは、安心しきっていたのだろうな)
時臣が綺礼を信頼しきっていたから、そして根本的な所では主従関係を過信していたからこそ成った裏切り。
そこにはやはり“英雄王”への敬慕が読み取れるけれど、ギルガメッシュ個人の意図を汲もうという気は端から感じられない。
徹底した道具扱いに憫笑を洩らす。遠坂時臣の真意を聞かされた時から、ギルガメッシュの中で彼は既に死を迎えていた。
けれど、もし。万が一、時臣が綺礼より先に見所を示すようなことがあったら?
その日が来るのを恐れて、これ以上とらわれる前にと、綺礼を唆し終焉を加速させたのかもしれない。
迎えにやって来た雁夜と荷物を半分ずつ持って、時臣は振り返らず住み慣れた家を出て行った。
義父と母に促されて玄関先まで付き添ったが、ギルガメッシュは二つの足音が去るまで顔を上げず、口も利かなかった。
――目を合わせると酷い言葉を吐いてしまいそうだったから。
+++++
会わなくても、季節は移ろう。
「じゃあね、時臣。元気で」
受話器を置いた母に慌てて問うた。
「ときお……義兄さんが間桐家から掛けてきたのか、今?」
「ええ。もう切れちゃってるけど」
もっと早くに気づいていれば、代わってくれと叫んだのに。惜しい。――もっとも、そうしたところで時臣がすんなり会話してくれるかは不明だが。
「明日はいよいよ卒業式だもの。私も父さんもどうしても行けないって謝ったら、出発前でばたばたしてるからその方が良いんですって」
出発。そうだ、彼は春からイギリスに旅立ってしまうのだ。
「いっそギルが代わりに出席しちゃえば?」
「誰が行くか」
そもそも、在校生はほぼ欠席する行事だと聞いている。高校に行くつもりはなかった。高校には。
「……空港くらいなら行ってもいい。飛行機の時間はわかるだろう、母さん?」
「聞くの忘れてた。父さんならきっと知ってるわよ」
母に促されて、義父の職場の電話番号を入力した。
義父から教わった出発時刻から逆算して、空港への最寄り駅で待ち伏せする。
何ひとつ話をしないままで逃げられてはたまらない。最後のチャンスだ、手の届かない遠くへ去られてしまう前に。
「二ヶ月ぶりだな、時臣“義兄さん”」
抑えたつもりだがどうしても棘が滲む。時臣がちいさく息を呑んだ。はじめて両親以外の前で兄と呼んだせいか。
咄嗟に逃れようと捩る身の進行方向を塞いで、ついでに時臣に付き添っている綺礼をぎろりと睨んでおく。
「どうして、ギルがここに……」
「義父さん母さんから聞いたに決まっているだろう」
視線は合わない。まったく、往生際が悪い。
物凄く愉しそうにこちらを窺う綺礼に釘を刺しておく。
「久しぶりのきょうだい水入らずだからな。割り込むなよ、綺礼」
そのまま、連れ去ってしまう。
空港に着いたが、すんなり行かせるつもりはない。時臣の腕をしっかり掴みながら、ギルガメッシュは落ち着いて話せる場所を捜した。
さあ、どんな言葉を交わそうか。
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