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つむぎとうか

   
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転生義兄弟10
タイトル思いつかない小ネタ10。

 三月、卒業式は予定通りに挙行された。
 出席自由が建前だが、一般在校生で顔を出す者は殆どいないのは例年と同じ。時臣は去年、在校生代表として送辞を贈ったが、今年は綺礼がその役割を担ってくれるのだそうだ。
 答辞を述べたのは時臣だった。壇上から全体を眺め渡し、一年生の列に見慣れた鮮やかな金色がないことを確認して、ちいさくため息を吐いた。
(来るわけがない)
 暦の上は春だけれど、講堂に入ってくる隙間風は冷たいまま。

   +++++

 雁夜に迎えに来てもらって間桐家に転がり込んだ日から、ギルガメッシュとは一切接触していなかった。
 自由登校になってからはたまに教室に顔を出すくらいで、あとは職員室のケイネスを訪ねて下宿の相談に乗ってもらい、間桐家の客間で勉強するのが日課となっている。
 世話になっているお礼に、と、夕飯の支度を手伝ったりして、家長の臓硯とも親交を深めていた。

 たっぷりのトマトを使ったライスコロッケに、コンソメの香りの湯気が立つポトフ。そして本日のメインディッシュ、濃厚ソースを絡ませたカルボナーラ。
「おお、すげー美味そう。どこで花嫁修行してきたんだよお前は」
 下拵えから味付けまでを買って出た洋食を、盛りつけ係の雁夜に絶賛されたら、悪い気はしない。
「何しろ両親が不在がちだったからね。家事なら任せてくれ」
 最新の調理機器こそ使いこなせないが、掃除も洗濯もお手の物である。
「あいつの舌が肥えるわけだよなあ」
 言った瞬間、不用意なことを口にしてしまったと雁夜は悔やんだ。
「え、ギルが? あまり好き嫌いはなかったはずだけど」
 幸い、時臣はさほど動揺していないのか、わりと平気そうに首を傾げている。
「あいつさー、入学当初は女子から手作り弁当とかプレゼント攻撃受けてたんだよ。時臣は見たことないだろ? 手作りの菓子持って帰るところなんて」
 何度か目撃したが、ギルガメッシュは全てに首を振っていた。
「お前の料理はちゃんと食べてたのに、な?」
「でもそれは仕方なくのことで……っ」
「顔赤いぞ」
 指摘したらポトフで温まったからだ、と言い訳が返ってきた。同じ物を食べているのに。――まあ、そういうことにしておいてやろう。
 いつだったか時臣は自嘲していたけれど、ギルガメッシュが時臣を嫌っているだなんて有り得ない。気に入らない相手なら退屈だと貶す以前に存在を無視するだろう、あの性格なら。食事だって文句を言わなかったなら満足していたに決まっている。
 そして、時臣のこの反応。かつて浮かべていた親愛でも、家出した日に垣間見せた絶望でもなく、もしかしたら彼がギルガメッシュに覚えているのは――
(どっちにしても、このままだと離ればなれになるよなあ。俺に介入権はないけど)
 すれちがったままで終わるのか、あるいは仲違いを解くのか。
 泣いても笑っても、残り時間はもう秒読みである。

「さて、いよいよ明日は時臣君と雁夜の門出じゃが。どれ、爺が晴れ姿を見届けてやろうか?」
「おい何で実の孫より時臣を先に呼んだ今。この妖怪爺、日光苦手なんだから表に出んな!」
 雁夜なんてついでで十分、と憎まれ口を叩く臓硯が実はどれだけ楽しみにしてきたかを時臣は知っていた。孫の方も老体を心配して留守番していろと言い張る。何だかんだで仲の良い家族なのだ。
「本当に、今日までありがとうございました」
 二ヶ月もの間、深い事情は探らず滞在を許可してくれた臓硯にも、招いてくれた雁夜にも、し尽くせないほど感謝している。こっそりと相談相手になってくれた葵や、向こうでやっていくための手続きに助力してくれたケイネスや――時臣の選択を快く受け入れてくれた両親にも。
 沢山の人に支えられて、旅立つための準備は順調に進行し、式終了から数時間後、夕方の飛行機を手配してあった。



 証書の筒を片手に、校門を出ようとした時臣を、慣れ親しんだ後輩の声が呼び止めた。
「遠坂先輩っ、ご卒業おめでとうございます!」
「衛宮……ありがとう」
 時臣が見込んだ後任の生徒会長である切嗣は、式の後片付けを大急ぎでこなして駆けつけてきたらしい。息が上がっている。
「間桐先輩から聞きました、これから出発なさるんですか?」
 水臭いじゃないですかー、と冗談めかして肩を叩き、背後に出現した綺礼がキモいぞ、と茶化す。無駄に良い低音で囁かれて切嗣は全力で嫌な顔をしたが、綺礼はますます楽しそうに笑うだけだった。
「切嗣と私から、御祝いの品です。花束ではかさばってお困りでしょうから」
 手のひら大の箱をそっと渡されて、時臣は感激した。他の生徒も周りにいるけれど、みんな泣いている。こんな日くらい、自分も彼らにならおうか。
 ただし、次の瞬間には涙も引っ込んだ。
「今日で、時臣先輩、と呼ぶのも最後なんですね。向こうにお着きになったら、アーチボルト先生に伺って手紙を書きます。何て書き出しが良いですか? 遠坂時臣様。それとも、親愛なる時臣さん……いっそ時臣師、とか」
「死んだ眼で迫るな言峰! 時臣がびびるだろうがっ」
 いつの間にか握られていた手を雁夜が全力で引き剥がしてくれたが、時臣は驚きに眼を見開いて固まった。
「綺礼、まさか君にも……前世の記憶が?」

 今生でも変わらない、謙虚そうでいて否定をさせない威圧感を放ちながら、実直な後輩は次のように提案した。
 ――宜しければ、空港までご一緒しても構いませんか? と。




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