つむぎとうか
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終わりの鐘は、高く 終
パラレル・女体化・死にネタ注意。舞台はどこか外国。時臣と凛と桜が姉妹。
刑場から仰ぐ空は雲ひとつなく、澄みきった青は亡きひとの瞳を連想させた。
二年と少しぶりに出た外は、こんなに眩しいものだったのか。
もうすぐ、この明るい世界とも縁が切れる。
凛から渡されたリボンをしっかりと指に結わえながら、綺礼はそっと口元を綻ばせた。
(やっと、貴女の所に行ける)
あの日、時臣の死を認めた瞬間、綺礼の心も生を放棄したのだ。
残されたのは抜け殻の身体。
裁かれ執行を待つばかりだった二年間、愛しい幻に触れる夢だけを見続けた。
“泣かないで、綺礼”
最後の手紙に縛られて、檻の中では泣きも笑いもしない機械のように過ごした、その日々ともお別れだ。
再び会えたなら、今度は決して離さない。想いだって隠すものか。
早く、ああ、早く。
(この首に縄をわたしてくれ)
まるで請うように処刑台への階段を上る。待ち望んだ瞬間はもうすぐそこに。
「最後に、言っておきたいことはあるか?」
「なら、――」
彼女の名前を呼んだ。囁くように何度も何度も。
途切れゆく意識のなか、高らかに響く教会の鐘の音が聞こえた。
fin.
ぱたり、参考書を畳む気配がして、隣席の相手の様子をちらりと窺ってみると、窓の外を向いて耳を澄ましていた。
「どうかしましたか? 時臣師」
「どこかで、鐘が鳴っているみたい」
指さされた先には、町で親しまれている教会がある。そこには綺礼の父が勤めており、彼自身も幼い頃より出入りしていた。
「ああ、ミサの合図ですよ」
夕方からの祈りの時間に、去年までは綺礼も参列していた。春からは受験生ということで、放課後の手伝いを免除してもらっている身の上だ。
家庭教師を買って出てくれた時臣とは、高校で先輩後輩関係だった。現在、綺礼の志望大学に通っているので、週二回ほど、図書館で勉強を教えてもらっている。
自習室では静かに、という不文律があるので、質問すると周りに声が聞こえないよう顔を寄せてくる彼女の危機意識の薄さに、綺礼は困惑していた。
異性と思われていないのだろうか。青空のような瞳に見惚れてしまい、ふわふわの巻き毛からは良い香りが漂う。そのからだをを全く頓着せず近づけてくるものだから。
(理性が試されている、気がする)
綺礼は聖職志願者ではあるが、それ以前に健康な高校生男子でもあり、常に理性との格闘を強いられている状態だった。
それでも、寄せてくれる信頼を裏切りたくなくて、この短いひとときを何より楽しみにしている。
二人とも真面目な性質のため、自習室で過ごす数時間はどちらも勉強の話しかしない。が、終わった後、帰るまでの道くらいは、他愛ないおしゃべりに興じることにしていた。
話題に上げるのは、綺礼は学校や教会のこと、時臣は妹の凛や大学生活のこと。
親同士で親交があるため、遠坂が資産家であることや、彼女に幼少期以来の婚約者がいることなどは父の璃正から聞かされていた。時臣とまだ会っていない頃に知ったからあまり関心を持たなかったが。
だが今は、どうだろう?
「本当に、君は理解に優れているね。これなら指導しなくても、充分やっていけるんじゃないかな」
「いえ、時臣師のお陰です。お忙しいなら、私のことは後回しにしていただいて構いませんが」
「堅苦しいってば。一年しか違わないんだから、師、なんて呼ばなくても」
――ねえ、“綺礼”?
何でもない呼びかけが、彼女から発せられたというだけで胸に響いて、鼓動がうるさくなる。
頬を染めたら気味悪がられるだろうか。沈む夕陽のせいにしてしまおうか。相手は誤魔化せても、己は騙せない。
(この人の側に居たい)
自覚したこのとき、心臓が早鐘を打った。小刻みに、高く。
言峰綺礼は、遠坂時臣に恋をしている。
二年と少しぶりに出た外は、こんなに眩しいものだったのか。
もうすぐ、この明るい世界とも縁が切れる。
凛から渡されたリボンをしっかりと指に結わえながら、綺礼はそっと口元を綻ばせた。
(やっと、貴女の所に行ける)
あの日、時臣の死を認めた瞬間、綺礼の心も生を放棄したのだ。
残されたのは抜け殻の身体。
裁かれ執行を待つばかりだった二年間、愛しい幻に触れる夢だけを見続けた。
“泣かないで、綺礼”
最後の手紙に縛られて、檻の中では泣きも笑いもしない機械のように過ごした、その日々ともお別れだ。
再び会えたなら、今度は決して離さない。想いだって隠すものか。
早く、ああ、早く。
(この首に縄をわたしてくれ)
まるで請うように処刑台への階段を上る。待ち望んだ瞬間はもうすぐそこに。
「最後に、言っておきたいことはあるか?」
「なら、――」
彼女の名前を呼んだ。囁くように何度も何度も。
途切れゆく意識のなか、高らかに響く教会の鐘の音が聞こえた。
fin.
ぱたり、参考書を畳む気配がして、隣席の相手の様子をちらりと窺ってみると、窓の外を向いて耳を澄ましていた。
「どうかしましたか? 時臣師」
「どこかで、鐘が鳴っているみたい」
指さされた先には、町で親しまれている教会がある。そこには綺礼の父が勤めており、彼自身も幼い頃より出入りしていた。
「ああ、ミサの合図ですよ」
夕方からの祈りの時間に、去年までは綺礼も参列していた。春からは受験生ということで、放課後の手伝いを免除してもらっている身の上だ。
家庭教師を買って出てくれた時臣とは、高校で先輩後輩関係だった。現在、綺礼の志望大学に通っているので、週二回ほど、図書館で勉強を教えてもらっている。
自習室では静かに、という不文律があるので、質問すると周りに声が聞こえないよう顔を寄せてくる彼女の危機意識の薄さに、綺礼は困惑していた。
異性と思われていないのだろうか。青空のような瞳に見惚れてしまい、ふわふわの巻き毛からは良い香りが漂う。そのからだをを全く頓着せず近づけてくるものだから。
(理性が試されている、気がする)
綺礼は聖職志願者ではあるが、それ以前に健康な高校生男子でもあり、常に理性との格闘を強いられている状態だった。
それでも、寄せてくれる信頼を裏切りたくなくて、この短いひとときを何より楽しみにしている。
二人とも真面目な性質のため、自習室で過ごす数時間はどちらも勉強の話しかしない。が、終わった後、帰るまでの道くらいは、他愛ないおしゃべりに興じることにしていた。
話題に上げるのは、綺礼は学校や教会のこと、時臣は妹の凛や大学生活のこと。
親同士で親交があるため、遠坂が資産家であることや、彼女に幼少期以来の婚約者がいることなどは父の璃正から聞かされていた。時臣とまだ会っていない頃に知ったからあまり関心を持たなかったが。
だが今は、どうだろう?
「本当に、君は理解に優れているね。これなら指導しなくても、充分やっていけるんじゃないかな」
「いえ、時臣師のお陰です。お忙しいなら、私のことは後回しにしていただいて構いませんが」
「堅苦しいってば。一年しか違わないんだから、師、なんて呼ばなくても」
――ねえ、“綺礼”?
何でもない呼びかけが、彼女から発せられたというだけで胸に響いて、鼓動がうるさくなる。
頬を染めたら気味悪がられるだろうか。沈む夕陽のせいにしてしまおうか。相手は誤魔化せても、己は騙せない。
(この人の側に居たい)
自覚したこのとき、心臓が早鐘を打った。小刻みに、高く。
言峰綺礼は、遠坂時臣に恋をしている。
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