つむぎとうか
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終わりの鐘は、高く 序
パラレル・女体化・死にネタ注意。舞台はどこか外国。時臣と凛と桜が姉妹。
地下牢の獄吏というのは、体力より精神力が鍛えられる仕事である――
衛宮切嗣の持論である。
凶悪な面相の囚人たちと向かい合って、号令に従わせる業務は、ある程度年数を重ねた者でないと任せられない。給金は平民の職としては破格の水準だが、高給につられて集まった新人は大抵が一年経たずに辞めてしまう。
恒常的な人手不足。よってますます収入は増えていくという、決して恵まれているとは言えない職場だった。
切嗣とて何の情も覚えぬというわけではない。
妻と子を養うため、極限まで心を殺しているだけである。
晴れた昼下がり、切嗣は最下層への階段を降りていった。
何段階かにランク分けされた中でも、ここへ来る時は特に気が滅入る。
奥まった所にあるため、流れる空気も湿りを帯びている。地上の熱気が幻であるかのように、ひんやりと冷たい。理由はそれだけじゃないけれど。
ずらりと並んだ檻の一基を、切嗣は開錠した。
「時間だぞ、言峰」
入獄以来、一切の光を浴びていない双眸。いつ見ても底無し沼みたいな。
闇色の視線を虚ろに彷徨わせ、綺礼は頭を下げた。
「ああ、衛宮さん。お迎えご苦労様です」
低く掠れた声だが、動揺している様子はない。
あまりの落ち着きぶりに、逆に切嗣の方が慌ててしまう。
「心の準備は済ませたか?」
「ええ、大丈夫です。お気遣い感謝します」
両手首を縄で結わえて、牢から出る。刑場は直ぐそこだ。
歩いている間も穏やかな綺礼の横顔に、切嗣は眉を顰めた。
(最後の日まで、心をのぞかせない男だ)
獄舎といっても、ここは比較的規律の緩い監獄であり、太陽の下の散策も、監視付きでなら許可されている。
敷地内をぐるりと歩くだけの条件でも、囚人たちは外へ出られるひとときを望む。狭い庭でも、地上の空気に触れたいからだ。
言峰綺礼は例外だった。与えられた権利を全て放棄し、言われた通り労働だけをこなして過ごした。
収監されて一年余り、ずっと。
誰かが評した――まるで、生ける屍のようだと。
囚人としては模範的な態度だが、さりとて減刑目当てでもないらしい。
そもそも酌量の余地がない。彼が最も重い罪を犯し、死刑に処されることが確定してからこの獄舎に来たのだから。
彼は今日、裁かれる。
錯乱した殺人者として、
愛する人を手に掛けた罪によって。
衛宮切嗣の持論である。
凶悪な面相の囚人たちと向かい合って、号令に従わせる業務は、ある程度年数を重ねた者でないと任せられない。給金は平民の職としては破格の水準だが、高給につられて集まった新人は大抵が一年経たずに辞めてしまう。
恒常的な人手不足。よってますます収入は増えていくという、決して恵まれているとは言えない職場だった。
切嗣とて何の情も覚えぬというわけではない。
妻と子を養うため、極限まで心を殺しているだけである。
晴れた昼下がり、切嗣は最下層への階段を降りていった。
何段階かにランク分けされた中でも、ここへ来る時は特に気が滅入る。
奥まった所にあるため、流れる空気も湿りを帯びている。地上の熱気が幻であるかのように、ひんやりと冷たい。理由はそれだけじゃないけれど。
ずらりと並んだ檻の一基を、切嗣は開錠した。
「時間だぞ、言峰」
入獄以来、一切の光を浴びていない双眸。いつ見ても底無し沼みたいな。
闇色の視線を虚ろに彷徨わせ、綺礼は頭を下げた。
「ああ、衛宮さん。お迎えご苦労様です」
低く掠れた声だが、動揺している様子はない。
あまりの落ち着きぶりに、逆に切嗣の方が慌ててしまう。
「心の準備は済ませたか?」
「ええ、大丈夫です。お気遣い感謝します」
両手首を縄で結わえて、牢から出る。刑場は直ぐそこだ。
歩いている間も穏やかな綺礼の横顔に、切嗣は眉を顰めた。
(最後の日まで、心をのぞかせない男だ)
獄舎といっても、ここは比較的規律の緩い監獄であり、太陽の下の散策も、監視付きでなら許可されている。
敷地内をぐるりと歩くだけの条件でも、囚人たちは外へ出られるひとときを望む。狭い庭でも、地上の空気に触れたいからだ。
言峰綺礼は例外だった。与えられた権利を全て放棄し、言われた通り労働だけをこなして過ごした。
収監されて一年余り、ずっと。
誰かが評した――まるで、生ける屍のようだと。
囚人としては模範的な態度だが、さりとて減刑目当てでもないらしい。
そもそも酌量の余地がない。彼が最も重い罪を犯し、死刑に処されることが確定してからこの獄舎に来たのだから。
彼は今日、裁かれる。
錯乱した殺人者として、
愛する人を手に掛けた罪によって。
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