忍者ブログ

つむぎとうか

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

終わりの鐘は、高く 序
パラレル・女体化・死にネタ注意。舞台はどこか外国。時臣と凛と桜が姉妹。

 地下牢の獄吏というのは、体力より精神力が鍛えられる仕事である――
 衛宮切嗣の持論である。
 凶悪な面相の囚人たちと向かい合って、号令に従わせる業務は、ある程度年数を重ねた者でないと任せられない。給金は平民の職としては破格の水準だが、高給につられて集まった新人は大抵が一年経たずに辞めてしまう。
 恒常的な人手不足。よってますます収入は増えていくという、決して恵まれているとは言えない職場だった。
 切嗣とて何の情も覚えぬというわけではない。
 妻と子を養うため、極限まで心を殺しているだけである。

 晴れた昼下がり、切嗣は最下層への階段を降りていった。
 何段階かにランク分けされた中でも、ここへ来る時は特に気が滅入る。
 奥まった所にあるため、流れる空気も湿りを帯びている。地上の熱気が幻であるかのように、ひんやりと冷たい。理由はそれだけじゃないけれど。
 ずらりと並んだ檻の一基を、切嗣は開錠した。
「時間だぞ、言峰」
 入獄以来、一切の光を浴びていない双眸。いつ見ても底無し沼みたいな。
 闇色の視線を虚ろに彷徨わせ、綺礼は頭を下げた。
「ああ、衛宮さん。お迎えご苦労様です」
 低く掠れた声だが、動揺している様子はない。
 あまりの落ち着きぶりに、逆に切嗣の方が慌ててしまう。
「心の準備は済ませたか?」
「ええ、大丈夫です。お気遣い感謝します」
 両手首を縄で結わえて、牢から出る。刑場は直ぐそこだ。 

 歩いている間も穏やかな綺礼の横顔に、切嗣は眉を顰めた。
(最後の日まで、心をのぞかせない男だ)
 獄舎といっても、ここは比較的規律の緩い監獄であり、太陽の下の散策も、監視付きでなら許可されている。
 敷地内をぐるりと歩くだけの条件でも、囚人たちは外へ出られるひとときを望む。狭い庭でも、地上の空気に触れたいからだ。
 言峰綺礼は例外だった。与えられた権利を全て放棄し、言われた通り労働だけをこなして過ごした。
 収監されて一年余り、ずっと。
 誰かが評した――まるで、生ける屍のようだと。
 囚人としては模範的な態度だが、さりとて減刑目当てでもないらしい。
 そもそも酌量の余地がない。彼が最も重い罪を犯し、死刑に処されることが確定してからこの獄舎に来たのだから。

 彼は今日、裁かれる。
 錯乱した殺人者として、
 愛する人を手に掛けた罪によって。




PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カウンター
Copyright ©  -- 紡橙謳 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]