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つむぎとうか

   
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転生義兄弟6
タイトル思いつかない小ネタ6。

 去年の不安なんて残っていないはずだった。
 大学受験を控え、呑気な身分じゃないのは確かだけれど、学校でも家でも充実した半年を送っていたのに、どうして。
 ――より鮮明な悪夢に蝕まれるのだろう。
 秋に入ってから、毎晩のように死の瞬間を追体験させられた。鋭い刃に貫かれる衝撃は、何度目だろうと辛く堪えた。
 痛い。苦しい。もう見たくない、愚かで惨めな己の最期など。
(私を殺したのは“誰”だ?)
 いつも、犯人の顔は判らないままだ。はっきりしているのは、相手のことを信頼していたこと。でなければあんなに驚いた表情で倒れはしないだろう。
 事切れる瞬間、さいごに絞り出そうと試みた言葉があった。

 けれど、間に合わず意識は混濁した。

   +++++

「えいゆう、おう……?」
 そう言おうとした。
 夢の中の自分があまりに憐れだったため、時臣はあの場面がどんな意味を持つのか調べることに決めた。
「英雄王、だろうな」
 舌先で転がしながら反芻する。呟きまくったところで特に思い出すことはないが、だんだん意味深なものに思えてきた。実際、口にする度胸の奥はざわざわするのである。
 突き止めた所で、夢の自分にしてやれることなどないが。
「英雄王がどうかなさいましたか」
 小声のつもりが綺礼にも聞こえていたらしい。
「ああ、ちょっと知りたくてね。誰のことを指してるのかな、と」
「私は存じておりますが――時臣先輩も、そのうちわかるかもしれませんね」 黒髪の後輩は、ひとり納得したように頷いている。ご丁寧に腕まで組んで。まるでどこぞの探偵みたいである。
「ギルガメッシュにもお訊ねになっては? あの男、意外と物知りですから」
「意外と、に悪意を感じるぞ」
 当の義弟が唐突に現れた。
「時臣、その単語はどこで拾ってきた」
「ただの夢だけど」
 ならもう考えるな、仏頂面でギルガメッシュは言い放った。
「夢なんかより、目先の受験のことだけ心配していろ。追求したところで何の益にもならぬ」
「ずいぶん突っかかるな、ギルガメッシュ」
 おや、と時臣は首を傾げる。綺礼が、無表情のわりにものすごく楽しそうだ。
「そうだね、受験生の自覚はあるつもりだよ。ああ、ギル、今夜の夕飯リクエストは?」
「……ビーフシチュー」
 任せてくれと目を細めた。
 夢の件さえ除けば、本当に満たされた毎日だったのだ。



 十月、夢は死亡以前の場面も織り交ぜてくるようになった。
 その中の時臣には妻子がいて、優秀な愛弟子もいた。
 何の弟子かというと、どうやら魔術らしい。夢の世界だからか、もう何でもありだ。
 そして、魔術師らしく使い魔を召喚していた。
 あれは――黄金の輝きを纏った、どう見ても人ではない存在は。

「ギル?」
「どうかしたか」
 いや、と濁したが不自然だったかもしれない。

 十一月、時臣は夢との境目を見失いかけていた。
 だって、あまりにリアル過ぎる。髭を生やして成長していることを除けば、あの世界の時臣は自分と同じ顔をしていて。
 妻は葵だった。弟子は綺礼で、雁夜もいた。
 ひとりだけ、確証を持てない。名前で呼んでいないから。恭しく王、と仰いで、視線を合わせることもなく。
 けれど、目が合わない限りは気づけばずっと見つめていた。退屈だ、と貶められる度、感じる痛みを隠して振る舞っていた。
 ……時臣は“彼”に焦がれていた。
「王」
「――私の英霊」
 ギルガメッシュ。

 殺される瞬間、虚ろに穴の空いた胸で懸命に考えた。
 どうしたら、貴方に関心を持ってもらえたのだろう、と。
 いつか、終焉は訪れる。私を排した弟子にも、貴方にも。
 そうしてもしも、すべての幕が降りたのちに、やり直せる機会があるとしたら。
(今度こそ、ずっと貴方の側にいたい)
 思い出した。
 途端に流れこんでくる、前世の“遠坂時臣”の記憶。
 それらは時臣を絶望させるには充分で。

「英雄、王……?」
 彼の王の生まれ変わりであるギルガメッシュに尋ねる。

 やはり私は、退屈で耐え難い男のままなのですか?



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