つむぎとうか
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転生義兄弟4
タイトル思いつかない小ネタ4。
高二の夏休み。授業はなくとも、文化祭準備のために連日登校していた。雁夜は生徒会副会長なので、やることはいくらでもある。
まあ、それでも休憩時間というのは発生するわけで。
書類との格闘を終えてひと息ついていると、同じく判子を置いた時臣が話しかけてきた。
「家族がグレた場合はどうしたらいい?」
……真剣な眼差しで相談された。
放っておけば、とにべもない回答を返したが納得しなかった。時臣には優雅を装って頑強なところがある。
最終的に折れるのはいつも雁夜の方だ。
「ええと、家族って、中学生の弟か? 具体的にどうグレたんだよ」
「夜になるとどこかへ遊びに出かけて、遅くまで帰ってこない。朝になっても戻らず、どうもそのまま登校しているらしい。両親は不在がちで、叱るどころかわかってなさそうだ」
そのくせ、成績には全く支障がないのだから大したものだ――困っているのか褒めているのかわからない苦笑い。これでは、怒ったところで迫力などないだろう。
「可愛がってるんだな、弟を」
すると彼は浮かべていた笑みを消した。
「違うよ、そうじゃない。あの子は、ギルは私を嫌ってる。初めて会った日から、ずっと」
彫りの深い顔立ちが憂いを纏う。
親の再婚で出来た家庭なんて、それほど珍しい話じゃなく、時臣とギルガメッシュもその一組に過ぎない。
血の繋がらないきょうだいに必要以上に気を回す時臣の心境が、実兄とあまり仲良くない雁夜にはよくわからない。
だから、話し相手にもなってやれないのが歯痒かった。
義弟の夜遊びが落ち着いたと、疲れた様子で時臣が報告したのが秋の終わりだった。
顔色も青く、声も掠れ気味に。解決したならなぜそんなにやつれているんだ、と尋ねるのもはばかられた。余所の事情にはあまり突っ込まない方が良いだろう。
そのうち、生徒会の引き継ぎやら勉強やらで忙しくなり、時臣もだんだんと復調した。たまに悩む素振りも見受けられたけれど、雁夜は大丈夫だろうと判断した。
進級して、春。
“ギルガメッシュ”は、派手やかな外見と傍若無人な行動で、入学早々教師たちに眉を顰められたが、品行方正な時臣の弟ということでぎりぎりお目こぼしされている状態らしい。
義理であることを校内で知っているのは担当教師と雁夜と綺礼くらいではないだろうか。
一学年下の言峰綺礼は、各方面からの信頼も厚い生真面目な少年である。どうにも感情が読めなくて雁夜は苦手にしているが、時臣はかなり心許しているみたいだ。
「本当に、綺礼はギルと打ち解けているんだね」
険悪なやり取りにしか映らなかったさきほどの言い争いも、時臣に言わせれば喧嘩するほど仲が良い、に落ち着いてしまうらしい。
「私には、あんなに無遠慮な態度はとらないんだよ」
羨ましそうに、そして寂しそうに、これじゃあどちらが家族だかわからない、と呟いた。
義弟から、兄と呼ばれたことがない――いつだったか零していた。
「ギルガメッシュも、あいつなりにお前に懐いてるんだろう。少なくとも、夜遊び止めさせたのは時臣の功績だし」
詳しい経緯は知らないが、時臣の説得で盛り場歩きから各種ゲームに興味対象をチェンジしたらしい。
「で、でも、私は機械音痴で対戦相手も務まらないし……だからつまらないって呆れられて」
心配無用だとは思う。ギルガメッシュは口ほど義兄を馬鹿にしていない。むしろ生徒会室に時臣がいない日はさらに不機嫌になる。
(きょうだい、と思われたくないのかもな)
どう伝えたものか迷って、雁夜は結局静観を通す。
友人の親愛をこめた視線と、生意気な新入生の目つきには、どう考えても温度差があるのだが。
+++++
家族だなんて思うものか。
腹立たしいことこの上ない。初対面から、時臣は取り繕った顔しか見せまいとした。
父親の再婚相手とうまくやっていこうと、どんな子どもであっても“良き義兄”を演じようとしたことだろう。そんな自己満足にギルガメッシュが付き合ってやる道理はない。
何年経っても、無意識のうちに壁を作っていたくせに。
遊びに行こうとした腕を抑えられ、苛立ちは頂点に達した。
『不満があるなら言ってくれ、ギル。義母さんも父さんも、君が夜中に出かけてばかりなのを知ったらきっと悲しむ。私に出来ることなら何でもするから――』
さも心配そうな表情が鬱陶しい。
『ああ、なら言うことを聞いてもらおうではないか、二言はないな?』
この先いつでも、期限は設けず。ギルガメッシュの望みをひとつだけ、必ず叶えると約束させた。
時臣はきっと後悔することになるだろう。どんなかたちで、実現させよう。
(前世で己を殺した弟子にすら、無防備な笑顔を寄せるお前に)
優しくするつもりなど皆無だ。
ギルガメッシュは、時臣が大切にしているすべてが気に食わないのだから。
高校では生徒会室に入り浸るようになり、少しだけ接点ができて、時臣は以前より遠慮なく話しかけてくるようになった。ギルガメッシュも適当にだが答えを返す。単なる気まぐれだが、時臣はとても嬉しそうにした。
きょうだいの会話にしてはまだまだ素っ気ないけれど、ずいぶん距離は縮まった。
そんな嵐の前の平穏は、半年ほど続いた。
「英雄、王……?」
あの日、時臣が怯えながら尋ねてくるまで。
まあ、それでも休憩時間というのは発生するわけで。
書類との格闘を終えてひと息ついていると、同じく判子を置いた時臣が話しかけてきた。
「家族がグレた場合はどうしたらいい?」
……真剣な眼差しで相談された。
放っておけば、とにべもない回答を返したが納得しなかった。時臣には優雅を装って頑強なところがある。
最終的に折れるのはいつも雁夜の方だ。
「ええと、家族って、中学生の弟か? 具体的にどうグレたんだよ」
「夜になるとどこかへ遊びに出かけて、遅くまで帰ってこない。朝になっても戻らず、どうもそのまま登校しているらしい。両親は不在がちで、叱るどころかわかってなさそうだ」
そのくせ、成績には全く支障がないのだから大したものだ――困っているのか褒めているのかわからない苦笑い。これでは、怒ったところで迫力などないだろう。
「可愛がってるんだな、弟を」
すると彼は浮かべていた笑みを消した。
「違うよ、そうじゃない。あの子は、ギルは私を嫌ってる。初めて会った日から、ずっと」
彫りの深い顔立ちが憂いを纏う。
親の再婚で出来た家庭なんて、それほど珍しい話じゃなく、時臣とギルガメッシュもその一組に過ぎない。
血の繋がらないきょうだいに必要以上に気を回す時臣の心境が、実兄とあまり仲良くない雁夜にはよくわからない。
だから、話し相手にもなってやれないのが歯痒かった。
義弟の夜遊びが落ち着いたと、疲れた様子で時臣が報告したのが秋の終わりだった。
顔色も青く、声も掠れ気味に。解決したならなぜそんなにやつれているんだ、と尋ねるのもはばかられた。余所の事情にはあまり突っ込まない方が良いだろう。
そのうち、生徒会の引き継ぎやら勉強やらで忙しくなり、時臣もだんだんと復調した。たまに悩む素振りも見受けられたけれど、雁夜は大丈夫だろうと判断した。
進級して、春。
“ギルガメッシュ”は、派手やかな外見と傍若無人な行動で、入学早々教師たちに眉を顰められたが、品行方正な時臣の弟ということでぎりぎりお目こぼしされている状態らしい。
義理であることを校内で知っているのは担当教師と雁夜と綺礼くらいではないだろうか。
一学年下の言峰綺礼は、各方面からの信頼も厚い生真面目な少年である。どうにも感情が読めなくて雁夜は苦手にしているが、時臣はかなり心許しているみたいだ。
「本当に、綺礼はギルと打ち解けているんだね」
険悪なやり取りにしか映らなかったさきほどの言い争いも、時臣に言わせれば喧嘩するほど仲が良い、に落ち着いてしまうらしい。
「私には、あんなに無遠慮な態度はとらないんだよ」
羨ましそうに、そして寂しそうに、これじゃあどちらが家族だかわからない、と呟いた。
義弟から、兄と呼ばれたことがない――いつだったか零していた。
「ギルガメッシュも、あいつなりにお前に懐いてるんだろう。少なくとも、夜遊び止めさせたのは時臣の功績だし」
詳しい経緯は知らないが、時臣の説得で盛り場歩きから各種ゲームに興味対象をチェンジしたらしい。
「で、でも、私は機械音痴で対戦相手も務まらないし……だからつまらないって呆れられて」
心配無用だとは思う。ギルガメッシュは口ほど義兄を馬鹿にしていない。むしろ生徒会室に時臣がいない日はさらに不機嫌になる。
(きょうだい、と思われたくないのかもな)
どう伝えたものか迷って、雁夜は結局静観を通す。
友人の親愛をこめた視線と、生意気な新入生の目つきには、どう考えても温度差があるのだが。
+++++
家族だなんて思うものか。
腹立たしいことこの上ない。初対面から、時臣は取り繕った顔しか見せまいとした。
父親の再婚相手とうまくやっていこうと、どんな子どもであっても“良き義兄”を演じようとしたことだろう。そんな自己満足にギルガメッシュが付き合ってやる道理はない。
何年経っても、無意識のうちに壁を作っていたくせに。
遊びに行こうとした腕を抑えられ、苛立ちは頂点に達した。
『不満があるなら言ってくれ、ギル。義母さんも父さんも、君が夜中に出かけてばかりなのを知ったらきっと悲しむ。私に出来ることなら何でもするから――』
さも心配そうな表情が鬱陶しい。
『ああ、なら言うことを聞いてもらおうではないか、二言はないな?』
この先いつでも、期限は設けず。ギルガメッシュの望みをひとつだけ、必ず叶えると約束させた。
時臣はきっと後悔することになるだろう。どんなかたちで、実現させよう。
(前世で己を殺した弟子にすら、無防備な笑顔を寄せるお前に)
優しくするつもりなど皆無だ。
ギルガメッシュは、時臣が大切にしているすべてが気に食わないのだから。
高校では生徒会室に入り浸るようになり、少しだけ接点ができて、時臣は以前より遠慮なく話しかけてくるようになった。ギルガメッシュも適当にだが答えを返す。単なる気まぐれだが、時臣はとても嬉しそうにした。
きょうだいの会話にしてはまだまだ素っ気ないけれど、ずいぶん距離は縮まった。
そんな嵐の前の平穏は、半年ほど続いた。
「英雄、王……?」
あの日、時臣が怯えながら尋ねてくるまで。
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