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つむぎとうか

   
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彼女の望んだ世界 1
 女性な時臣さんが聖杯戦争に参加していたら、という妄想。
 ギル時ですが時臣さんは葵さん(♂)と夫婦です。

「これで、良かったんだ」
 奇跡の渦に飲み込まれた七騎の魂を見送って。
 自分に言い聞かせるように呟くと、時臣は同意を求めるかのように振り返り弟子を見上げた。
 綺礼はゆっくりと頷いた。長い睫毛が濡れていることは指摘すべきではないだろう。
 彼女の心は既にぼろぼろで、細い手足で戦場に立ち続けているだけでもやっとのはずだった。
 だから、綺礼は重ねて時臣の行いを是とする。
「ええ、師の判断は正しかったのです」
 それが契機となった。遠坂の五代目は、彫りの深い面差しをくしゃくしゃに歪めて声を殺して泣いた。
 膝はがくがく震えているのに、崩れ落ちることも、弟子に縋りつくこともしない。
 彼女を支えようと伸ばしかけた腕は空を切り、綺礼は無力に佇むだけだった。 万能の願望器と化した、冬木の聖杯。
 止まることない涙を流し続ける女は、たったいま、懐いた願いを叶え、そして弱々しい声で宣言した。
「この戦い、我々の勝利だ」、と。



 全てのサーヴァントの殲滅――
 第四次聖杯戦争に於いて、遠坂時臣は当初の狙い通りに戦いを収束させた。
 アサシン、キャスター、ランサー、ライダー、バーサーカー、そしてセイバー……次々と魂を散らしてゆき、聖杯の儀式の前に残ったのはアーチャーの英霊、ただひとり。
 刻まれた令呪を用いて、彼女は己がサーヴァントさえも自決させた。
 感情を挟むことなく淡々と、織り上げたシナリオを完遂した。だが、それは彼女の行動の一側面でしかない。
  容赦なくサーヴァントを滅ぼす一方で、敵対したマスターを無闇と殺戮することはしなかった。優雅ではない、という遠坂家独自の美学に基づいた振る舞いだ。  狂った価値観で冬木の町を恐怖に陥れた雨生龍之介を除いて、六人は尚存命である。いや、その中の一名は今にも息絶えそうではあるが。
「……雁夜の療養は頼んだよ、綺礼。君の治癒魔術なら、幾許もない余命を伸ばせるはずだ。全く、無茶ばかりして」
 困った奴だ、と苦笑いで片づけた、それだけで彼女は己の命を奪わんとした男に怒りを抱いていないことがわかる。
 マンションの屋上で彼と直接対決した彼女だが、その気があればきっと確実に焼き尽くしていただろう。
「彼の体内の蟲はバーサーカーと共に消滅したからね。間桐臓硯はもういない。桜の今後を託せるのは、雁夜だけだ」
 手放した娘の名を乗せる時だけ、優美な唇がせつなげに震えた。 桜。魔術を厭い出奔した間桐雁夜の参戦理由であり、養子に出した時臣の二人目の娘。
 幼いうちに他家に委ねることを、魔術師として喜んでいたが、母親としては苦しみ抜いた末の選択だった。
 表向きは気丈にふるまっていたものの、寄り添う夫にも知られないように、身を隠して泣いていた彼女を綺礼は偶然、見てしまった。おそらく誰にも見せたくない姿だったろうが。
 戦争開始に当たって、夫の葵は、長子の凛を連れて実家の禅城へ移っている。
 弟子の前で本音をこぼすような時臣ではないし、綺礼とて遠坂邸に通っているだけで住んでいるのではない。
 ひとりきりの寝室で、眠れない夜、自責の念にかられて嗚咽を漏らすこともあったろう。
 幸か不幸か、彼女が召喚したアーチャーは単独行動スキルを保持していた。一ヶ所に留まるのを嫌うような自我の強いサーヴァントだった。

 時臣が英雄王ギルガメッシュに敬意を払っていたのに対し、彼は初日に面と向かって「退屈な女」と評した。綺礼も脆い絆が敗因となるのではと危惧していた。
 傍目にはどこまでも相性の悪い一人と一騎にしか映らなかったのだ。

+++++

 関係が変質したのは、時臣が第一の令呪を用いた翌朝のことだ。

「王よ、毎夜の外出はどうかお控えください」
 紅茶の香りが漂うリビングで。
 パスを断って不在を続けたことを諫められ、ギルガメッシュは一気に不機嫌になった。
「ほう、我に説法とは……ますますつまらぬ女だ」
 マスター相手とは思えぬ口調に、波立つ心を鎮める。昨夜の名残で、何を言っても彼の気には召さないだろう。
 時臣にとて譲れぬ一線というものがある。睨まれても怯まず視線を逸らさないでいると、歪んでいた紅玉の瞳にふと光が宿った。
「ならば、せめて我を興じさせよ」
 ――その身を以て、繋ぎ止めるが良い。
 ねっとりと這うような眼を向けられて、言われた意味を推し量った彼女は羞恥と怒りに頬を染めた。白い肌に生気が差し、ギルガメッシュをますます悦ばせるともわからずに。 まるで恋も知らぬ少女の反応だ。
 事実、彼女は初恋もまだだった。夫を選んだのは、魔術の素質が平凡な時臣が次代へ最大限の子孫を残すため。
 そんな妻を葵は穏やかな愛で包んでくれ、結婚生活は順調だった。
 身を焦がす想いなど要らない。自分を惹きつけるものは、遠坂の悲願へ至る聖杯を得た先にしかない。ずっと信じて疑わなかったのに。
 金色の甲冑を纏った英霊に、召喚が成った瞬間から心を奪われただなんて認めたくない。
 胸の奥に炎が灯る。熱いのに心地良い温度に、けれど彼女は気づかないふりをする。

 こんなもの、きっと一時的な錯覚に過ぎない。道具として使役するサーヴァントに、特別な感情を抱くなど。最強のカードに気分が高揚しているだけだ。
 所詮は道具なのだと言い聞かせ、臣下の礼を取る。退屈だと一刀両断されたが傷つきはしない。接し方だって変えるものか。
 時臣の意図を汲まないサーヴァントに、お帰りください、と令呪で従わせた。いくら罵られても構わない、甘んじて受けてみせよう。
 だが、色事を求められる展開までは織り込めていなかった。王が既婚者をそういった対象に捉えることないと考えていたのだ。時臣は自身の尺度を絶対と疑わなかった。
「お戯れはほどほどに」
 視線を外して、地下の魔術工房に行こうと動き出した足を阻まれた。
「巫山戯けているのはどっちだ、時臣。無理矢理引き戻しておいて、昨晩から妙に避けている……まさか、臆病風を吹かせているのではあるまいな?」
(私が臆病になっているのだとしたら、それは貴男に否定されるのを恐れているからです)
 腕を掴まれずとも、ギルガメッシュの一言一言が彼女を縛る釘になって打ちこまれた。
 遠坂の、魔術を志す者の理想を揺さぶられる存在になど出逢いたくなかった。ましてやそれが根源到達の道具であるサーヴァントだなんて。
「後ろ暗い所がないのなら、先刻のように真っ直ぐに見よ。出来ぬというなら、」
 いつの間にか吐息がかかるほどに距離を詰められていた。逃げなくては、と思うのに。
 駆け去って動揺を静める隙を与えてくれない。
「嫌でも、我しか考えられぬようにしてやる」
 囁きかけられた耳朶がくすぐったい。身を捩ると痛いほどの力で抱きしめられた。
「やめて、ください……」
 肩を突き飛ばそうとしたが無駄な抵抗だった。おそらく、拒むほどに相手を煽ってしまう。



 その日、リビングから出ることはかなわないまま、時臣はギルガメッシュに抱かれた。
 いっそ乱暴にされたら恨むこともできただろうに、触れる手つきはどこか優しくて憎めなかった。
 情事を終えて立ち上がった彼女は、打ち合わせに訪れた綺礼が門扉を叩くまで、夫婦の寝室で泥のように眠った。



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