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つむぎとうか

   
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あいにいく
夏目漱石「夢十夜」第一夜のパロです。

 ギルガメッシュは夢を見た。

(夢? サーヴァントに眠りは不要のはずなのだが)
 靄がかった、何処だかもはっきりとしない空間で、足元や周りだけが鮮明に映っていた。
 常慣れた遠坂邸の寝室とは勝手が異なる。寝台以外の調度が何も無いのだ。
 それでも、白い寝具に頭部を押しつけているのは己を招いたマスターに相違なかった。
 枕元の椅子に腰掛けて腕を組んでいると、仰向けに転がった時臣が、静かな声で言う。
 会話を、しているつもりなのか。しどけない寝姿で、瞳を開くことすらなく。
 不敬だと罵倒してやろうかと思ったのだが、言われた内容に虚を突かれた。
「もう死にます」
 この男は誰を前にしてでも、決してこのような姿を晒したりはせぬはず。ましてや王の御前で(本心は知らぬが)、死ぬなどと後ろ向きな呟きを発することなどありえぬことだ。
 ならばやはりこれは夢なのであろう。
 茶色で少し癖のある髪を枕に散らして、時臣は彫りの深い顔立ちを横たえている。端整な頬の底に温かい血の色が丁度よく通い、顎の先にはきっちり揃えた髭。唇の色は無論紅い。つくづく赤の似合う男だ。
 死にそうにはとても見えない。
 しかし時臣は静かな声で、もう死にますと繰り返した。ギルガメッシュもぼんやりとこれは死ぬなと思った。そこで、「そうか、もう死ぬのか」と上から覗き込むようにして聞いて見た。

「ええ、死にますとも」
 告げながら、時臣はぱっちりと瞳を開いた。長い睫に包まれた奥は、一面の青。魔術で用いる宝石より美しいかもしれない。言ってやったことなどなかったけれど、ギルガメッシュは彼の持つ青には愛でる価値があると思っていた。
 そこに、己の姿が鮮やかに浮かんでいる。
 ギルガメッシュは透けるほど深く見えるこの碧眼の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。
 それで、疑うように枕の傍へ口を付けて、「死ぬのではなかろう、大丈夫だろう」と囁き返した。
 すると時臣は困ったように首を振って否定した。
「でも、死ぬんです、仕方がありません」
 じゃあ、我の顔が見えるかと一心に聞くと、見えるかって、そこに、いらっしゃるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。ギルガメッシュは黙って顔を枕から離した。
 時臣がこんな無邪気な笑みを見せたことはない。
 腕組みをしながら、どうしても死ぬのかと思った。だから、態度が違うのかと。
 普段あれだけ退屈だと評しているにも関わらず、死ぬと言われて心がざわつく理由が解せぬ。
 きっと夢だからだろう。

 しばらく経つと、時臣がまたこう言った。
「死んだら、燃やしてください。私の魔力を籠めた宝石を用いて、骨も溶かすほどの熱で。貴方が手ずから燃やし尽くしてください。残った灰は粉々に散らして、墓など作らなくていい」
 ――どうせまた逢いに来ますから。
 さすがは夢だ、有り得ぬことをほざいている。この男は気が触れても代々の魔術刻印を刻みつけた「遠坂の」遺体を燃やし尽くせ、などとは言わないだろう。娘の凛に継がせることしか考えておらぬはずだ。
 そのうえ、逢いに来ると? 顔を合わせては退屈と嘲るようなギルガメッシュの元に、死した後にまで?
 夢は本音を映す鏡でもあるそうだが、馬鹿な。これでは己が時臣に好かれたいみたいではないか。
 いつ逢いに来るんだと、声を掠れさせ問うた。
「王、待っていてくださいますか」
 ギルガメッシュは黙って首肯した。時臣はほっとしたように瞳を細め、思い切ったように声を張り上げた。
「では、百年待っていて下さい」
 不安そうに眉根をぎゅっと寄せる。その仕草は現実世界の時臣と寸分の狂いもなく、見惚れて夢だというのも忘れそうだ。
「きっと逢いに来ますから」
 ギルガメッシュはただ待っていると答えた。
 すると、安心したような微笑を浮かべて、時臣は眼をぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ伝う。
 あの青は二度と見られぬのか、と残念に思った。口元に手をかざしたが呼吸を感じられない。
 
 ――もう死んでいた。

 ギルガメッシュはそれから時臣が大事にしていた礼装の杖を携えて庭へ降りた。周りに立ちこめていたはずの靄はいつのまにか消えていた。
 杖に嵌めこんだ大粒のルビーを取り出す。主人の死も存ぜず輝きを放っている。
 地面に膝を突き、素手で穴を掘った。夢だからか作業は驚くべき速さで進んだ。
 やわらかな土をすくうたびに、星々が慰めるようにきらりと瞬いてくれた。
 しばらくしたら穴が完成した。時臣の亡骸をその中に入れた。
 そうして望まれたまま、宝石に充填された魔力で最大火力の炎を放った。
 おちてきた星の破片を拾って、穴のなかに埋もれさせ、灰だらけの穴に再び土を被せた。
(お前の言う通りにしてやったぞ。早く来い)
 ギルガメッシュは動かなかった。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組みを続けるだけだった。
 
 そのうちに、時臣の心血を注いだルビーのような朝日が昇り、夕刻に沈んだ。一つと数えた。
 しばらくするとまた紅の太陽が出て、黙って沈んでしまった。それで二つと数えた。
 こんな風に一つ二つと数えていった。赤い陽をいくつ見たか分らない。いくら数えても、数え尽くせないほどの日太陽が頭上を通り過ぎていった。百年はまだ来ない。
 もしかしたら、ギルガメッシュは時臣に意趣返しをされたのだろうか。待ったところで彼は来ないのではなかろうか。
 兆した疑いを払拭するかの如く、土の下から斜に自分の方へ向いてみどりの蔦が伸びて来た。
 水もやらぬのに、あっという間に長く伸び、ちょうどギルガメッシュの胸のあたりまででぴたりと止まった。
 痛い、棘が生えている、と思うと、蕾をつけて弁が開いた。

 それは一輪の薔薇の花だった。
 自然には咲かぬはずの、青い青い色をしている。
 再び彼の元に咲き参じた時臣の色に、はらり、意図しない涙を零す。

 彼方から声が降ってきた。
 ――王よ。お約束通り、逢いに来ました。
 ギルガメッシュは時臣の薔薇に接吻を落として、暁に染まる空を仰いだ。
 百年はもう過ぎていたのだと、ようやく気づいた。
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