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つむぎとうか

   
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今ひとたびの b
パラレル・時臣さん先天性女体化注意
凛ちゃんは時臣さんの妹
言時←ギル

 再会した彼女は、ギルガメッシュの知らない表情をたたえ、誰かと親しく話しこんでいた。
 衝撃で立ち眩みがしたのを覚えている。
『お久しぶりです、ギル。教えてくださればすぐに挨拶に行きましたのに』
 柔らかい微笑は美しいけれど、向けられる言葉はあの頃より遠い。
 “友人”の二人を紹介されたが、どちらも異性な時点で危機感が不足している。間桐雁夜は良いとして、言峰綺礼が時臣に注ぐ眼差しは不愉快だった。ギルガメッシュはつい彼女に八つ当たりした。
『ふん、つまらんな。我は冬木に新たな刺激を求めて来たのだ、お前なんかに構うためではない』
 どこまでも本音とは真逆な嫌味をぶつけてしまった。
 業腹なのは時臣の反応だった。怒ったり皮肉を返されたりしたら、そこから新たな会話に持ち込めたのだろうが、彼女はそうですか、と首肯したきり、何の意見も唱えなかったのだ。

 雁夜は遊んでばかりのギルガメッシュに説教してきたり、綺礼は聖職志望だから呆れながら止めたりした。でも、彼女だけが頑として関わりを持とうとはしなかった。
 婚約者の不真面目な行状に腹でも立てていたのか。ならば意地を張らずに直接会いに来たらいいのだ。
 ギルガメッシュに自ら歩み寄る考えはなかった。

 あれほど楽しみにしていた彼女との逢瀬も、不在の溝を埋めるには足りず。
 退屈も悪くはなかった。話は弾まず一方通行気味だったが、たまには黙って息を吐くだけの時間があってもいい。
 ただ、ギルガメッシュは待ち合わせをよく忘れた。責められたら改めるかもしれないのに、時臣はやはり何も言わなかった。回数が重なれば罪悪感も薄れていく。
 結婚すればいくらでも共に過ごすのだから、と、己の不実にも鈍感になっていった。

 

 友人という観点でならば、綺礼はギルガメッシュの興味を掻き立てる人物だった。
 しかし彼は時臣に恋焦がれている。彼女と婚約していることを打ち明けると、ひどく傷ついたようだった。もちろんギルガメッシュは牽制するつもりで言った。
『時臣は我の許婚だ。政略結婚など冗談ではないが、逆らう道理もないしな。はは、驚いたか?』
 いくら気に入っている男であろうと、渡す気にはなれない。綺礼は真面目な性格だから、奪おうとまでは考えつかないはずだ。重ねて念を押した。
『――そういうことだから、妙な気を起こすなよ?』
 警告したつもりが、裏目に出たことを知るのはすぐ後の話だ。

   +++++

 時臣の誕生日は、指切りが成立した記念すべき季節でもある。
 ギルガメッシュはわざわざ約束するために遠坂邸を訪れた。祝ってやるから、と伝えると、彼女は嬉しそうに頷き返した。

 プレゼントを忍ばせて、軽い足取りで待ち合わせ場所に行く途中で、よりによって顔見知りの女に遭遇した。
 それも、単なる知り合いではない。ギルガメッシュは一、二度デートに誘っただけだが、相手には恋人認定されたうえでフラれたと恨まれていた。……騒がれないよう宥めるのに骨を折った。
 逆上されると面倒なので下手に出たが、内心には侮蔑と嫌悪しかない。
 時臣をつまらないと称するギルガメッシュにとって、大多数の女は問題外だ。眼中にすら入れず、欲しいと望むのはいつまでも一人だけ。
 そのことをそっと伝えてみようか。

 指定した時刻からは二時間弱が立とうとしている。今回ばかりはわざとじゃないが、いつもは時臣が一時間だけ待ってくれていることを知っていた。
 彼女はもう帰っていることだろう。プレゼントは家で渡せば良い。
 万一すれ違ったら困るので、待ち合わせ場所は一応覗いておくことにした。



 ギルガメッシュが遠目に見たものは。
 泣きながら後輩の男に縋る婚約者と、
 彼女を抱きしめながら何事かを囁く、先日忠告をした男だった。
(我の前では、弱音など一切吐かぬくせに――)

 彼の苛立ちに呼応するように、雨音が一層酷く打った。



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